ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』は、東京ドキュメンタリー映画祭2020 特別賞受賞を経て、東京オリンピックが開幕した昨年7月23日から全国公開された。この度、東京五輪の公式映画『東京2020オリンピック』の公開に合わせ、オルタナティヴな視点として、再開発への反対運動があり、そして今新しい形で「下北線路街」がオープンした下北沢のシモキタ -エキマエ- シネマ『K2』での上映が始まった。
初日6月3日(金)には、本作にも出演した、都営霞ヶ丘アパート元住民の甚野公平さん、菊池浩司さん及び、青山真也監督のトークイベントを開催した。
日時:6月3日(金) 14:22頃~14:52頃 トーク
登壇者:甚野公平、菊池浩司(出演者/元・霞ヶ丘アパート住民)、青山真也監督
場所:シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』
昨年の上映以来久しぶりに本作をご覧になったお二人。菊池さんは、「懐かしくて、(霞ケ丘アパートを)思い出して涙が出てきました。」、甚野さんは「映画にして残してくださったことと、私に感動と思い出を下さることで、悔しかったことを少しでも和らげてくれたことを痛感して感謝しております」と感謝を述べた。
甚野さんは、「親の代から霞ケ丘町に住んでいまして、国立競技場の今の敷地の中で生まれ育ちました。最初のオリンピックの時に協力して霞ケ丘アパートに引っ越しまして、国立競技場が出来上がりました。昭和8年生まれなので、競技場や神宮外苑が遊び場でした。」とのこと。菊池さんは建設会社の事故からなんとか立ち直って、平成元年に霞ケ丘アパートに入った。霞ケ丘アパートについては菊池さんが「人間関係がいいんです」と話すと、甚野さんも「最高です。小学生を相手に霞ケ丘でキャンプをやったり、遠足に行ったり、子供と大人の近隣との交流がものすごく深かったんです。何かあったら隣のことがすぐわかって助け合える、同じものを分け合っている、素晴らしい霞ケ丘でしたが、オリンピックで全てなくなりました。」と無念を語った。
2014年から2017年の住民たちを追った本作に出ている人の半分くらいは亡くなっている。甚野さんは、「私も6年前に家内を亡くしました。オリンピックで予期しなかった引っ越しが重なったという疲れがあったのではないかと感じております。」と述懐。劇中で甚野さんが「引っ越したくない」と会見するシーンがあるが、その後甚野さんのパートナーが病気になってしまったので、自分の意地で霞ケ丘アパートに居続けるよりも、パートナーのことを考えて引っ越した。都からは引っ越し費用として一律17万1千円が配られたが、甚野さんはアパート内のタバコ屋もやっていたので、「それ以外に70万円かかりました。本当に引っ越しはつらかったです。」と金銭面での負担についても吐露した。
菊池さんは、オリンピック自体に反対していたわけではなく、2016年大会の時には日本に招致するボランティア活動をしていた。「原宿中にチラシを配ったり、各商店には旗をつけました。オリンピックのために一生懸命やりました。」と回想。しかし、2020年大会が東京に決まると、「家を立ち退いてくれ」と言われる。新しい引っ越し先は3つ候補があったけれど、一人暮らしの場合は1Kと決まっていたそう。しかし菊池さんは片腕で、収納スペースがあっても物を上にあげられないので、霞ケ丘アパートでは一人暮らしにしては広めの部屋に住んでおり、東京都には、「ライフスタイルが変わらないところで」とリクエストをしたが、東京都は「まるっきり話を聞いてくれなかった」とのこと。
「皆引っ越して、最後に3人だけ残って、水道もストップされて、こりゃ外に出ないといけないなと思って、今度は東京都に引っ越したいとお願いに行った」と妥協せざるをえなかった実情を話した。そんな菊池さんも、引っ越しから7年経ち、「おかげさまで5月29日に90歳になりました! くよくよしてられない。引っ越しを転機に頑張って、100まで生きるつもりです!」と力強く語った。
映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』予告篇
【あらすじ】
都営霞ヶ丘アパートは1964年のオリンピック開発の一環で建てられた。
国立競技場に隣接し、住民の平均年齢65歳以上の高齢者団地であった。
単身で暮らす者が多く、住民同士で支えあいながら生活していたが、2012年7月、東京都から「移転のお願い」が届く。2020東京オリンピックの開催、そして国立競技場の建て替えにより、移転を強いられた公営住宅の2014年から2017年の記録。
監督・撮影・編集:青山真也
劇中8mmフィルム映写協力:AHA! [Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]
音楽:大友良英 整音:藤口諒太
配給:TOKYO2017上映委員会
2020 /日本/カラー/ 16:9 / DCP / 80min
©Shinya Aoyama
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