(会場の根津美術館入り口風景)

東京南青山の「根津美術館」では、9月2日(土)~10月15日(日)にて、企画展「甲冑・刀・刀装具展 -光村コレクション・ダイジェスト-」が開催されています。

(展示場の入り口風景)

初代の根津嘉一郎は、明治42年(1909)に、3000点にもおよぶ刀剣、刀装具のコレクションを一括購入しました。
渋沢栄一渡米団の一員だった根津嘉一郎が、横浜で渡米直前に購入したものです。

このコレクションを築いたのが、実業家・光村利藻(号 龍獅堂、1877~1955)です。長男の初節句のためにと本物の緋威の甲冑と陣太刀を購入して以来、わずかに10年間の期間で
収集したものです。刀装具を中心とした質も資料性も非常に高い作品群です。

今回の展覧会では、現在根津美術館が所蔵する約1,200点の光村コレクションの中から選りすぐった作品を、初めて甲冑を交えてご紹介します。

題して、根津美術館の「甲冑・刀・刀装具―光村コレクション・ダイジェスト」。

内容は、近年話題の刀剣女子にも見ごたえがありそうな、甲冑と刀に刀装具を含めた総合的な麗美な展示会です。

だから、刀剣女子は急げ!

(エントランスホールの仏像の一部の風景)

(「甲冑」会場入り口風景)

根津美術館の6つある展示室のうち、まず、本展覧会の中心である1階の2つの展示室は、1,200点の中から選りすぐられた「蒐集のはじまり」としての「甲冑・刀・刀装具」104点の展示です。光村氏は、神戸の自邸にて、しばしば秘蔵コレクションを公開していましたが、そのひとつが「浅葱紺糸威胴丸具足」(江戸時代)です。

昨年重要文化財に指定されたばかりの「黒韋肩取威腹巻」(特別出品 室町時代・16世紀)は、別に根津嘉一郎みずから購入した優品です。

(紺糸威鎧 日本・江戸時代 18-19世紀)

(左から紺糸威鎧・浅葱紺糸威胴丸具足(いずれも江戸時代18-19世紀)・紺糸威胴丸具足(江戸時代 19世紀))

(左から采配・紺綾地五鐶桐紋付陣羽織・白羅紗地五鐶桐紋付陣羽織 いずれも日本・江戸時代 19世紀)

次に、古刀、新刀、さらに刀工の月山貞一への注文制作3点を含む「刀」の展示です。時代的にみますと、古刀と新刀の区分けは、慶長期を境とします。そして、江戸の初期の頃になるとその差異は、はっきり見えてくるといわれています。古刀は備前ものが多く、新刀は光村の出身地の神戸、大阪のものが多いのも特徴となっています。

鎌倉期の太刀の名刀「銘 長光」(重要美術品 鎌倉時代・13世紀)や尼子氏ゆかりの短刀 銘 備前国住長船治光/佐々木伊豫守」(室町時代・15世紀)も展示されています。モダンともいえる「刀装具」のきらびやかな「しつらえ」も。

(桜紅葉蒔絵太刀拵(こしらえ) 日本・江戸〜明治時代 19〜20世紀)

(短刀 銘 長谷部國信」(南北朝時代 14世紀)、「朱漆刻鞘担当拵」(金具:後藤一乗作 江戸~明治時代 19世紀))

最後の「刀装具」は、幕末から明治にかけての作品が中心です。この展示では、「刀装具」に関する記録と技術保存の観点から工夫されています。展示された多くの「鐔」(後藤一乗・大月光與一門など)には、それぞれに金工の技が工夫されて施されています。

その中でも、「地獄大夫図鐔」は、当時の人気のあった遊女と一休宗純をめぐる画題から来ているものです。また、「鬼念仏・笛吹地蔵図目貫」(大月光弘作)の1組の作品は、京金工の大月派の作品です。鬼が念仏を唱え、地蔵が笛を吹いています。繊細な彫りと地金の交叉した「しつらえ」には、民藝を創設した柳宗悦も関心があるだろうと思われるほどの、見どころのある名品です。

(右 松下遊羊図鐔・左 杉月図鐔 ともに日本・江戸時代 19世紀)

(右 弓箭白鳩図二所物(小柄・笄) 日本・江戸時代 19世紀・左 螭龍図鐔 日本・江戸〜明治時代 19世紀)

(右 廿四孝図(揚香)縁頭 日本・江戸時代 18世紀)・左 波鯉図鐔 日本・江戸時代 18世紀)

今回は、さらに同時に開催されている2階の展示室へと足を運んでみました。

3つの展示室が、私の興味を深く誘います。

展示室4は、よく知られる「双羊尊」(重要文化財 中国・おそらく湖南省 紀元前13〜前11世紀)をはじめとする作品に「戦国時代の鏡」を加えた古代中国史を飾る青銅器の展示室です。

次に、展示室5は、東大寺二月堂で江戸時代に焼失した奈良時代の写経の一部「二月堂焼経」(重要文化財 日本・奈良時代 8世紀)です。これは、紺地に銀字で写経された紺地銀字経といわれる「華厳経」の一部の焼経ですが、修復する以前の写真とともに比較されて展示されています。その他、なかなかみることのできない逸品の、唯識学の重要な論である「瑜伽師地論」(重要美術品 日本・奈良時代 8世紀)が展示されていました。

そして、毎回季節の茶道具の取り合わせが楽しめる展示室6は、江戸時代の京都・野々村仁清作の「色絵武蔵野図茶碗」(重要美術品 日本・江戸時代 17世紀)を中心とする「月見の茶」の展示です。この展示室の品々は、秋の夜の澄んだ空気の中で、月見をする習慣のあった当時の面影を偲んで、月にまつわる茶道具をテーマに展示されています。「色絵武蔵野図茶碗」は、北大路魯山人がしきりに「写し」た「武蔵野」のひとつではないかと思われます。

(中国古代青銅器の展示室4)

(展示室5 華厳経 二月堂焼経の一部)

(展示室6 野々村仁清「色絵武蔵野図茶碗」(重要美術品 江戸時代 17世紀))

(六角桐文銚子 高橋因幡作 江戸時代〜明治時代 19世紀)

今回の展覧会開幕の前日には、主催者による報道機関向け内覧会が開催されました。

担当学芸員から展示に関する説明を受けると、思い思いに展示室にむかいましたが、そのうちに、各展示室では、「鎧」「刀」「鍔」などがひしめくようにして、目の前に現象してきます。そこに浮かんでくる映像とともに脳裏に蘇ってくるのは、小林秀雄が書いている『芸術随想』の「古鐔」と「鐔」の文章でした。

「刀には、私はまるで不案内である。手を出したらさぞ面白からうとは、かねてから思っていたが、刀を持ち込むのを家人がひどく嫌うので、手を出さずにいるまでだ。刀屋と附合いがあるのは、近頃、時々鐔を買うからである。」(小林秀雄「古鐔」より)

「鉄鐔の表情なので、眺めていれば、鍛えた人の顔も、使った人の顔も見えて来る。観念は消えて了うのだ。感じられて来るものは、まるで、それは、荒地に芽を出した植物が、やがて一見妙な花をつけ、実を結んだ、その花や実のもっともな心根のようなものである。」(小林秀雄「鐔」より)

暑い日がつづいています。

新潟や青森などの東北地方や北海道では、猛暑や豪雨の災害を受けています。

この暑さは、夏の終わりを通り過ぎて、秋半ばまでつづくとの予報もあるようです。

 こんなときには、南青山を散歩しながら、ぜひ根津美術館の「刀剣コレクション」を覗いてみてはいかがですか。

https://www.nezu-muse.or.jp
(根津美術館公式サイト)