「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2023 道を拓く女たち」(主催:ゲーテ・インスティトゥート東京、共催:German Films)が4月20-23日、ユーロライブにて開催決定、ポスタービジュアルが完成しました。
ポスタービジュアルのメインスチールは、第72回ベルリン映画祭、脚本賞・優秀俳優賞受賞作品『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』より。映画祭メインテーマであり、ポスターコピーでもある「道を拓く女たち」をパワフルに表現しています。
【映画祭の見どころ】
今年のドイツ映画祭では圧力に屈せず自分らしく挑戦する女性を描いた作品や女性監督による作品が集まっています。「道を拓く女たち」を映画祭のテーマに掲げ、5本の劇映画と2本のドキュメンタリーをラインナップしました。
政治の世界の女性を追った『フェモクラシー』、差別に負けないベルリンの若者を描いた『私はニコ』、不法拘束された息子を取り返すべき母親が奔走する『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』など、状況や問題はそれぞれでありながら、世の中の不平等に向き合う女性たちの姿があります。そのように挑戦する女性たちはカメラの後ろにも存在します。例えば、女性監督によるドキュメンタリー映画『バッハマン先生の教室』は、独特の教育法で生徒と接するバッハマン先生のクラスを通じて、多文化社会の共生について、教育の未来への示唆に富んでいます。他にも、何気ない会話に人間観察の鋭さが含まれる『あしたの空模様』や、視線や仕草に主人公女性の心情を描き出した『焦燥の夏』など、制作側においても女性の活躍が注目されます。
オンラインによるトークやディスカッションも実施し、ドイツ映画界が誇る気鋭の監督や俳優に、それぞれの作品の見どころ、そして作品に込めた思いを深く語っていただきます。
また、3月8日の国際女性デーにちなみ3月7日、映画祭プレイベントとして、『フェモクラシー』試写と、トークが予定されています。トークゲストは『フェモクラシー』出演のニッケルス議員と、U30世代の政治参加を推進するアクティビスト能條桃子さん。来場者の質問に応えながら『フェモクラシ―』を切り口に様々な課題について語り合います。国も世代も異なるものの、平等な政治参加に尽力する二人のトークが期待されます
【映画祭受賞作品の数々をセレクション】
2022年のドイツ映画賞を9部門受賞で、まさに総なめにした『ディア・トーマス 東西ドイツの狭間で』、同賞でやはり複数受賞をしている『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』はベルリン映画祭でも2部門で銀熊を受賞。その前年に銀熊を受賞した『バッハマン先生の教室』もドイツ映画賞で最優秀ドキュメンタリー賞を獲得しています。『焦燥の夏』のサスキア・ローゼンタールは、ロカルノ映画祭で最優秀女優賞に輝きました。
他にも多数の国内外の映画祭で評価が高い本映画祭のラインアップより、今回は、第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作品『バッハマン先生の教室』、第72回ベルリン映画祭、脚本賞・優秀俳優賞受賞作品『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』の2作品の予告編を紹介します。
『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』は、近年日本でもファンが増えているアンドレアス・ドレーゼン監督による最新作。社会・政治的なテーマを個々人の視点から人間的に描きだすドレーゼン監督ならではの実話を基にした作品。
『バッハマン先生の教室』は、217分という長編ながら観るものを飽きさせない移植のドキュメンタリー。少し離れたところから眺めるように登場人物により沿い、観客はあまりに自然体な先生や子供たちの魅力に引き込まれていく。
企画担当コメント
ウルリケ・クラウトハイム (ゲーテ・インスティトゥート東京、文化部企画コーディネーター)
「柔らかくしなやかに、だが全力で成果を勝ち取る」
『フェモクラシー 不屈の女たち』でインタビューに応える、リタ・ジュースムート(元連邦議会議員で連邦青少年・家族・保健大臣も務めた)の言葉だ。今年のドイツ映画祭Horizonte 2023のオープニング作品『フェモクラシ― 不屈の女たち』は、戦後からメルケル首相時代までの旧西ドイツの政治における女性パイオニアたちを描く。彼女たちは、男性議員や世間から激しい攻撃を受けながらも、政治と社会の中で居場所を掴み取っていった。登場する女性たちは明るくウィットに富んでおり、彼女たちのそんな魅力が未知の領域へ進出する際の最強の武器であったことが見てとれる。
今年の映画祭Horizonte 2023では、そのような女性たちにフォーカスする。つまり、「与えられた」状況を疑わずに受け入れるのではなく、複雑化し急激に変化する現実に鋭く反応し、その中で方向性を見出す女性たちである。彼女たちは、人間関係にダイナミックな変化を起こすのみならず、自分自身も変わりながら、変革の一部を成し変化を共に生きるのだ。時には自分の枠を突き破る変革を経験する。
今年の映画祭のテーマは、ドイツ映画界の変化も映し出している。プログラム7作品中4本と女性監督作品が大半を占める。ここで改めてリタ・ジュースムートの引用を思い出したい。「柔らかくしなやかに、だが全力で成果を勝ち取る」のだ。ドイツ映画の立ち位置を示す7本の作品が、若々しく新鮮な(そして女性たちの)声を届けるだろう。
●上映作品
『フェモクラシ― 不屈の女たち』 Die Unbeugsamen
監督:トルステン・ケルナー ドイツ、2021年、100分
ジーパンで議会に立った緑の党の女性たち、中絶論争、反核運動――旧西ドイツ連邦議会の女性議員の歩みを、戦後からメルケル政権時代まで追うドキュメンタリー。民主的な決定過程への参加を求め、成功と肩書の上にふんぞり返った男性たちを相手に闘った女性議員のパイオニアたち。セクハラと先入観に臆することなく野心的、そして限りない忍耐力で自分の道を追求する女性たちの姿が頼もしく、勇気を与えてくれる。
ジャーナリストでもあるケルナー監督は、アーカイブ映像を織り交ぜながら、当時の女性政治家たちにインタビューを行った。彼女たちの思い出話は、可笑しくも苦く、不条理で、時に恐ろしいほどに現在に通じるものがある。西ドイツの過去を多角的に振り返ることで、現在と未来に貴重な示唆を与えてくれる、感動的でありながら洞察に満ち溢れた作品。
『私はニコ』 Nico
監督:エリーネ・ゲーリング ドイツ、2021年、79分
イラン系ドイツ人のニコは介護の仕事をしている。明るく前向きな性格のニコは、気さくで親身な対応から利用者たちにも人気がある。親友のローザとベルリンの夏を楽しんでいたある日、人種差別的な理由から路上で襲われる。事件によって、当たり前と思っていたドイツの生活が不安に侵され、周りと距離を置くようになってゆくニコ。以前の明るさを失い、友人や患者とのつながりも薄れてゆく。本作は、ニコが武道を身につけることで、危機から脱し変わろうとする過程を、繊細かつパワフルに描く。
主人公を演じたサラ・ファジラットが自らプロデュースも手掛けた。ブレーメンの高校を卒業後、ロンドンの王立演劇アカデミーおよびギルドホール音楽演劇学校で演技を学ぶ。2011年からはドイツに戻り、ベルリンの映画・テレビアカデミーで映画プロデュースを専攻、ニューヨークのコロンビア大学にも留学した。現在、俳優、脚本家、プロデューサー、映画監督として活動している。
出演:サラ・ファジラット、サラ・クリモスカ、ジャヴェ・アセフジャ、アンドレアス・マルクアルト、ブリギッテ・クラーマー、他
『ディア・トーマス 東西ドイツの狭間で』 Lieber Thomas
監督:アンドレアス・クライナート ドイツ、2021年、157分
旧東ドイツ芸術界の異端児トーマス・ブラッシュ(1945-2001年)の伝記映画。
第二次世界大戦中にイギリスに亡命していたユダヤ人のブラッシュ一家は、文化副大臣を務めた父ホルストをはじめ、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)の建国に貢献した。作家志望の息子のトーマスは、1968年、プラハの春に賛同、ソ連の軍事介入に反対し抗議運動にかかわり、その活動により逮捕、投獄される。保護観察処分付きで仮釈放されたトーマスは、工場で働きながら愛や革命、死をテーマに執筆活動をする。。しかし、東ドイツでの作品の出版が禁じられ、1976年亡命した西ドイツで成功するも、西側にも溶け込めない。分断ドイツのイデオロギーと価値感に、芸術を通じて挑み続け、人生を通して居場所を求め続けた作家、映画監督、演出家、脚本家トーマス・ブラッシュ。反抗心と矛盾を抱えた天才的芸術家の物語。
出演:アルブレヒト・シュッフ、イェラ・ハーゼ、イェルク・シュットアウフ、アーニャ・シュナイダー、他
2021年タリン・ブラックナイト映画祭グランプリ受賞、ドイツ映画賞2022年にて9部門で受賞
『バッハマン先生の教室』 Herr Bachmann und seine Klasse
監督:マリア・シュペート ドイツ、2021年、217分
ドイツ中央西部ヘッセン州のシュタットアレンドルフ。人口約21,000人のうち70%が移民の背景を持ち、うち約5.000人がイスラム教徒という工業都市。そんなシュタットアレンドルフのとある中学校で、定年を間近に控えた教師ディーター・バッハマンは、12歳から14歳、12か国の子どもたちが在籍する6年B組を担任する。母語もメンタリティーも多様な生徒たちと、音楽やジャグリングで遊びながら授業するバッハマン先生のクラスを1年間追ったドキュメンタリー。
第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞および観客賞受賞作品。
『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』 Rabiye Kurnaz vs. George W. Bush
監督:アンドレアス・ドレーゼン ドイツ・フランス、2022年、119分
実話に基づくアンドレアス・ドレーゼン監督の最新作。
ドイツ生まれのトルコ人のムラート・クルナスが訴訟も裁判もないままアメリカ軍のグアンタナモ湾収容キャンプに収容された。ムラートの母親で専業主婦のラビイェは、海外で苦しむ息子を助けるため奔走するが、警察や行政に相談を重ねても埒が明かない。ある日、ラビイェは人権派弁護士のベルンハルト・ドッケと出会う。そして理性的でドライなドッケとラビイェ母さんが、アメリカの合衆国最高裁判所でジョージW.ブッシュ大統領を相手に訴訟を起こすことに。シリアスなテーマを扱いながら、どこかコメディタッチでユーモラスでもある本作。主演を務めるコメディアンのメルテム・カプタンは、ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞に贈られる銀熊賞に輝いた。
第72回ベルリン国際映画祭、脚本賞・最優秀俳優賞受賞作品。
出演:メルテム・カプタン、アレクサンダー・シェア、チャーリー・ヒューブナー、ナズミ・キリク、他
『あしたの空模様』 Alle reden übers Wetter
監督:アニカ・ピンスケ ドイツ、2022年、89分
生まれ育った旧東ドイツの田舎から脱出し、成功への道を歩むアラフォーのクララ。ベルリンで研究者としてのキャリアを積みながら、シェアハウス暮らし、ティーンエイジャーの娘とは週末だけ一緒に過ごすという、既存の価値観にとらわれない都会生活を送っている。母の60歳の誕生日に帰郷したクララは、生き方は自分で決めるという理想を改めて見つめ直すことになる。自由な生き方の代償とは?
アニカ・ピンスケの長編デビューとなる本作は、いまだに解消されない東西格差、都市と地方、家族とキャリアのはざまでゆれる現代女性の葛藤を、ユーモラスで鋭い会話と的確な人間描写によって丁寧に描きだしている。
出演:アンネ・シェーファー、アンネ=カトリン・グミッヒ、ユーディット・ホフマン、マルセル・コーラー、他
『焦燥の夏』 Niemand ist bei den Kälbern
監督:サブリナ・サラビ ドイツ、2021年、116分
ドイツ北部メクレンブルク地方の片田舎。24歳のクリスティンは、長年の恋人ヤンの実家である酪農家に同居し、牛舎での仕事を手伝っている。子供時代を彩った東西ドイツ統一後の楽観的な雰囲気は、とうに消えている。彼との関係もうまくいかず、酒で苦しさ紛らわしては、殺伐とした日常から抜け出すことを思い描くだけの日々。真夏の陽射しの下で、時間は止まっているかのようだ。そこに風力発電のエンジニア、クラウスがハンブルクからやってきて、世界が再び巡り始める。
長編2作目となるサブリナ・サラビ監督は、ありふれた田舎の日常を官能的で雰囲気に満ちた世界に変容させた。主演のサスキア・ローゼンダールは、圧倒的な演技力で第74回ロカルノ映画祭最優秀女優賞を受賞した。
出演:サスキア・ローゼンダール、リック・オーコン、ゴーデハルト・ギーゼ、他
ドイツ映画祭 HORIZONTE 2023
HORIZONTE 2023- FESTIVAL DES DEUTSCHEN FILMS
4月20日(木)~23日(日)
会場:ユーロライブ(渋谷) 渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F
主催:ゲーテ・インスティトゥート東京、共催: German Films
協力:ドイツ連邦共和国大使館、ユーロスペース
Twitter https://twitter.com/GI_Tokyo