3月10日〜19日まで開催された大阪アジアン映画祭。
同インディフォーラム部門で、舩橋淳監督の最新作「過去負う者」のワールドプレミア上映が行われた。
坂本龍一が音楽を手掛け、福島原発事故を描いた『フタバから遠く離れて』(2012)がベルリンで初披露後世界40カ国以上で公開。日韓合作メロドラマ『桜並木の満開の下に』(2013)でベルリン国際映画祭へ5作連続招待の快挙を果たし、前作「ある職場」では実在のセクハラ事件を劇映画化するなど、ドキュメンタリーから劇映画まで境なく挑み続ける舩橋淳監督。
今回、実在する受刑者向け就職情報誌の活動にヒントを得て作られたドキュ・フィクションとして「過去負う者」を撮り上げた。
大阪梅田シネリーブルで行われた初上映後舞台挨拶の様子をレポートする。
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(上映終了後、会場拍手のあと、監督・俳優登壇)
大阪映像文化振興事業実行委員会・上倉庸敬(司会)
「舩橋監督、ご出演の皆さん、いま映画をご覧になって、一番お話ししたいことは何でしょうか」
舩橋淳監督
「僕はずっと社会の根底にある、時代の無意識のようなものを映画ですくい取る作業を続けています。
今回は、随分前から気になっていた自己責任社会の息苦しさを描いてみようと思いました。
有名人の場合、過去に犯した過ちが明るみに出るとネット社会の誹謗中傷が拡大して、キャンセルカルチャーがいま問題になってます。有名人でなくとも、この社会復帰の難しさというのは実は変わらない、過去の過ちによって社会からいったん否定されたら、もう一度やり直すのはとてつもなく難しい。
日本は再犯者率50%、EU諸国25〜30%である一方、世界最悪はアメリカで68%。
世界的に日本はとても高い方なのですが、それは元受刑者への差別・偏見が社会の根底にあるから。
この問題を映画として描くことができないかと思っていたら、「Chance!!」という受刑者のための就職情報誌に出会いました。本来、国や役所がやるべきことを、民間で少人数のスタッフでやっている。
受刑者が出所して就職する場を紹介していて、社会での居場所と出番を与えている。この活動に感銘を受けまして、取材を行い、実際にその組織を通して就職した元受刑者にもあって話を聞きました。
そこで僕が感じたのは、一歩間違ったら自分も罪を犯すかもしれない、
自分と彼らはなにも変わらない、同じだということでした。
この取材をベースに、日本でもよくある犯罪を犯してしまった人々について役を設定し、フィクションとして劇映画にしました。前作「ある職場」と同じ俳優さんたちと、同じ演技アプローチで。(俳優の)みんなには、自分ごととして、自分がやってしまうならどんな状況なのかということを考え抜き、役を掘り下げてもらいました。」
俳優・辻井拓
「スタートした時は、普段の自分ではない演技、アプローチでやってみようということで、あの役の感じになりました。自分たちで調べて、台本もなく即興でやったので浅い部分もあるかもしれないけど、他にはない映画だと思う。少しでも何かを感じていただけたらなと思う。」
俳優・久保寺淳
「この世の中には、いろんな人がいろんな気持ちを抱えていると思うんですけど、普段なかなか気づかれない存在にふっと光を照らしてあげられるのが映画の力だと思うので、私たちのこの作品もそんな風になれたらいいなと思ってます。」
俳優・田口善央
「この映画で三隅という役を演じていくにあたって、明日は我が身だと感じるようになりました。後半のシーンで、おそらくですが誰か一人の意見が自分の意見に近いと思われた方がほとんどだと思います。ただ舞台の反対側にいた自分が思ったのは、例えば、もし自分が本当に困窮してしまって、火事などで全財産をなくしてしまって、一週間一ヶ月、食べるものがなかったら、食べ物を盗まないと言い切れるのかとか、本当に言い切れるのか。そんなことを考えながら自分の役を演じました」
俳優・峰あんり
「放火の罪を犯した島あんりの役を演じました。監督から最初に放火の罪の人の役と言われ、いろんな人の体験を調べ、自分ごとのように役を作っていったんですけど、放火が弱き人間の罪であるということを知りました。演じて感じたのは、人は一人では生きられないということ、周りに支えてくださる人がいてこその自分だと思う。本当にしんどかったんですけど皆さんに伝われたらいいなと思います。この映画見たらヘトヘトになり、たくさんカロリー使うんで、見た後ご飯たくさん食べてください!」
俳優・紀那きりこ
「覚醒剤を使用してしまった森文(あや)役を演じました紀那きりこです。
この役を自分ごとにするというのは、すごく苦しくて、即興だったので自分に全て託されていると思うと、1シーンごとの緊張がすごくて、終わった後も私は演じきれたのかな、と思うことも多かったんですけど。「どうしたら赦してもらえるのか」ということがテーマだったと思うんですけど、私もたくさんの失敗や間違いを人生でしてきて。誰かに赦してもらったりしてきたと思うんですけど、中には赦してくれていない人もいると思う。でも、許してくれない人ばっかりだったら、どうやって生きていくんだろうと。。。自分は何を赦してきて、何を赦してこなかったのか、とも考えてしまう作品です。ぜひご感想を聞かせてほしい」
上倉(司会)「いかに監督が、俳優さんの主体性っていうか、自由に演じさせて、しかも自分の意思を飲み込ませていたかということをとてもよくわかるお話でした。映画の中では、バサっといきなり入る黒の画面の使われ方がとても印象的で、そこで何がおきたのか、わからないようなフィルムのつなぎ方でした。監督はお一人で監督、脚本、カメラに編集まで、全てに満足ゆく、そして考えさせられる映画でした」
舩橋監督「社会の不寛容と硬い言葉を使うと、人は自分の中で関係ないと一線を引いてしまう。自分の隣にそういう人(出所者)がいたらどうなのか、を問う映画、我々に関して問われている映画だと思っていただけたら、と思います」
上倉(司会)「十分受け止められたと思います。それぐらい隙のない映画でした。ありがとうございました」
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映画「過去負う者」とは
「フタバから遠く離れて」「ポルトの恋人たち」「ある職場」の舩橋淳監督最新作!
人はどこまで過去を背負い続けなければいけないのか?
自己責任社会のハラワタを刳るドキュ・フィクション
ひき逃げによる殺人罪で10年服役して出所した田中は、中華料理屋で職を得たもののトラブル続きだった。彼に職を紹介した就職情報誌「CHANGE」の藤村は、社会の差別と不寛容に苦しむ前科者を目の当たりにし、アメリカの演劇による心理療法・ドラマセラピーを始める。元受刑者5人と稽古を重ね、舞台『ツミビト』を公演するまでに至るのだが、初日の観客の反応は全くの予想外だった…。
現在、再犯者率はEU諸国で平均25−30%、日本では50%に達している。この国の自己責任社会は「やり直しのできない社会」を生んでいる。実在のセクハラ事件に基づいた前作『ある職場』(2022)のキャスト・スタッフ陣とともに、舩橋淳は新たな社会問題を活写。人はどこまで過去を背負い続けなければいけないのか。
2023年後半 劇場公開予定。
出演:辻井拓/久保寺淳/紀那きりこ/みやたに/田口善央/峰あんり/平井早紀
/満園雄太/伊藤恵/小林なるみ/木村あすみ
2023年 / 125分 /カラー/ 16:9 / DCP