「Pearl パール」

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常に一捻りした題材とそのユニークな処理法で話題を呼ぶ作品を配給しているA24の新作にして、際立った演出、演技が印象的な作品、それがニュージーランドで撮影された「パール」だ。

2022年作『X エックス』の前日譚にあたり、同作に登場した史上最高齢のシリアル・キラー老嬢パールの若かりし日が描かれる。監督は同じタイ・ウェストで、ミア・ゴスが再びパールを演じ、二人で脚本を執筆している。
 パールは一見するとティーンのような若い娘だが、これでも人妻だ。往年のハリウッド映画を思わせるクレジットのレイアウト、字体が、観客にこれから始まる映画は通常とは違うんだぞと予告しているみたいだ。さらに大仰なまでに響く伴奏音楽、あざやかなテクニカラー風の映像が効果を倍増させている。

 スペイン風邪が世界的に流行した1918年、テキサス州の田舎ののどかな農場に住むパールは、厳格なドイツ系の母の監督の下で家畜の世話や、車椅子に乗せられ喋ることはおろか、体を動かすことすらできぬ父の介護もしなければならない生活にうんざり。銀幕で踊るダンサーにあこがれているが、今のところ彼女のダンスを見た者は牛や豚といった家畜のみ。
 田舎から出たい一心で、町の名家の若者ハワードに目をつけ、何とか結婚までこぎつけたものの、一緒に家を出るどころか、ハワードは軍に志願してヨーロッパに行ってしまった。鬱屈した気持ちは収まり切れず、鵞鳥をさすまたで突き刺し、湖に生息するワニに餌として与えてしまう。父の薬を買いに町まで出かけ、映画館でレヴュー映画を鑑賞し、スター熱は高まるばかり。映写技師と知り合いになり、フィルムの一こまをもらったりした。
 ハワードの妹ミッチィが耳寄りなニュースをもたらした。全国ツアーに連れて行くダンサー選出のため、土曜日に教会でオーディションが開かれるというのだ。スターへの階段の第一歩を歩むきっかけが到来した。邪魔する者は容赦しないと決意は固く、「思い通りにならないのが人生よ」と言い、「お前は悪に蝕まれている」と断言する母も例外ではない。母を事故死させた後は、タガがはずれたように殺人が続く。さすまた、斧といったありふれた農器具で殺害するところがえぐいし、赤い血がべっとり手についている煽情的な演出も作品に合っている。

 前年の1917年4月にアメリカはドイツに宣戦を布告し、本作のハワードのように多くのアメリカ人がヨーロッパ戦線に従軍。アメリカ国内におけるドイツ系移民が迫害されたこともあったようだが、少なくとも映画内では母親の言葉のみで差別された描写はない。彼女が娘を叱りつける時はわざわざドイツ語を使い、その言葉の調子がことさらにパールを縛り付けずにはおかない。映画が娯楽の王様であり、数多くの若い女性が映画スターを夢見た時代の世相がうまく描かれ、さまざまな映画を連想させる場面がちりばめられているのも面白い。
“幻想と現実がごちゃ混ぜになっている”パール役を、ミア・ゴスはせりふ回し、顔の表情、身振り手振り、すべてのアクションを演技に注ぎ、まさに全身全霊をささげているように思えた。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。 

『Pearl パール』予告編

7月7日(金)公開 『Pearl パール』予告編

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監督:タイ・ウェスト   
脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、
マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ

配給:ハピネットファントム・スタジオ   

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公式twitter:@xmovie_jp

|原題:PEARL|2022年|アメリカ映画|上映時間:102分|

全国公開中