ミニシアター、横浜シネマ・ジャック&ベティの30周年企画として製作された『誰かの花』がいよいよ1月29日からジャック&ベティ、渋谷ユーロスペースで劇場公開されます。
主演のカトウシンスケさんと奥田裕介 監督の対談の様子をお届けいたします。

出会い

(カトウ)監督との出会いは・・・。4年前の奥田監督の作品『世界を変えなかった不確かな罪』を新宿のK’s cinemaに観に行って。その後に数回食事したりしたことからですかね。

(奥田)ジャック&ベティ30周年の映画を手掛けることになり、脚本を書いていた時にカトウさんに主演をお願いしようと思いまして脚本をお送りしました。

(カトウ)思いだした。脚本すぐに送りますって言ってから、2週間くらい音沙汰なしでどうしたのかなって(笑)。

(奥田)ちゃんと見せられるところまで仕上げようと思って(笑)。

(カトウ)脚本見て、ずしんとして。その後すぐに監督と脚本の話をして、最初の話で5時間くらいでしたかね。日が暮れるまで。

(奥田)脚本の話で5時間。何、話したんですかね。

(カトウ)脚本を豊かにしたいね、みたいなことを話した記憶があります。
その時に流行っていた映画の話もしましたよね。世界を席巻した映画なんですけど・・・。

(奥田)そうですね。順当なわかりやすく素晴らしい作品だとは思うんですけど、僕の目指す映画は、その方向ではない、とか。いろんな話をしましたよね。

左よりカトウシンスケ(主演)×奥田裕介監督

お互いについて

(奥田)カトウさんはとても気を使いますよね。他人に雑になることってないんですか?

(カトウ)あるよ。雑になること。人見知りなところがあるし、現場でしゃべらないこともあるし(笑)。そんなに気を使っているということもないんですけどね。

(奥田)そうですか。人に対しての姿勢とかきちんとしていて。どんな人にも好かれそうな。周りの人によい印象を与える感じがします。

(カトウ)うーん。僕はどちらかというと中心にいる人間ではないと思っていて。劇団(※オーストラ・マコンドー)では演出の倉本(※オーストラ・マコンドー主催:倉本朋幸)が中心で僕がそばにいる、今回の作品では奥田監督がいてその脇にいる、というのが僕のポジションなのかな。中心になって物事を動かすタイプではないので、自分のできる限りの範囲で精いっぱいのことをしようとしているので。そこが気を使っているように見えるんですかね。

(奥田)自分としては、カトウさんが自分の味方になってくれているのが心強かったです。

(カトウ)よい作品をつくるためだったら(笑)。
俳優のエゴって全体の流れの邪魔にもなるし、現場のノイズにもなりやすいと思うんです。
でも時には必要なときもあるので、僕は我を出すのは一回くらいにしておこうかと思っているんです・・・監督、3~4回、言ってたじゃん、みたいな顔してるけど(笑)。
監督の表現したいこと、向かっていることの邪魔になってしまうとあまり良くない事が多いし、ただカメラ前に立っているだけでも面白くない。
だから監督の根幹に寄り添って現場にいるだけなんですけどね。
監督はあまり主張をしないですよね。

(奥田)そうですか。

(カトウ)僕が現場でアドリブとか入れて違うときちんと言ってくれるし、語尾がちょっと違うだけでも「僕の作品の世界ではないです。ただそのニュアンスがいいので他の言い方を一緒に考えましょう」と言ってくれるし。それは俳優のエゴとは違うと思うんです。監督のこだわりというか、そういった監督のこだわりの積み重ねが今回の『誰かの花』になっているんじゃないかな、と思うんです。

カトウシンスケ(主演)

コミュニケーションと信頼から生まれた作品

(カトウ)僕は役つくり、ということがよくわからないんです。役をつくるというよりも役に近づいていく、ということなのかなと思います。孝秋を理解して、奥田監督や奥田監督の考えるキャラクター孝秋の最大の味方であり続けようということじゃないかなと思います。
監督がどんなに孝秋を語っても、僕がその人間に想いを持ち込めなかったら孝秋は世界から否定され続けちゃうから・・・そう言いう意味では僕は監督の味方でもあるし、孝秋の最大の味方でもあるし。

(奥田)先ほどもお話しましたが、カトウさんとはとにかく時間をかけて話ましたよね。
脚本や孝秋の話から始まるんですけど、二人とも話がどんどん逸れちゃうので、全然違う話ばかりしたり(笑)。
ただ、逸れっぱなしではなくて、それは後々脚本につながったり、思うことが共感できたり、共通認識と信頼が生まれたんだと思います。
作品のあるシーンにもそれが表現されたこともありますし。

(カトウ)話を逸れ続けさせることが、作品作りにつながったんですかね。事前に奥田監督と十分なコミュニケーションをとれたことが孝秋の考えや端々の行動につながっていったと思います。監督に何か訊ねても「孝秋は多分、こうすると思います」というやり取りができましたし。
シーンの話をしていてもこういうシーンにしたいね、孝秋はその時はこういう風に行動するんじゃない、という連続で出来上がっていったような気がします。

(奥田)孝秋の全体の組み立ては、すごくされていましたよね。

(カトウ)そうですね。全体の中で孝秋がこうなったらいいな、ということは考えていましたよね。

(奥田)監督がこういうことを言ってはいけないんでしょうけど、もっと受け身の演じ方だったらもっとのっぺりした感情移入のしにくいキャラクターになっていたんじゃないかな、と思うんです。

(カトウ)僕も結構難しくて。態度を出しすぎないように、でもしっかりと確立させなくてはいけないしと思っていました。素材をつないだ時に奥田監督に「孝秋ってかなり表情に出るんですね」って言われて、出しすぎたかな、ともちょっと思って。
「いい意味で」って言ってくれてたけど。
何を抱えて何が滲み出てくるのか匙加減が難しいですよね。

(奥田)孝秋は自分の投影ではないんですけれど、どうしても自分の目線でのキャラクターなんですよね。そこにカトウさんの目線や行動がかぶさってきたときに輪郭がものすごく見えてくる瞬間もあって、脚本で台詞を切ろうかと思ったらカトウさんも同じところを感じていたり、ということもありましたよね。

(カトウ)そうそう。孝秋はへらへらしていてまっとうに何かをする人間ではないんですけど、何かあったときに行動をする奴だなって思って。さっきの話でしたら、台詞をいうよりも行動に起こすほうが先なのかなって思っていたら監督もそう思っていた(笑)。

(奥田)この間、脚本読み直していたら、そのシーンで孝秋が走るんですが脚本には「走る」とは書いていないんですよね。あそこはカトウさんが走るということをおっしゃって・・・カトウさんが走る速度で孝秋の感情が作品の中で一本につながりましたよね。
カトウさんとのコミュニケーションがなければ孝秋というキャラクターはこんなにも作品の中で生きてこなかったと思います。

奥田裕介監督

『誰かの花』予告編

『誰かの花』予告編

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1月29日(土)~ユーロスペース、ジャック&ベティほか全国劇場公開

『誰かの花』(奥田裕介 監督)横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画