原発避難地域に住む男性を約10年に渡り追い続けたドキュメンタリー映画『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』が、2月25日より公開スタートいたしました。

公開を記念して初日25日(土)は中村真夕監督、2日目26日(日)はジャーナリストの金平茂紀さんと中村真夕監督のトークイベントが下記の通り開催されました。

<トーク日時・会場>
日時:2月25日(土)10:45回上映後
登壇者:中村真夕(本作監督)
日時:2月26日(日)10:45回上映後
登壇者:金平茂紀(ジャーナリスト)、中村真夕(本作監督)
場所:シアターイメージフォーラム

以下レポートとなります。

2.25 (土)初日には公開を記念し行われたプレミア上映会のトークイベントに、中村真夕監督が登壇しトークイベントを行った。

中村真夕(本作監督)

原発事故で無人地帯となった富岡町に残された動物たちの世話をしながらひとり暮らしていた松村直登さん。彼の取材を2013年夏から開始した中村真夕監督は「政府の避難要請を無視して、原発から至近距離の場所でひとり暮らすナオトさんの存在は国内メディアではタブー視され、テレビに取材企画を上げても上がOKを出さなかった。だから私は映画として彼を撮影することで世に出そうと思った」と話し、
10年弱に及ぶ現地取材を通して感じた富岡町の景色を「住人がナオトさん以外いなくなると、どんどん自然(緑)が溢れてきて、まるである種のユートピアにも思えた」と語った。

ここ数年の取材活動を通して、福島のことが忘れ去られていく現実、復興の難しさも実感した。
「福島が忘れられてきている。電気代も高くなり、原発再稼働やむなしの雰囲気にもなっている。
復興五輪と言いつつ、現実は住民が戻ってくる為の大きな産業もなく、若い人たちは街を離れ、別の街で仕事をしている。近隣に住んでいるのは、年金生活のお年寄りか、原発関連の仕事をしている人たち」

会場に集まった人からは
「よくここまで撮ってくれた」「政府は批判できても、原発には反対できない地元住人の複雑な心情や現実に驚きを隠せない」など感想を語った。

前作から引き続き、延べ10年に渡り映画を撮り続けた理由を「2013年にオリンピック決定のニュースを聞いて、このままでは福島が忘れ去られると思った。人がおざなりにされた復興を伝えるにはオリンピック終了までを撮る必要がある」と語った。

2日目の26日(日)にはジャーナリストの金平茂紀さんと中村真夕監督が登壇した。
金平さんは「どこにも属さずフリーランスで、しかも当初はペーパードライバーでありながら10年もの間、現場(富岡町)に通い続けた。311直後や節目の時だけ震災地に来て取材して帰る記者とは違う、取材する姿勢が素晴らしい」と中村監督を称えた。

左より、中村真夕(本作監督) 、金平茂紀(ジャーナリスト)

壇上で二人は映画のラストでナオトが発した意外な発言に注目した。

中村監督は「あの答えは予想していなかった。でもあの周辺では産業が原発しかないことは明らかだった」と驚きを隠さず、金平茂紀さんは「あの言葉の重みを考えた。原発事故によって一番ひどい思いをした人たちが、その答えを出すまでに追い込まれた。外部の人間が原発反対と口で言うのは簡単だが、あの発言は原発を肯定するものではなく、出口の見えない人の叫びだと思った」と話し、中村監督はそれでも町でひとり暮らすナオトさんを「無人地帯の町で耐え忍んで生てているように描かれがちですが、この映画に登場するナオトさんは不思議と明るく生きていて、それは開き直りでもあるのだろうし、私は不思議なあの明るさに戸惑いもしたが、救われた」と語った。

左より、中村真夕(本作監督) 、金平茂紀(ジャーナリスト)

作品紹介

100年たてば元の町に戻るかもしれねえな――
原発事故で全町避難になった町に、動物たちと
住み続けた男はいま?

生きること、生かし続けること
“ひとりでここに残ること”を決めた男の10年。

「劇場版 ナオト、いまもひとりっきり」予告編

「劇場版 ナオト、いまもひとりっきり」予告編

youtu.be

原発事故による全町避難で無人地帯となった福島県富岡町に、 いまも一人で暮らすナオトは、高度経済成長の裏側でカネに翻弄され続ける人生を送ってきた。原発事故後、人の人生を金で解決しようとする不条理、命を簡単に“処分”しようとする理不尽に納得できず、残った動物たちを世話しはじめた。 生きること、生かし続けること。その日々の闘いが、ナオトの生きる道となっていた。

世界を驚愕させた『ナオトひとりっきり』(2015)。カメラはその後もナオトを追い続けていた!コロナの蔓延、東京オリンピックを経て、まだ終わらない福島は忘れ去られてしまうのか?
あれから8年。新たな命が生まれ消えていく中で、ナオトは変わらず動物たちに餌をやる日々を過ごしている。「将来の糧のため」ニワトリを飼い、蜜蜂を育て始めた。富岡は帰還できる町となったが、若い人たちは戻らない。コロナ禍で開催されたオリンピックでは「復興五輪」のPRとして、誰もいない福島の風景の中を聖火リレーが走り過ぎた。

原発問題に終わりはない。汚染水はあふれかえり、ダダ漏れのように海上放出される。全国で原発再稼働の動きは、 粛々と進められる。そんな私たちの矛盾の渦中で忘れ去られる福島で、ナオトは今、動物たちとどんな思いで暮らしているのか。ナオトの生きかたを見つめながら、私たちの今を考える。

【福島県・富岡町】
かつては出稼ぎに行かないと生活できない貧しい農村であったが、60年代末、福島第一・第二原発の建設により豊かな生活ができるようになる。2011年3月、原発事故により警戒区域となり、町民全員が家を追われ、家畜は全て殺処分が 命じられた。現在は町の一部が帰還宣言をしたが、多くの住民は戻ってきていない。

%%https://youtu.be/rtU84KZYNIY%%{cyan}

出演:松村直登、松村代祐、半谷信一、半谷トシ子、富岡町の動物たち
撮影:中村真夕、辻智彦
編集:清野英樹
監督:中村真夕
製作・編集協力 山上徹二郎
製作・配給:Omphalos Pictures, Siglo
配給・宣伝協力:ALFAZBET
2023年/日本/日本語/HDV/カラー/106分

2月25日(土)よりシアターイメージフォーラムにて公開中!