まるでおとぎ話の絵本に出てくるような鮮やかな色彩と、ふくよかで丸みを帯びたフォルムが印象的な魅惑あふれるボテロの世界。
人物や動物、果物や楽器に至るまで、あらゆる対象がボリュームのある形態で描かれるボテロ独自の不思議な絵画は、単にユーモアや癒しだけではなく、官能、皮肉や風刺、悲哀など様々な意味合いが込められ、観る人の心に強く響きます。
ボテロの手にかかれば、人物や動物はふくよかで愛らしさを増し、花や果物も大きく膨らんで熟し、かつての名画も別ものに変えてしまうのです。
それはまさにボテロの「魔法」ともいえるもので、1950年代後半から欧米で高く評価され、世界的人気を誇っています。
そのきっかけは、1963年、ニューヨークのメトロポリタン美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が展覧された時、モダンアートの殿堂、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のエントランス・ホールにボテロの《12歳のモナ・リザ》(※本展には出展されません)が展示されたことに始まります。
この作品が脚光を浴び、ボテロは、今日では現代を代表する美術家のひとりとして、世界中から注目を集めているのです。
このたび、南米コロンビア出身の美術家、フェルナンド・ボテロ(1932~)の国内では26年ぶりとなる大規模な絵画展「ボテロ展 ふくよかな魔法」が開催されることになりました。
名古屋市美術館では、2022年7月16日(土)から9月25日(日)まで開催されます。
ボテロ生誕90年となる本展は、ボテロ自らの監修のもと、初期から近年までの油彩ならびに水彩・素描作品など全70点で構成される貴重な機会となります。
ボテロはなぜふくよかな絵を描き続けるのでしょう?
90 歳を迎えた今も精力的に活動を続ける彼の画業を辿ります。
ボテロの波乱万丈の人生を描いた映画も絶賛公開中です。
シネフィルの記事も是非、ご覧ください。
それではシネフィルでも展覧会の構成に沿っていくつかの作品を紹介致します。
第1章 初期作品
本作は17歳の頃描いた作品で、ボテロの他の明るい色彩の作品とはイメージが異なりますが、ボテロのボリュームへの関心は、既に伺えます。
その後、ヨーロッパ、特にイタリアで学んだ経験は、彼のボリューム感、官能性、デフォメ表現に対する基盤を確固たるものにしました。
ボテロは次のように述べています。
「ボリュームを表現することで、芸術的な美を表現することを目指しているのです」
「私の作風は、私の作品の代名詞であるだけでなく、私が後世に残す遺産でもあるのです」
第2章 静物
ふくよかなボテロの作品は、1950年代中頃、楽器(マンドリン)をアンバランスに描いたことから始まったとされています。
本作のギターのフォルムは丸みを帯びて膨らんでいるのですが、それに対し開口部はとても小さく描かれています。
「ボリュームを通して、生命の高揚感が生み出されるが、デフォルメにより芸術には不均衡が生じる。それは再構築されなければならないが、一貫した様式によってのみ、デフォルメは自然となる」と、ボテロは言っています。
本作は、黄色、青色、赤色からなる3点組の作品です。
通常のものより、花や花瓶のボリュームが増しているようです。同じ題材を同じ構図、同じ比率で描いていますが、色彩を変えることでまた違った印象になっています。
ボテロは生涯を通して、形と色彩に取り組んでいるようです。
第3章 信仰の世界
ボテロの全ての作品において、青年時代の記憶が創作活動の主題となっています。
宗教的なテーマへの関心は、聖職者の世界とそこにあるかたち、色彩、衣装、そしてその造形的で詩的な側面を絵画的に探究するためのものであり、ボテロはユーモアと風刺をもって人物にアプローチしています。
本作はとてもふくよかな聖母マリアが、現代的な服装の男児を抱えていますが、光輪が描かれているため、この子どもがイエス・キリストであることが分かります。
予想外の起こりそうもない世界を描き、ユーモアに溢れています。
第4章 ラテンアメリカの世界
1956年、23歳のボテロはメキシコ芸術に出会い、ターニングポイントとなります。
自らのルーツや故郷コロンビアでの子ども時代の記憶にまなざしを向け、作品のテーマにしました。
また、同時にメキシコ芸術の大胆な色使いもボテロを触発し、彼の画面を色鮮やかなものへと変容させたのです。
本作は、故郷コロンビアを思い出して描いたのでしょうか。
ラテンアメリカの家が建ち並んだ狭い路地を、人々が行き交う日常の風景です。
南米らしい鮮やかな色使いで描かれていて、街のざわめきや、人々の熱気までもが伝わってくるようです。
第5章 サーカス
2006年、ボテロはメキシコ南部の都市を訪問中、ラテンアメリカの趣のある質素なサーカスに出会いました。
悲しみを内に秘めた人物だけではなく、何よりもその計り知れない詩的な味わいやかたちと色の造形性が、彼を驚かせました。
ピカソ、マティス、ルノワールをはじめとする巨匠たちの作品の題材でしばしば取り上げられるサーカスというテーマに、ボテロもまた惹かれました。
サーカスの役者たちは、盛んに動いているにもかかわらず、ボテロ作品には典型的な静寂が感じられます。
第6章 変容する名画
ボテロは、美術史における主要な芸術家たちへ造形的なオマージュを数多く捧げてきました。過去の巨匠たちの名作を基にした一連の作品では、ボテロ独自の様式により他の芸術家たちの作品を全く異なるものへと変容させています。
「芸術とは、同じことであっても、異なる方法で表す可能性である」というボテロの言葉を、強く思い起こさせるシリーズです。
レオナルド・ダ・ヴィンチの名作《モナ・リザ》もボテロの魔法にかかれば、ふくよかなボテロ作品になりました。
1959年制作の《12歳のモナ・リザ》(ニューヨーク近代美術館蔵)で一躍有名人なったボテロはモナ・リザを引用した作品を度々描いています。
本作《モナ・リザの横顔》は2020年作で、世界に先駆けて日本で披露されます。
15世紀のフランドルで活躍していたファン・エイクが描いた古典的な夫婦の肖像画は、暗い室内に窓からのわずかな明かりが感じられるミステリアスな雰囲気のもので、ボテロの描いた明るい色彩のふくよかな夫婦とは全く印象が違います。
ボテロはなぜふくよかな絵を描き続けるのでしょう?
その答えは、次のボテロの言葉です。
「芸術を通して伝えることができるふくよかさ、包容力、官能性が好きだ。現実はドライだから」
世界各地で人気を博しているボテロ展。
是非、この機会にボテロの描く「ふくよかな魔法」をご堪能ください。
展覧会概要
展覧会名 ボテロ展 ふくよかな魔法
会 場 名古屋市美術館
会 期 2022 年 7 月 16 日(土)~9 月 25 日(日) 【63 日間】
開館時間:午前 9 時 30 分~午後 5 時、9 月 23 日を除く金曜日は午後 8 時まで
いずれも入場は閉館 30 分前まで
休 館 日:毎週月曜日(7 月 18 日・8 月 15 日・9 月 19 日は開館)、
7 月 19 日(火)、9 月 20 日(火)
会 場 名古屋市美術館
〒460-0008 名古屋市中区栄 2-17-25 〔芸術と科学の杜・白川公園内〕
TEL:052-212-0001 FAX:052-212-0005
主 催 名古屋市教育委員会・名古屋市美術館、中京テレビ放送
後 援 コロンビア共和国大使館、名古屋市立小中学校 PTA 協議会
協 賛 光村印刷
協 力 ルフトハンザ カーゴ AG、日本通運、名古屋市交通局
企画協 力 NTV ヨーロッパ
観 覧 料 一般:1,800 円(1,600 円)、高大生:1,000 円(800 円)、中学生以下:無料
観 覧 料 ( )内は前売または 20 名以上の団体料金
展覧会公式ホームページ https://www.ctv.co.jp/botero/
シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「ボテロ展 ふくよかな魔法」@名古屋市美術館 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、招待券をお送り致します。この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
*応募締め切りは2022年8月1日 月曜日 24:00
記載内容
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の郵便番号、電話番号、建物名、部屋番号も明記)
4、ご連絡先メールアドレス
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