パリのナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」を舞台に、踊り子などの人物をユニークで独創的に描いたポスターで人気を博したロートレック。
一方、エレガントで優美な女性像を描き、その繊細で装飾的な技法で、「線の魔術師」、「アール・ヌーヴォーの騎手」として名を馳せたミュシャ。
その活動拠点は、ロートレックがモンマルトル、ミュシャがモンパルナスと、セーヌ川を挟んで隔たり、異なっていましたが、二人はともにパリで活躍し、「第1号ポスターで脚光を浴びた」という共通点がありました。

 大阪中之島美術館において、 2023年1月9日(月・祝)まで、「ロートレックとミュシャ パリ時代の 10 年」が開催中です。
本展は、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)とアルフォンス・ミュシャ(1860-1939)が芸術の都パリで活躍した 1891 年から 1900 年までの 10 年間に焦点を当て、二人が共通して取り組んだ石版画ポスターを中心に紹介しています。
ロートレックは 1891 年に第1号ポスターとなる《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》を制作、その約 3 年後、ミュシャも第1号ポスター《ジスモンダ》を発表し、一躍、時代の寵児となったのです。

 本展では、ロートレックとミュシャ、二人の活動を比較しながら紹介しています。
また、ロートレックのわずか36年という短い生涯の中で、第1号ポスター発表から 10 年の間に生み出されたポスター全 31 点が一堂に紹介されています。
是非、この貴重な機会にお運びください。
それでは、シネフィルでも展覧会構成に従って、観ていきましょう。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ(第2ステート)》1891年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

第1章:1891 年から 1894 年 《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》 発表から 《ジスモンダ》誕生まで

 ロートレックは 1891 年 10 月、カフェ・コンセール(19 世紀末パリの歓楽街を特徴づけるダンスホール兼コンサートホールで、お酒や食事、観客同士の会話も楽しめる娯楽施設であり催事場のこと)のためのポスター《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》を発表、高い評価を得て、これを機に石版画(リトグラフ)に打ち込んでいくことになります。
同時期、挿絵画家として活動していたミュシャは、1894 年のクリスマス・シーズンに依頼を受け、劇場ポスター《ジスモンダ》を制作、大評判となりました。

アルフォンス・ミュシャ《ジスモンダ》1894年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

第2章:1895 年から 1897 年 「サロン・デ・サン」での競作

 1895 年から 1897 年までの間に、二人の出会いの最大の鍵となる文芸雑誌『ラ・プリュム』が主催する美術ギャラリー「サロン・デ・サン」での展示。この時代、 ロートレックもミュシャも、様々なオファーにより石版画を制作、また多くの展覧会に出品するばかりでなく個展も開催するなど旺盛な活動を展開していきました。

アルフォンス・ミュシャ 《サロン・デ・サン 第20回展》1896年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《『彼女たち』(第4ステート)》1896年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

第3章:1898 年から 1900 年 ロートレックの最後のポスター、ミュシャはパリ時代のピークへ

 この頃から健康状態が悪化していったロートレックは、ドローイングに力を注ぐようになり、最後とされるポスター《学生たちの舞踏会》もドローイングで提案されました。    
一方、ミュシャは、1900 年開催のパリ万国博覧会でオーストリア館、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ館で大いに活躍します。

アルフォンス・ミュシャ《アメジスト(連作「四つの宝石」より)》(ドローイング)1900年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《学生たちの舞踏会》(文字の入れられていないステート)1900年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

第4章:1901 年以降 ロートレックの死、ミュシャ装飾様式の成熟と完成

 1901 年、ロートレックは 36 歳にして最愛の母の居住するマルロメの城で亡くなります。   一方、万博を機に故郷チェコのために制作する決意を新たにしたミュシャは、パリを離れアメリカへ、そしてチェコへと移っていきました。この頃パリ時代の集大成ともいえる『装飾資料集』(1902 年)を発表、その装飾様式は見事なまでの成熟と完成を見せています。

アルフォンス・ミュシャ《月桂樹》1901年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

第5章:同時代のお酒のポスター

 この時代、パリ市民の増加と歓楽街の隆盛、娯楽へのニーズの高まり、製造業の活発化などの諸要因により、お酒の製造販売が増え、そのためのポスターも数多く制作されました。ここでは、ピエール・ボナール《フランス・シャンパン》(1891 年)をはじめとする同時代のお酒の石版画ポスターが紹介されています。

アルフォンス・ミュシャ《ムーズ・ビール》1897年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託

 本展では、ロートレックがポスター作家としてデビューした 1891 年から 1900 年までの間に、ロートレックとミュシャが発表した作品が紹介されています。
ロートレックは遺伝性疾患により身体的な悩みを抱えながらも、ポスターを芸術の域にまで高めた功績で、美術史上に特筆されるべき画家です。
彼のポスターやリトグラフは日本美術から強い影響を受け、自身のイニシャルを漢字のようにアレンジしたサインも用いました。
 一方、ミュシャは、アール・ヌーヴォーを代表する画家で、多くのポスター、装飾パネル、カレンダー等を制作しました。
ミュシャの作品は花(植物)や鳥、星などの様々なモティーフを用い、華やかで優美な女性を流れるような曲線で描き出しています。
ミュシャの挿絵やイラストは、明治時代の文学雑誌『明星』において、挿絵を担当した藤島武二により模倣され、用いられました。
 イメージは異なりますが、どちらも魅力的な女性像が表現されています。
「よき時代(ベル・エポック)」の双璧をなす二人のポスター作家はこれからも、色褪せることなく、人々を魅了し続けるでしょう。

大阪中之島美術館 外観写真

展覧会概要

◼ 展覧会名:ロートレックとミュシャ パリ時代の 10 年
◼ 会 期:2022 年 10 月 15 日(土)– 2023 年 1 月 9 日(月・祝)
◼ 開館時間:10:00 – 17:00
*入場は 16:30 まで。月曜日、12/31、1/1 休館(1/2、1/9 は開館)。
*災害などにより臨時で休館となる場合があります。
◼ 会 場:大阪中之島美術館 4 階展示室
◼ 主 催:大阪中之島美術館、朝日新聞社
◼ 観 覧 料:一般 1,600 円(1,400 円)| 高大生 1,300 円(1,100 円)| 小中生 無料
*税込み価格。カッコ内は 20 名以上の団体料金。
◼ 問い合わせ:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
◼ 展覧会公式ホームページ