17世紀オランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメール(1632-75年)が描く独自の静謐な世界は、美しい光と影のコントラストを用い、繊細で写実的な空間表現で、日常の何気ないワンシーンを映し出し、今なお、世界中の人々を魅了し続けます。
この度、寡作で知られるフェルメールの貴重な展覧会、ドレスデン国立古典絵画館所蔵 「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」が、東京都美術館において、4月3日まで開催されています。

初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》の背景にキューピッドの画中画が描かれていることが、1979年の調査で判明し、長らくフェルメール本人が塗りつぶしたものだと考えられてきましたが、2017年から開始された専門家チームによる修復プロジェクトにより、この上塗りはフェルメールの死後、何者かによって行われたものであることが明らかになり、フェルメールの描いた姿に修復されることとなりました。
本作は修復完了後、2022年1月2日まで所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館で公開された後、世界に先駆けて日本で公開されています。

本展では、ドレスデン国立古典絵画館がこの傑作を収蔵するきっかけになったザクセン選帝侯の貴重なコレクションを中心とし、フェルメールと同時代に活躍した巨匠レンブラント・ファン・レイン、ハブリエル・メツー、ヤーコプ・ファン・ライスダールなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点もあわせてご堪能いただけます。
それでは、シネフィルでも、本展の主な作品を紹介させていただきます。

ヨハネス・フェルメール 《窓辺で手紙を読む女》(修復前) 1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館
© Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Herbert Boswank (2015)

1742年にザクセン選帝侯のコレクションに収蔵されたフェルメールの初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》はドレスデン国立古典絵画館が誇る至宝のひとつで、フェルメールが風俗画に転向して間もない初期の傑作です。
窓から光が差し込む明るい室内で、女性が何かの行為に没頭するという、フェルメールらしい構図で描かれています。
右端のカーテンは、実際に絵を覆っている現実のカーテンのようにも見え、このような表現は当時流行したもので、若きフェルメールが他の画家の表現を意識しながら、自身の画風を模索していたことがわかります。

ヨハネス・フェルメール 《窓辺で手紙を読む女》(修復後) 1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館
© Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Wolfgang Kreische

修復により現れた画中画には、愛の神であるキューピッドが嘘や欺瞞を象徴する仮面を踏みつける場面が描かれていて、誠実な愛の勝利を表すと考えられます。

修復作業の様子 © SKD, photo: Kreische/Boswank

本作の手紙を読んでいる女性の背後の壁に、キューピッドの画中画が隠されていることは、1979年、サンフランシスコでの展覧会に出品された際に行われたX線調査で判明していましたが、この構図上の大きな変更を行ったのは画家本人であるというのが、研究者たちの考えでした。
ところが、科学調査の結果、キューピッドの画中画を上塗りした時点で、この絵画はすでに完成から少なくとも数十年は経っていたことが解ったのです。
フェルメールが亡くなったのは、この絵を描いてから17年ほど後になりますが、今回判明した事実は、明らかにそれ以上の時間が経過してから上塗りされた、つまり画家本人による上塗りでないということを示していたのでした。

修復作業の様子 © SKD, photo: Kreische/Boswank

2017年12月、専門家委員会の提言を受け、所蔵館は上塗りの一部を試験的に取り除くことを決定します。
手作業によって上塗りの絵具層を取り除く作業が慎重に進められ、その結果、隠れていた画中画部分の状態は極めて良好で、フェルメールが描いた当時の状態を残していることが分かったのです。
フェルメールは他のいくつかの作品にも画中画として絵画にストーリー性を持たせ、象徴的な意義を加えるため、キューピッドを描いていました。

以前、《窓辺で手紙を読む女》の作者を誤って、当時、高く評価されていたレンブラントとされていましたが、真実が解き明かされ、画中画のキューピッドが見つけられて、作者のフェルメールも安堵しているかもしれません。

レンブラント・ファン・レイン 《若きサスキアの肖像》 1633年 ドレスデン国立古典画館
© Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Elke Estel/Hans-Peter Klut

レンブラントは、17世紀のオランダ絵画黄金期に活躍した最大の巨匠です。
茶褐色系の暗い色を背景に、スポットライトを当てたような強い光による明暗対比や、登場人物の深い精神性を帯びた表情などが特徴です。
肖像画、宗教画、神話画など様々なジャンルの作品を手がけ、大きな足跡を残しました。

ハブリエル・メツー 《レースを編む女》 1661-64年頃 ドレスデン国立古典絵画館
© Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Elke Estel/Hans-Peter Klut

ドレスデン国立古典絵画館のコレクションの基礎を作り上げたザクセン選帝侯アウグスト1世と2世は、17世紀オランダ絵画の中で、レイデンの画家を特に好みました。
メツ―は細密な表現で、フェルメールも描いた同主題の《レースを編む女》の女性像とは対照的です。

ヤーコプ・ファン・ライスダール 《城山の前の滝》 1665-70年頃 ドレスデン国立古典絵画館 © Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Elke Estel

レンブラントやフェルメールが活躍した17世紀は、オランダ絵画の黄金時代と言われ、他にも多くの優れた画家を輩出しました。
こうしたオランダ絵画の黄金時代において、もっとも重要な風景画家と見なされるのがヤーコプ・ファン・ロイスダールです。
ロイスダールは森林、海岸、田舎道などさまざまな風景を描いています。
本作は、地平線を低めにとって、青い空に白い雲が広がり、清々しい緑の樹々や、滝の流れを描いていて、澄みきった大気感までが伝わってくるようです。
17世紀オランダ風景画は、以後の風景画の発展に大きな影響を与えました。

ドレスデン国立古典絵画館 © SKD, photo: Kreische/Boswank

ドレスデン国立古典絵画館は、ドイツ東部ザクセン州の州都・ドレスデンのツヴィンガー宮殿の一角にある美術館です。
17世紀から18世紀にかけての2代のザクセン選帝侯のコレクションに始まり、15世紀から18世紀の絵画を多く収蔵し、特にルネサンス期、バロック期のイタリア絵画、17世紀オランダ絵画、フランドル絵画が主要なコレクションとなっています。
本展に出品されている《窓辺で手紙を読む女》のほか、同じくフェルメール作の《取り持ち女》も所蔵するなど、ヨーロッパでもトップクラスのコレクションを誇っています。

永年の謎が解けて、修復され、披露されることになったフェルメールの名作《窓辺で手紙を読む女》を是非、この機会にご覧ください。

展覧会概要

展覧会名 ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
英語展覧会名 Johannes Vermeer and the Masters of the Golden Age of Dutch Painting from the collection of the Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden
会 場 東京都美術館 企画展示室 https://www.tobikan.jp
会 期 2022年2月10日(木)~4月3日(日) 
休室日 月曜日、3月22日(火) ※ただし3月21日(月・祝)は開室
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
※金曜日は9:30~20:00 
観覧料 一般 2,100円/大学生・専門学校生 1,300円/65歳以上 1,500円
※本展は日時指定予約制となっております。
※高校生以下は無料(日時指定予約必要)。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料(日時指定予約不要)。
※未就学児は日時指定予約不要です。
※高校生、大学生、専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください。
お問合せ050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト www.dresden-vermeer.jp
※展示作品、会期等については、今後の諸事情により変更する場合がありますので、
最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

※誠に申し訳ございませんが、展覧会が日時予約制となっておりますので、今回シネフィルチケットプレゼントは、ございません。 何卒、ご了承ください。