《ホラーの帝王》巨匠ダリオ・アルジェント監督の最新作『ダークグラス』が、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ他にて絶賛全国順次公開中です。

《ホラーの帝王》として知られる巨匠ダリオ・アルジェント監督。『サスペリア』(77)で驚異的大ヒットを記録し、『フェノミナ』(84)や『サスペリア PART2』(75)など数々の名作を生み出してきた。その誰にも模倣できない鮮血の美学は、リメイク版『サスペリア』のルカ・グァダニーノ、『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン、さらにはクエンティン・タランティーノらを熱狂させ、世界中のクリエイターに影響を与え続けている。そのアルジェントが82歳にして、前作から10年ぶりに完成させた本作は、自身のルーツであるジャッロに立ち返ったイタリアン・ホラー。2000年代初頭に脚本を執筆しながらも、製作サイドの事情で中止を余儀なくされた幻の企画がついに実現。盲目のヒロインがサイコパスの殺人鬼に脅かされる“見えない恐怖”をスタイリッシュに映像化し、第72回ベルリン国際映画祭におけるプレミア上映で大きな反響を呼んだ。

このたび、10年ぶりの公開を記念して、公開翌日の4月8日(土)、新宿武蔵野館の上映にトークゲストとして、メジャーデビュー35周年を迎える筋肉少女帯や特撮のボーカリストである大槻ケンヂさんとアートディレクターで映画ライター、サタニストの高橋ヨシキさんが登壇し、ホラーの帝王ダリオ・アルジェント監督の“ジャッロ”原点回帰作でもある本作の魅力について語り尽くしました。

以下、レポートとなります。

日時:4/8(土) 13:10〜13:40※上映後実施
会場:新宿武蔵野館(東京都新宿区新宿3-27-10武蔵野ビル3F)
登壇:
大槻ケンヂさん(ロックミュージシャン)高橋ヨシキさん(アートディレクター/映画ライター/サタニスト)

公開翌日の4月8日、悪天候の中『ダークグラス』上映後に行われたトークイベント。 会場は、本作を鑑賞したばかりの多くの映画ファンたちの熱気で溢れる中、大槻ケンヂさんと高橋ヨシキさんが登壇!

好きです。80年代のレンタルホラー映画ビデオのムードが懐しコワい。目の見えない娼婦と少年のバディムービーというところもほっこり。たまによくわからなくなるとこもアルジェント。
〈大槻ケンヂさんコメント〉

大槻ケンヂさん(ロックミュージシャン)

ダリオ・アルジェント監督10年ぶりの最新作公開となった本作について高橋さんは、「意外なことに、みんなほっこりしているのではないかと思うんですけど。ダークグラスを見てものすごい衝撃を受けたのは、ほっこりして終わる」とホラー映画を観た後とは思えない感想を述べる。
それに「ええ話ですよね、本当に」と大槻さんも頷く。
「アルジェントは非常にサディスティックな映画作りで知られる人ですから、今回もそうくるかなと思っていたんですけど、いい話だったことがすごいサスペンス!」と今までのアルジェント監督の作風とは違った印象に驚く高橋さん。
大槻さんの感想は、「ヒロインが、目が見えなくなったことで見えてきた信頼の絆みたいな、あれ?いい話?っていう。個人的には、娼婦の彼女の目が見えなくなってごめんなさいねと言ったら、お客さんが「むしろ醜い僕が見れなくなって嬉しいくらいだよ」と。めちゃいい客!」とやはりほっこりしたエピソードを展開
高橋さんも「あいつは超いい客!お金足りないと言ったら秒できてくれるし!」と同意しつつ、「最初見た時驚いたシーンで、目の見えない人の話ですから、「ここにお金置いておくね」とか言って、全然置いてないとか偽札だったりとかも考えたんですけど、コイツだけは絶対そういうことしない男だってちゃんと分かるんですよね。」とヒロインの常連客のいい人エピソードに注目。
大槻さんは「彼、ガチ恋ですよね。ちょっと切なくなるんですよね」と会場の笑いを誘い、出番は少ないが良いキャラクターについて大いに盛り上がるお2人。

アルジェントの『ダークグラス』越しに、『わたしは目撃者』となって『ジャーロ』の『インフェルノ(地獄)』を見る。『スリープレス』な夜に轟く『鮮血の叫び』に、我々は『血の喝采』を送るのだ!
〈高橋ヨシキコメント〉

高橋ヨシキさん(アートディレクター/映画ライター/サタニスト)

本作について大槻さんは「首を切られるところや、いくらでも血が出るところとか、全体を通して80年代のレンタルビデオ屋さんで借りたホラー映画のムードが色濃くあって、何周か回って今のお客さんには新鮮に感じるのではないかと思いますね」と本作へ寄せたコメントでも言及していた80年代のムードがあると語る。
それに対し高橋さんは「今、映画って、たとえば『ジョン・ウィック』のようなアクション映画は、どこまでも足し算じゃないですか。」と話すと、「ずーっと戦ってますもんね!」と合いの手を返す大槻さん。高橋さんが続けて「そう、メガ盛りみたいになってて。で、たとえばホラー映画だと僕は死霊館シリーズとか好きなんですけど、本当にジャンプスケアが多くて2分に1回くらいあるんです。実はジャンプスケアが超苦手で、椅子からずり落ちそうになるんです。安心して見れないじゃないですか。そこが、『ダークグラス』のような作品だと、まったりその世界に浸りながら楽しめるというのが、新しく感じますよね」と高橋さん。
それに対し大槻さんは「かつ、不安を煽る画面作りとか奇妙なカット割というのが、僕はあまりアルジェントに詳しいわけではないんですけど、アルジェントっぽさがあって、これは良いんじゃないかって思いますよね。」と新しさの中にもアルジェント監督らしさの片鱗が見える点について語る。
「それズルじゃない?ズルぎりぎりみたいな犯人明かしもなくて、そこも安心要素。素人探偵ものになっているわけでもなく、今までのアルジェントの定型、みんなが思い浮かべるようなものとはやっぱりちょっと違うと思うし、あと、アルジェントは、全部じゃないけど観客と殺人鬼を一体化させようとする監督。犯人のPOVでザクザク殺すところを見せたり、犯人を上から見せてる時に犯人目線になったりとかが多かったんですけど、今回は別にそういうことがなくて、あ、これ犯人の気持ちで撮っていないんだと思った。」とアルジェント監督が本作で見せた新境地について高橋さんは語った。

劇伴について大槻さんは「音楽もちょっと懐かしい感じ。アルジェントの映画はゴブリンとか『インフェルノ』ではキース・エマーソンがやったりとか、今だとどうかなという感じだけど、何周かして良い味だなーって」と語る。
それに対し高橋さんは「映画音楽にも流行り廃りがあって、もうそろそろ収まってきたと思いますけど、一時はドンドコドンドコドンドコドンドコドコドコドコーという感じのを15年くらい続いていたんですけど、今回のようなものを聞くと、あぁほっこりと落ち着ける感じがありますよね」と劇伴にもほっこり感を感じると語る。
ホラー映画と音楽について大槻さんは「僕の印象では『デモンズ』くらいからドンドコドンドコとメタルがかかり始めてきた記憶があるんですよね。『フェノミナ』で虫か何かを見つけるシーンで、意味なくメタルがかかるっていうのがすごいツボで」とホラー映画における劇伴の傾向を語った。
高橋さんは「『オペラ座/血の喝采』も殺しのシーンになるといきなりメタルがかかるんですよね。で、この作品はLPで2枚アルバムが出てるんですけど、片っぽはオペラの曲しか入っていなくて、片っぽはメタルのみというちょっとよく分からないんですよね」とちょっぴり不思議エピソードを話した。
続けて大槻さんは、「僕はメタルっぽい音楽をやってるんですけど、ホラー映画でメタルがかかるのが基本嫌いで、合ってない!と思っちゃう。特に歌が乗ってると、どうせくだらねぇこと歌ってるんだろうなって。大筋でいうと蝋人形の館みたいな歌詞なんだろうなって思う。いや、蝋人形の館はいい曲ですよ。」と笑いを交えながらホラー映画のメタル仕様について自論を展開した。それに対し高橋さんは、「メタルとホラー映画の関係は80年代からあって、『13日の金曜日PART8 ジェイソンN.Y.へ』で、船でニューヨークに行くんですけど、船の中のディスコルームでメタルが爆音でかかってるっていう。意味がわからないですよね、ディスコルームなのに」と、ホラー映画とメタルの不思議な関係性について語ると、大槻さんも「いい話ですね」と笑いながら返し会場は笑いに包まれた。

大槻さんが「そういえば、高橋さんはローマでアルジェントのホラーショップに行ったんですよね?」とアルジェントにまつわる高橋さんのエピソード伺うと、「“Profondo Rosso“という『サスペリアPART2』の原題が店名のホラーショップがあって。本とかホラーマスクとかが売ってます。ルイジ・コッツィという『スタークラッシュ』の監督が店番をしてますね。で、その地下には”アルジェントお化け屋敷“みたいのがあって、2、3ユーロ渡すとルイジ・コッツィがテープをかけてくれて、英語か何かで怖いこと言って、赤と緑の照明の中でアルジェントの映画のパチモノとか牢屋みたいなのがあって」と語り、それを聞いた大槻さんが「昔の東京タワー蝋人形館みたいな!かなりいいですね」と合いの手を返し「そうそう!それに近いですね!」とアルジェントお化け屋敷の雰囲気が伝わる会話を展開。「「明日アルジェント来るんだけど来たらいいじゃん!」とルイジ・コッツィに言われたけど、明日朝一の飛行機で帰るから残念ですって伝えたけど、それが1番アルジェントに近づいた日でした。」とアルジェントファンにはたまらないエピソードも教えてくれた。

高橋さんは『ダークグラス』の宣伝について「海外でも日本でも宣伝が難しいかなと感じた。 “ホラーの帝王カムバック”というのは本当のことだし、その要素もたっぷりあるし、血もいっぱい出るけれども、見終わったら初めにも言いましたが、にっこりほっこりみたいな、じわーんといい話だったなと。子供とも、いつかまた会えたらいいなと思ってもらえるわけじゃないですか。これをうまく宣伝するっていうのは難しいですよね。」と話すと、それに対し大槻さんは、「うーん…。まぁ温かみもあるよ!というか。みんなでツイートするといいですよね。おぞましいがほっこりする!みたいな」と返す。すると高橋さんは「素晴らしい!それがいいんじゃないですか。」と会場全体が笑いに包まれた。
大槻さんは、「さっき言われて気づいたんですけど、『ダークグラス』のフライヤーが『ゼイリブ』のポスターのパロディになっているという。アルジェントの作品をジョン・カーペンターというところが、なんというかいいなと思いました。」と本作とジョン・カーペンター監督にある共通点について話す。「カーペンターの『ハロウィン』に『サスペリアPART2』がすごい影響与えていて、そういう行き来がある。マリオ・バーヴァの『血みどろの入江』の殺しは『13日の金曜日PART2』に影響を与えていて、スラッシャー映画とジャッロというのは影響の関係があるので、それを考えるとあいこというか」とそれぞれに影響しあっている関係性について高橋さんが話した。
すると大槻さんは「なるほど。だから今の若い人には、今ある映画の元を作った人の新作だよ!て感じで勧められますよね」と話すと高橋さんが「そうですよね。ただ本当に難しくて。『ブレードランナー』を見せると、これよくあるやつじゃないですかと言われちゃって。控室でも話しましたが『燃えよドラゴン』も見せると、こういうのいっぱいありますよねって。そうじゃなくて!っていうことを説明するのが難しい時代になってる」と巨匠の作品の在り方についても語った。 続けて高橋さんは「逆にアルジェントの昔の映画は今見てもオリジナリティというかユニークさが際立っていて、今の若い人が見ても全然通用すると思いますね。だからこそ今でも世界中で人気」と讃え、大槻さんは「ほんとスタイリッシュでアートですよね」と 頷きながらアルジェント監督作の魅力を話した。

最後にお2人から一言ずついただいた。 高橋さんは、「もう82歳ですけど、まだ元気でこういうアルジェントらしさが存分にありながら、かつまた新しい境地を見せてくれたことはとても素晴らしいことだと思いました。ありがとうございます。」とアルジェント監督へ新作公開の喜びと感謝の意を述べ、大槻さんは、「ダークグラス公開記念で、『サスペリア』とか『サスペリアPART2』とか上映されて、過去に観た映画を劇場で観ると、本当に当たり前の話なんですけど、新たな発見がたくさんあるなと思って、また色々観てみようと思った。僕、よくここに普通にお客さんで観に来てるんですよ。しょっちゅう来てる。ここかシネマカリテかシネマート新宿か。そういうよくいるお客さんです。なので、逆に壇上に上がれて光栄です。」と名作への想いと映画ファンとしての一面を語り、大いに盛り上がりを見せる中、トークイベントは終了した。

『ダークグラス』予告

4/7(金) 公開 ダリオ・アルジェント監督最新作『ダークグラス』予告

youtu.be

<STORY>
イタリア・ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生。その4人目のターゲットにされたコールガールのディアナもまた殺人鬼に執拗に追いかけられ、ある夜、車を衝突させられ大事故に遭い、一命は取り留めるも両目の視力を失う。同じ事故で両親を亡くした中国人の少年チンとディアナに絆が生まれ、一緒に暮らすこととなるが、サイコパスの殺人鬼はその後もしつこくディアナたちを殺害しようとつけ狙う。

監督:ダリオ・アルジェント 
脚本:ダリオ・アルジェント、フランコ・フェリーニ  音楽:アルノー・ルボチーニ  

出演:イレニア・パストレッリ、アーシア・アルジェント、シンユー・チャン 

2021年/イタリア・フランス/イタリア語/85分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:Occhiali neri/日本語字幕:杉本あり PG12

提供:ロングライド、AMGエンタテインメント 
配給:ロングライド

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほかにて絶賛全国順次公開中