代官山のシアターギルド にて3月18日(金)から21日(月)まで、本邦初上映の実験的なプログラム『鏡 / Miroirs』バイノーラルver. プレミア上映が開催されます。

本作は、ラヴェルの組曲「鏡」の作曲から100年を経て、現代の音楽・身体・映像表現に再解釈。身体表現とヴィジュアル・プログラミングを通してヴィジョンとして読み解く。
一人の女性が成長していく過程を通して、「自己」と鏡のなかにみる「自己」=「他者の眼差し」との矛盾を軸に、「全体」と「個」との合一について問いかけていくと言う内容を舞台化したもの。
昨年11月の舞台公演にて展開された立体音響をバイノーラル化し、ヘッドフォンシアターの特性を生かした編集を新たに行なっている。
また、会期中は連日トークイベントも開催されることとなっております。

この度、シネフィルでは今作の芸術監督であり音楽家の岩田渉さんに、いくつかの質問を投げかけて、今作について紐解いていただきました。

作品について(この作品が生まれた背景・作品意図)

きっかけは二つあります。共同で原作を構想したピアニストの福井真菜さんとは前から作品づくりを一緒に行ってきたのですが、私たちに共通しているのは、楽曲の中で起こっている出来事、景色、そこでなされている会話など音をヴィジョンとして見ていること。たとえばチェロのフレーズとバイオリンのフレーズで男女が話しているとすると、この会話の内容は何だろうというように情景として見ます。割と多くの人は音楽をあまり情景としてイメージしていないことに不思議を感じていました。コロナ禍に入った時、この時間を使って音を見える形にする作品をつくろうとプロジェクトをスタートしました。

 最初はラヴェルの『マ・メール・ロワ』というマザーグースを題材に書かれた組曲を映像作品にしました(https://vimeo.com/445412151)。童話というのは原典が視覚的なものなので、映像化したときの世界観が非常に捉えやすい。その映像作品の撮影の直後、一緒に制作した前述の福井さん、アートディレクターの松井香奈枝さん、撮影監督の大川原諒くんと、コンテンポラリーダンスを入れた舞台作品にして上演してはどうだろうという話になり、作品の構想に取り掛かりました。コンセプトを立てているうちに、子ども向けの作品では物足りなくなり、福井さんからラヴェルの組曲『鏡』を主題に取り入れたいという提案もあったことでラヴェルの組曲「鏡」をメインに据えた制作にシフトしていきました。また核となるコンセプトには「全体性と個の関係性と調和」という、芸術・宗教・科学という古代から現代に通底する“三位一体”、そうした人類学的なアプローチを取りました。さまざまな宗教――それは仏教・キリスト教・イスラム教などの世界宗教だけではなく――アニミズムやシャーマンなど呪術世界の中で原型がつくられた、主にユーラシア大陸で共有されているコンテクストです。そして“鏡”はギリシャ神話や日本では神道で「神」を表す重要なアイテムですが、時に矛盾やパラドックスを超克するアイテムとして、また時には本質を表すツールとして扱われてきた歴史があります。まさしくラヴェルの組曲「鏡」も象徴として意識して埋め込まれ、書かれたもののように思います。

本作品のメインキャストには、静謐さと昂揚を自在に奏でるダンサーとして、また振付/演出家として多数の作品を世に送り出してきた平山素子さん、ピアニストには数々の国際フェスティヴァル、コンクール等での公式伴奏員、パリを拠点にヨーロッパ各地でリサイタル、室内楽を中心に演奏活動を行い現代音楽にも意欲的に取り組んできた福井真菜さん、主要クリエイティブスタッフには、プログラミングによる表現で、Kezzardrix名義で様々なアーティストのライブビジュアルやMVを手がけ、アルスエレクトロニカでの受賞歴を持つ神田竜さん、衣装デザインは映画、ダンス、ミュージシャンなどの衣裳を手掛け、昨年のオリンピックの開会式では森山未來のパフォーマンス時の衣装デザイナーを務めたスズキタカユキさん、照明デザインには、アートコレクティブ「Dumb Type」のメンバーとして舞台作品に関わり、自身の作品制作、国内外の舞台作品への参加に加え、Perfumeのコンサートの照明デザインやライゾマとのコラボレーションなどでも注目を集める藤本隆行さんらを招いての制作となりました。

映像化について(今回の映像化について)

一昨年前に『鏡のなかの鏡』というタイトルで一度、舞台作品化しているのですが、今回は昨年11月2−3日にかけて長野県茅野市の茅野市民館で行った舞台上演を映像化しています。一昨年の公演では照明ディレクター、昨年の「鏡/Miroirs」では配信映像のディレクションを務めてくれた大川原くんに映像監督をお願いしました。映像化については、舞台制作の構想段階で既に考えており、今回の上映では、リハーサル、ゲネプロ、本番それぞれ別アングルからおさめた映像を編集しています。作品の世界観を深く理解してくれている大川原くんに、舞台の記録映像とは異なる、独立した映像作品として、アングルやカメラワーク、編集を意識して構想し、組み立てを行なってもらっています。

立体音響をバイノーラル化した上映とは?

舞台公演を行なった劇場では14チャンネル、計22本のスピーカーを使用して、アンビソニックス方式の立体音響で上演しました。また公演と同時に行ったライブ配信では、バイノーラルというヘッドフォンやイヤフォンを通して臨場感を再現できる方式を用いています。ライブ配信では、事前に準備したトラック、SEや生演奏のピアノを、劇場での再生に合わせてミキシングしたものを使いましたが、今回はヘッドフォンシアター「シアターギルド」での上映に向けて、リマスタリングしたバイノーラル・ヴァージョンを準備しました。シアターギルドでもバイノーラル作品は初上映と聞いていますので、反応も含めてとても楽しみにしています。

今後の展開等

昨年の舞台作品としては“マスター”にあたる作品制作ができたので、国内外で上演できる場所、機会を模索しています。また映像化した作品の方でも、バイノーラル、ドルビーアトモスなどの立体音響、5.1chサラウンド、ステレオで上映する機会が欲しいですね。また、映像/映画祭、コンペティションにも積極的に出品して色々な方々の感想も聞いてみたいと思っています。

今回ご覧いただく方へのメッセージ

自分にとって「美しい」と思えるところを見つけてもらえるとうれしいです。

プロフィール
岩田渉 音楽家/芸術監督
幼少の頃よりクラシカルピアノのトレーニングを受ける。6歳よりCM制作に携わり、9歳よりMTRでの作曲/音楽制作を始める。15歳でジャズ理論を学ぶ。ユースをボストン、NYで過ごし、フリーシャズの薫陶を受ける。NYでは杉村篤に師事し、絵画、美術制作を学ぶ。帰国後はパフォーマンス・グループ主催、音楽制作、マルチメディア教材の制作、ピアノトリオ、カルテットを始めとした演奏活動、専門学校講師、絵画展、インスタレーションを行ってきた。現在、コンテンポラリー、電子音響、クラシック、エレクトロ・アンビエント等のフィールドで創作・演奏・企画/制作を行う。またディレクターとして、クラシック・コンサートの企画、国際会議の企画・制作、美術展のキュレーション、デジタルアート制作など、分野を超えた積極的な活動を行っている。
ポートフォリオ:https://objet-a.art/wataru_portfolio/
Apple Music:https://music.apple.com/jp/artist/wataru-iwata/1470158071
Spotify:https://open.spotify.com/artist/2FzXtjTAfCaVBiv7FdbKEK?si=LZSZiurWTuu6DmVVG4lYjQ

「鏡/Miroirs」トレイラー

Miroirs/鏡 Trailer

youtu.be

原作・原案 福井真菜/岩田渉 
ヴィジュアル・プログラミング 神田竜(Kezzardrix)
音楽 モーリス・ラヴェル/岩田渉 
照明デザイン 藤本隆行(Kinsei R&D)/大川原諒 
衣装デザイン スズキタカユキ 
デザイン&ウェブディレクション 上妻優生 

芸術監督 岩田渉 
企画制作 Objet α Institute/髙橋創業

公式サイト:https://miroirs.objet-a.art/

3月18日(金)よりシアターギルド にてプレミア上映

チケット購入は下記より