4月29日より新宿武蔵野館にて上映がスタートする映画『Sexual Drive』
本作は、“食”を通じて人間の秘められた欲望を暴露していく新感覚ブラックコメディです。今回は本作の監督である吉田浩太監督に、作品やキャストのこと、本作に込められたテーマや想いをお話を聞きました。

吉田浩太監督オフィシャルインタビュー

──この作品について「精神的にも肉体的にも色々行き詰っていた当時、全く生産性もない、誰の得にもならない自由な発想の作品を撮りたいと思い、作り始めた作品です」とコメントされていたのが印象的でした。

あまり生産的な映画が好きじゃないんです。例えば「こうしたら泣ける」とか「こうしたらうまく集客できる」とか。そういう映画はあまり作りたくないという気持ちがずっとあって。正直、こんな納豆の映画なんて誰も見たいと思わないと思うんですよ。『Sexual Drive』はそういう気持ちで作りました。

──映画館で大々的に上映されなくてもいいと思って作り始めたということですか?

いや、もちろんお客さんにちゃんと観てもらえる形の作品を作ろうとは思っていますし、ヒットさせたい。ただ、今って効率性が優先される世の中じゃないですか。そういうことだけが優先されたものが嫌なんです。

──映画を作る上で、“生産性のない映画を作る”ということを目指している?

そうですね。観たところで特に誰も得をしないような映画が作りたい。『Sexual Drive』を撮りながら、みんなに言っていましたからね、「これ、誰も得しないよな」って。

──娯楽というものは本来そういうものなのかもしれないですね。

そうだと思います。

──本作は「納豆」「麻婆豆腐」「背油大蒜増々」という3つの食をテーマに、人間の内なる性衝動が暴かれる作品です。“食”をテーマに性衝動を描こうと思ったのはどのような発想からだったのでしょうか?

「納豆がエロい」というのはずっと思っていて。「納豆をただエロく撮りたい」と思って『納豆』を作ったのが最初です。

──「納豆がエロい」ということには、いつ気付いたのでしょうか?

……みんな思わないですかね? ネバネバしているところもエロいし、あまりいい香りではないのにあれだけ美味しいというのも、良い感じに歪みがあって。これはエロスとして表現できるんじゃないかと、ずっと思っていました。

──最初に短編映画として『納豆』が作られ、そのあと『麻婆豆腐』『背油大蒜増々』をあわせたオムニバス作品として『Sexual Drive』ができたそうですね。オムニバスにしたのはどういった流れだったのでしょうか?

まず4年前くらいに、シネマスコーレ(名古屋にあるミニシアター)の特集上映用として『納豆』を作ったんです。そしたら意外と評判がよくって。脚本を書いたときから栗田という人物を派生させていけば話はいくらでも広げられるなと思っていたこともあったし、短編ひとつよりも連作にしたほうが今回のように劇場公開の機会も増えると思ったので、そのあとオムニバスにしました。

──『麻婆豆腐』『背脂大蒜増々』を作るにあたって、『納豆』を見返すこともあったと思うのですが、改めて観ると『納豆』はどういった作品でしたか?

根本的にはコメディなので「アホな映画だな」と思うのですが、栗田の視点が色濃く反映されている映画だなと思いました。栗田って、僕の経験や考え方を全部詰め込んでいるキャラクターなんですよ。だから僕にとって栗田の視点はすごく大事で。だからこそ、栗田を中心に『麻婆豆腐』『背脂大蒜増々』を作ったというのもあります。

──ここからは各話のキャストについて聞かせてください。まずは『納豆』のヒロイン・真澄役として橋本(マナミ)さんをキャスティングした理由は?

橋本さんは以前、忘年会か何かでお会いしていて。冗談で「今度『納豆』っていう、本当にしょうもない映画を撮るんですよ」「橋本さん、納豆食べられないですか? 出てください」と言っていたら……本当に出てくれました。この映画は予算もすごく少ないから本当にありえないことなのですが、快く出てくださって。

──お芝居の印象はいかがでしたか?

「納豆を食べましょう」と言って、最初に見せてくれたのがあのお芝居だったんです。この作品では、栗田という人物が実際にいるかいないかが曖昧だと思うのですが、橋本さんは最初から、その中間のお芝居をしてきた。栗田に会ったかもしれないし、会っていないかもしれない。栗田がいるかいないかということは僕からお伝えしていないので、橋本さんの中で噛み砕いてくれたのだと思います。すごい人だと思いましたね。

──夫・江夏役は池田良さんです。

江夏という役は神経質なキャラクターなのですが、その感じが池田くんに合いそうだなと思ってオファーしました。彼自身、あまりコメディの経験がなかったので挑戦しながらではありましたけど、思い切り楽しんでやってくれました。「こんなこともやっちゃっていいんだ?」って思いながらやってくれたと思います。

──続いては『麻婆豆腐』。ヒロイン・茜役はさとうほなみさんですがご一緒していかがでした?

さとうさんには以前、ワークショップでお会いしていたのですが、そのときにすごく面白い人だなという印象があって。人を轢くようなパンク気質を持っている人じゃないと茜はできないと思っていたので、さとうさんだったらできるんじゃないかと思いオファーさせてもらいました。現場でも(栗田を演じる)芹澤興人さんが「轢いてください」とむしろお願いしているような感じがあって。本当に轢かれたくなるような秘めたサディステックな魅力がある方でしたね。

──そんな茜の夫・上原役は中村無何有さんです。

脚本には、夫に何が大事かはあまり書かかれていなかったんです。だけど中村さんと話をしていく中で、この『麻婆豆腐』という作品は、茜が麻婆豆腐を通じて自分のサディステックな魅力、本来の自分の姿に気づいていく話で、旦那さんも本来の自身のマゾヒズムにも気づいていくという、つまり夫婦関係の変化話でもあるんだということがわかってきて。

──確かに、実は旦那さんの存在が重要ですよね。

そうなんです。最終的にふたりが本当の姿になるという話にできればと思って。中村さんも「自分もそういう気質があるからやりやすい」と言って演じてくれました。

──『背脂大蒜増々』もまた独特な作品ですね。この作品のヒロイン・桃花を演じた武田梨奈さんの印象を聞かせてください。

武田さんも巧みでしたね。最初、リハーサルでラーメン屋に入っていくシーンを撮ったのですが、そのときの桃花の気持ちをお話したら、すぐに掴んでくれて。もう大丈夫だなと思いました。あと「ワカコ酒」シリーズをやられているからか、食べる芝居がめちゃくちゃうまい。しかも『背脂大蒜増々』はただ食べるだけじゃなくて、食べながら興奮しなくちゃいけないので、その芝居が本当にすごかったです。

──対する池山役は尚玄さんです。この池山という役もかなり難しい役ですよね。

難しいですね。尚玄さんは大変だったと思います。武田さんもそうですけど、“対人”じゃなくて“対ラーメン”のお芝居なので。でもふたりとも見事に演じてくれました。あと、この映画はコメディですが、空気感としてはいわゆるコメディっぽさを出したくなくて。真面目に演じれば演じるほど滑稽に見えてくる。そういう映画にしたいと思っていたので、尚玄さんがあの顔で真面目にやればやるほど面白くなる。彼は作品の目指すコメディ感を体現してくれる存在だったと思います。

──そしてすべての作品、そして『Sexual Drive』のキーとなる栗田を演じたのは芹澤興人さんです。芹澤さんをこの役にキャスティングしたのはどうしてですか?

今回の栗田という役は、最初にも言ったように僕の考えや経験を反映させているので、感覚を一番わかってくれる人がいいなと思っていて。『ソーローなんてくだらない』(11)で主演を務めてもらって以降ずっと信頼している芹澤さんにお願いしました。むしろ脚本の時点で、すでに栗田はほぼ当て書きというか、芹澤さんに演じてもらいたいと思いながら書いていましたね。

──吉田監督は、栗田をどういう人物だと捉えているのでしょうか?

一言では言いづらいのですが、一番下からの視点を持っている人ですね。劇中で栗田が「脳梗塞になった」と言いますが、あれ、僕の話で。脳梗塞になったときに、本当に世の中の“地”を見たんです。それまでこんな僕でも「監督! 監督!」とちやほやされていたわけですが、病気をした途端に一切なくなって。そのときに得た視点が、栗田に反映されています。人間ってものすごく良いときと悪いときがあると思うのですが、“地”を見ないと、人の本質、物事の本質は見えないんだなって。栗田って、めちゃくちゃなことを言うじゃないですか。エロいこともたくさん言うし。でも超人然としていて説得力がある。それは一番下の視点から物事の本質を見ているからなんですよね。

──この作品は「ブラックコメディ」と謳われていますが、まさに、笑えるだけではないのはそういう視点が組み込まれているからなんでしょうね。

そうですね。でもただ笑って観てもらっても全然良いんです。何かを感じたり考えてくれたりしてもいいし、ただ「アホだな」と笑ってくれてもいい。そういう映画になるといいなと思っています。

──監督の思う本作の見所を挙げるならどこになりますか?

性描写がないエロス作品というところですね。僕自身これまでに、直接的な性描写を入れた映画も作ってきたのですが、今回は食べ物で描くという自分の中での実験的な作品になっていて。特に女性に響くといいなと思って作ったので、劇場に足を運ぶのはためらうかもしれないですが、ぜひ女性にも観てもらいたいです。

──また本作は、世界各国の映画祭に招待され、日米同時期公開も決まりました。実際に性別も国境も越えて届く作品になったのではないでしょうか。

そうだとうれしいですね。世界の映画祭に招待されたり、コンペに入ったりするということは、この手法が認められたということだと捉えていて。今後も僕自身は性についての作品を作り続けると思うので、この手法は僕の今後の指針になっていくんだろうなと思っています。

PROFILE 吉田浩太(よしだこうた)
1978年生まれ。早稲田大学中退。ENBUゼミナール卒業後、シャイカーに所属。『お姉ちゃん、弟といく』(06)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員賞。『ユリ子のアロマ』(10)でドイツ・ニッポンコネクションデジタルアワードにて審査員特別賞を受賞した後、劇場デビューした。映画は国内外で高い評価を受けており『ソーローなんてくだらない』(11)ではレインダンス映画祭でベストインターナショナルコンペティションにノミネート、和歌山テレクラ殺人事件の実話を映画化した『愛の病』(17)では、ローマアジアンフィルフェスティバルで最優秀主演男優賞(岡山天音)を受賞した。
その他の代表作に『オチキ』(12)『うそつきパラドクス』(13)『女の穴』(14)『スキマスキ』(16)「徳山大五郎を誰が殺したか?」(17)(主演:欅坂46)などがある。

「Sexual Drive」予告編

【内なる性衝動が暴かれる】映画「Sexual Drive」予告編 【reveal one's sexual drive】movie spot

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映画『Sexual Drive』
4月29日(金)新宿武蔵野館にてレイトショー上映!その他、全国順次公開!

                        インタビュー&テキスト:小林千絵