2016 年、伊藤智生監督の⻑編デビュー作『ゴンドラ』が、30年ぶりの上映にも関わらず全国のミニシアターで話題を集め大ヒットしました。
当時も、口コミにより多くの鑑賞者が押し寄せたものの、当時5,000万という製作費をかけ製作された自主映画の負債を背負い伊藤智生という本名を封印しました。
その後、AV 界に身を転じ、TOHJIROと名乗り、その世界の巨匠となっていきました。

現在、TOHJIRO 監督名の初の映画劇場版として一般上映された『いたくても、きもちもいいもの』が、4 月より代官山シアターギルドで、限定上映され、瞬く間に完売を繰り返し追加上映が続き、さらに SNS などで反響を呼んで女性鑑賞者も続出していることから、さらなる追加上映(6月20日より)が決定しました。(6/6現在、プレイベントを含め13回中12回の満席完売)

満席が続く劇場 (6/6現在、プレイベントを含め13回中12回の満席完売)

シネフィルでは、『ゴンドラ』再上映にいち早く注目し、インタビューをしましたが、今回、伊藤智生監督ならぬTOHJIRO監督として劇場デビューを飾った『いたくて きもちのいいこと』監督独占インタビューを掲載いたします。

TOHJIRO監督インタビュー

TOHJIRO監督(伊藤智生)

今作『いたくても、きもちもいいもの』について、(どのようにして、作られることになったのかの経緯など)お聞かせください。

長年AVを撮って来て、ディープな内容のドラマAVは一番売れないのは、経験上、百も承知だった。だが、主演した塩見彩が、AV女優になる前のスピンオフ、SMとの出会いを聞いていたら、無性にこの実話をドラマにして撮りたい衝動に駆られた。自分の欲望、やりたい事と、恋人との愛情の中で、揺れ動く、彼女の存在が凄く魅力的だった。

AV で撮影された作品が、劇場で上映されたわけなのですが、なぜ劇場版を作られようと思ったのでしょうか?

エロの描写を短くして、劇場版にして、たとえ一回だけでも、現代の闇を抱えて必死に生きる女性の生きざまの話を、劇場で上映して、一般の女性達に観てもらいたいと思ったからです。

左より塩見彩さん、星あめりさん

今作は、主演の塩見彩さんの半生と聞いております。多様化し、LGBTQ +が社会で一般化したなかで、あくまで性の趣向性である SM という世界。一つの性のあり方だと思うのですが、この映画の中では、レズビアンの彼女と別れてまでも、SM を選択することにあると思うのですね。監督は、AVの中でも特に SM の分野が際立つのですが、監督にとってSM とは?

俺の人生の中で、心を病んでいる人の事は一番のテーマだと思っています。
SMを撮るようになった時、ある時、SMをやりたがる女性のかなり多くの子が、心的障害、心に闇を抱えている事に気付いた。医学的には、何も証明出来る部分はないのだが、不思議な事に、縄で縛られて、ギチギチに拘束され、身体の自由は奪われて不自由な筈なのに、多くの子が、心が一番自由になれると言った。その頃から、俺はどんどんSMの世界に夢中になったと思う!

塩見彩さん

現在、再上映が何回にもわたり続いて、大評判になっています。 また、女性客も多く訪れていると聞きますが、何故なのでしょうか?

今、劇場に来て、「いたくて、きもちいいこと」を観に来てくれてる女性達は、かなり登場人物に感情移入出来る、同じような心に闇を抱えた人が多いと思う。だから、彼女達は映画見て泣いている。不思議な事に、男よりも女性の方が、ハードなエロシーンどうどうと夢中に観ている。今の世の中、色々規制が激しくなり、クリーンな事が素晴らしい的な風潮になって来ているが、実は、閉ざされた闇の世界の欲望が、本当は皆んな観たいんだと感じた。

実際見にこられた観客からどんな反応が見られたでしょうか?

観てくれた人と話すと、凄くリアルで、演技とは思えない。途中からドキュメント見てる気になり感動した。とか、一回観ると、何回も見たくなる、そんな意見多く聞いた。

AV 業界からの反応はあるのですか?

正直AVの各メーカーの反応は、そんなにまだないと思う!劇場で、やる事がビックビジネスになれば、興味持つと思うが、ただ、AV女優の子達は、今回の出来事、かなり興味持ったし、気にしている。劇場でスクリーンに、映る塩見彩の事、羨ましく感じてる女優は、かなりいると思う。

『ゴンドラ』で、描かれていたのが、かがりちゃんという少女をめぐるお話でした。今回の椿さんという主人公と、どこか、かがりちゃんと重なる部分があると思うのですが

「ゴンドラ」のかがりと今回の「いたくて、きもちいいこと」の椿の共通点は、自分の居場所がない事だと思う。自分が生きてると感じる実感を、2人とも必死で探している所だと思う。

今後の抱負をお聞かせください。

伊藤智生としての第2弾の映画は、コロナが完全収束したら、しっかり撮りたいと思う。とにかく自分の子供の頃の東京の原風景を。土の道が、高度成長で全てアスファルトで覆われてしまった。そのアスファルト引っぺがして、あの頃の人間達の思い、悲しみ、撮りたい!

またこのような AV 作品を新しいソフトポルノとして発信していく可能性などは?

映画の世界でも、人間の性の問題はいつの時代でも蔑まれて、蔑ろにされて来ている。でも、人間の中で、本当に一番興味があるのは、性欲だし、欲望だと思う!しっかりと人間の心のひだを描いた、ポルノが撮りたいと思う!

これから、ご覧になられる方へ一言お願いします。

この作品は、主人公演じた塩見彩の存在がなければ、生まれなかった。彼女の実話がベースだから。今の時代、行きたいのに、死にたくなる衝動に駆られる若い子が大勢居ると思う。リストカット、同性愛、SM、通常だと隠されて来た、闇の部分の叫び声、観て欲しい!

今回のシアターギルドでの上映中、大阪、名古屋地方でもやって欲しいの声多く寄せられており、R-18作品ですが、上映してくれるミニシアターが増えてくることを望んでいるという。

会場にて、佇む伊藤(TOHJIRO』監督。
今回のシアターギルドでの上映中、大阪、名古屋地方でもやって欲しいの声多く寄せられており、R-18作品ですが、上映してくれるミニシアターが増えてくることを望んでいるという。

左より、星あめり、塩見彩、伊藤(TOHJIRO』監督

企画dogmaシネマ
脚本塩見彩・TOHJIRO

監督TOHJIRO

出演 塩見彩、星あめり、蓬莱かすみ、田嶋まお

制作プロダクション dogma
配給宣伝 株式会社ground0
2022年 日本語、カラー4K、93分
R18

代官山シアターギルドにて絶賛上映中!