1/20より開催されている『大映4K映画祭』。
溝口健二監督の名作『近松物語』4K版の上映として、アフタートークゲストに本作品のヒロインを演じた香川京子さんが登壇されました。聞き手の立花珠樹さん(共同通信社編集委員)の進行で、名監督たちや俳優さんたちとの貴重なエピソードを情景が浮かぶほ詳細にご披露してくださり、最後に会場のお客様に向けて「こんなに⻑くお仕事させていただいて、嫌なことはひとつもなかった。とても幸せで感謝の気持ちでいっぱいです。どうぞみなさんもお元気で」と優しい言葉でしめくくられました。

『近松物語』 4K 版

愛に生きる男女が運命と闘う!逃避行ラブ・ロマンスの名作
近松門左衛門の人形浄瑠璃を巨匠・溝口健二が映画化。不義密通と誤解された男女が真実の愛に気付き覚悟するまでの姿を現代的なスピード感で描く。キャスト、撮影、美術...全てが比類ない完成度に満ちた必見の名作。

©KADOKAWA

以下、各エピソードなど詳細となります。

■『近松物語』キャスティング

最初は(ヒロインの)[おさん]役ではなく、南田洋子さんが演じた[お玉]の役のはずでした。溝口監 督の『山椒大夫』と黑澤明監督の『七人の侍』が(第 15 回)ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を頂い たとき(※香川さんは『山椒大夫』出演者として映画祭に参加)、その後帰国したら空港に(大映 の)永田雅一社⻑がお迎えに来てくださっていて「君がお玉を演じることになった」とお話があ り、それから 1 週間後に京都で撮影でした。何しろ京言葉も初めてですし、裾を引いて着物で歩く のも初めて、人妻役も初めてで、本当にどうしようかと...。母親役の浪花千栄子さん(NHK
朝ドラ「おちょやん」のモデル)に京言葉の指導もして頂きました。浪花さんは当時嵐山で旅館を経営さ れていて、そこから撮影所に通っていました。着物も慣れないと裾が絡まって歩けないので、衣装 部さんから衣装を借りてきて旅館で歩く練習もしました。

■溝口健二監督とのエピソード、忘れない演技指導

監督さんは「ハイやってみてください」って言うだけで、演技指導を一切なさらないんです。当時
はなにも分からず、周りも見えておらず、なかなか大変でした。⻑谷川一夫さん演じる[茂兵衛]に 「なんで私を置いて逃げたのか」と迫るシーンは何度やってもカメラを回して頂けなく、疲れてしまって胸を打つほど激しく転んでしまったんです。その時に[(演技が)うまくできない悲しみ]と[おさんの悲しみ]が同時に湧き上がって、その勢いで茂兵衛に迫っていったら「本番行こう」となったんです。芝居って不思議だなと思いました。芝居というのは、自分の番が来たからセリフを言うのではなく、相手の動きに[反射]して初めて自分の言葉や動きが出てくるのだと...。溝口監督にはそれを教えて頂きました。
「役の気持ちでいれば、自然にその役の演技ができる」仰るのですが、当時はそれも理解できていませんでした。あのシーンでは「とにかく一生懸命やらなきゃいけない」という気持ちと、「茂平についていくしかない」という(役の)おさんの気持ちがひとつになったのかなと思います。監督さんが常々おっしゃっていた「反射してますか?」というのが、後の黒澤組でも役立ったんです。黒澤組は常に緊張感を持って「反射」してなければいけない。いまでも「反射」は忘れません、1番大事なことなんだなと思います。

■何度も共演した長谷川一夫さん

時代劇が多く、京都の大映撮影所でご一緒させて頂きましたが、とても優しい方でした。周りから色気がないと言われていましたが、⻑谷川さんが「手の動きをこうしたらいいよ」とか細かいことを教えてくださいました。『近松物語』では⻑谷川さんが全部受けとめてく ださるので、ありがたかったです。⻑谷川さんは照明の指示をするくらい本当にいつもお芝居のことを考えられていて、ほかの作品では なるべく私の身体を触らないように腰を抱いて移動させたりすることもありました。あれは⻑谷川さんでなければできなかったのではな いかと思います。

■永田雅一さんから「専属にならないか」

帝国ホテルで永田社⻑にご馳走様になったときに「大映の専属にならないか」と言われたんですが、ずっとフリーでやってきたのでお断りしました。(フリーだから会社の垣根をこえて溝口、小津、黑澤と巨匠の作品に出られたという振りから)ただ私は自分から「この役をやりたい」と言ったことは一度もないんです。どうして立派な監督の作品に出られたか...自分でもさっぱりわからないんです。

■監督による演出方法の違い

溝口監督は椅子に座っていて「ハイとにかくやってみて」と仰います。役者の動きを見た後にカメラ位置を決めるんです。一方、小津監督はカメラ位置が先に決まっていて、「ここにこういう順序で座って」というように具体的に指示してくださいます。監督さんによって演出方法は全然違いますね。

『近松物語』4K 版
(1954 年/モノクロ/102 分/スタンダード)
©KADOKAWA1954
監督:溝口健二
原作:近松門左衛門(「大経師昔暦」より) 劇化:川口松太郎(「おさん茂兵衛」)
脚本:依田義賢 撮影:宮川一夫 美術:水谷浩 音楽:早坂文雄
出演:長谷川一夫、香川京子、南田洋子、進藤英 太郎、小澤榮(小沢栄太郎)

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『大映 4K 映画祭』角川シネマ有楽町にて開催中
名古屋・名演小劇場、大阪シネ・ヌーヴォ ほか全国順次開催