今回は、キャバレー王という異名をとり、全国に44店舗にものぼるキャバレーを展開した、昭和の名実業家・福富太郎(ふくとみたろう/1931-2018)が蒐集したコレクションを紹介致します。
福富太郎(本名、中村勇志智)は、実業家として成功する一方で、少年期に父の影響で美術品蒐集に興味を抱いたことから、絵画コレクターとしての道を歩み始めました。
念願だった鏑木清方を手はじめに、著名な画家の作品だけでなく未評価の画家の作品であっても、自身が良質であると信じれば求め、蒐集内容の幅を拡げていきました。
実業家として著名人であった福富は、テレビやラジオにも多数出演し、軽妙でユーモア溢れる語り口が人気を博していましたが、自身の蒐集作品を題材に1992年から『芸術新潮』にて連載をスタートさせるなど、美術に関する文筆も積極的に行い、美術作品の魅力や愉しみ方を紹介する活動に尽力しました。
福富が情熱を傾け蒐集した作品の数々は、日本近代美術を紹介する展覧会において、多くの人々を魅了し、他とは一線を画すコレクターとして注目される存在となったのです。
本展は、作品を追い求めた「福富太郎の眼」に焦点をあて、その類い稀なるコレクションの全貌を紹介する初めての機会となります。
鏑木清方や北野恒富に代表される東西画家の美人画はもとより、時代を映す黎明期の洋画から戦争画に至るまで、約80点の作品を通して今も息づくコレクションの魅力と、作品とともに歩んだ福富のコレクター人生を辿ります。
福富と10年間親交のあった、本展監修者・山下裕二氏 (美術史家・明治学院大学教授)は、「私は、福富太郎という人は、間違いなく戦後最高のコレクターだと思っています。」と、絶賛しています。
実業家としてもコレクターとしても偉大だった福富太郎の追悼ともなる「コレクター福富太郎の眼」を是非、この機会にあべのハルカス美術館でご覧ください。
それではシネフィルでも展覧会構成に沿って、感動的な福富コレクションのいくつかの作品を観ていきましょう。
Ⅰ コレクションのはじまり ― 鏑木清方との出逢い
福富の父が大切にしていた鏑木清方の作品が空襲で焼失してしまったことをきっかけに、福富は事業に成功した1964年頃から清方作品を本格的に蒐集するようになります。
そして1967年、作品を携えて初めて本人を訪ね、すべて本物であることを確認できたのです。
それ以来清方との親交は続き、福富は清方研究に欠かせない、充実した作品を所有するコレクターとして注目されるようになりました。
清方が作品との再会を喜んだと言われる《薄雪》や、発表当時も話題となった異色作《妖魚》などを含む13点が紹介されています。
近松門左衛門作『冥途の飛脚』はのちに脚色されて歌舞伎の舞台でも上演されました。
この舞台から着想を得た清方は、死の覚悟を決めて抱擁を交わす忠兵衛と遊女梅川の姿を、儚く消える薄雪になぞらえ表現しました。
本作は福富の思い入れの強い作品で、永らく行方のわからなかった《薄雪》との再会を清方が、殊の外喜んだそうです。
Ⅱ 女性像へのまなざし 東西の作家が描く美人画の競演
第2章では東と西の画家合わせて24名の作品を紹介しています。
福富コレクションの核とも言える近代日本画の女性像。
福富は画家の有名無名に関係なく、自身の眼で見て気に入った作品を蒐集し、さらには、関連する資料や情報を収集し対象への理解を深めてコレクションの幅を拡げていきました。
梶田半古、渡辺省亭、富岡永洗、小村雪岱…鏑木清方を軸としながら、その先達・同輩・後輩に至るまで江戸時代以来の伝統をしっかりふまえた線描と岩絵具ならではの美しい彩色が施された女性像を積極的に蒐集しています。
「美人画」は、妙齢で優美華麗な女性像だけではなく、時代時代の世相風俗を反映したもので、その女性の生活感が伝わってくるようです。
大正期には関東でも関西でも妖艶な女性像が流行しました。
なかでも『画壇の悪魔派』と称された北野恒富の《道行》は、福富が「なんとしても入手しようと思った」と語るほど、コレクションのなかでも特に重要な作品として位置づけられています。
福富が魅せられた女性たちは、美しいだけではなく、どこか憂いを含み存在感を放っています。
《道行》は、第7回文展で落選した《朝露》と同定される作品。近松門左衛門の『心中天の網島』を題材にとり、「道ならぬ恋」や「死」というタブーを露骨なまでに描いたことで発表当時も話題となりました。
血の気のない表情とは裏腹に、重ねられた手はやや明るい色調で表現され、死へと向かう二人の覚悟を象徴的に描き出しているようにも思われます。
清方の《薄雪》とは違う衝撃と、言い知れぬ緊張感を漂わせています。
上村松園は近代京都画壇を代表する女流画家で、優雅で気品あふれる女性の日常生活を、繊細に美しい色彩で描きました。
Ⅲ 時代を映す絵画
近代日本画のコレクターとして有名な福富ですが、洋画においても重要な作品を数多く収集しています。
近代洋画の父としてしられる高橋由一や山本芳翠をはじめ、岡田三郎助や岸田劉生といった美術史上にあがる著名画家の作品を手にする一方で、洋画においても画家の有名無名を問わず、自分が本当に惚れ込んだ作品を蒐集するという姿勢は変わりませんでした。
また、幼少期に第二次世界大戦を経験した福富は、戦争画やその周辺の作品も積極的に蒐集しています。
「美人写真コンテスト」の宣伝を目的に描いたといわれる本作は、均整の取れた輪郭と大きな瞳が印象的で、新しい時代の「美人イメージ」の創出に役割を果たしたといわれています。
「大事に保蔵して自分も楽しみ、芸術を遺産として残したい。この気持ちを理解してていねいに扱ってくれるひとびとのおかげで、多くの人たちに見て頂ける、これもコレクター冥利です。」 福富太郎「好きなものを蒐める」
引用 『明治・大正・昭和 近代美人画名作展 福富太郎コレクション』図録
千葉そごう美術館 1993年
福富は、自分の眼で選んだ大切な芸術を多くの人々に見て頂き、その感動を分かち合いたかったのでしょう。
是非、福富の思いを感じ、美術館でご堪能ください。
展覧会概要
展覧会名 コレクター福富太郎の眼 The Collection of Fukutomi Taro
主 催 あべのハルカス美術館、関西テレビ放送、読売新聞社
特別協力 福富太郎コレクション資料室
監 修 山下裕二(美術史家・明治学院大学教授)
企画協力 アートワン
会 期 2021年11月20日(土)~2022年1月16日(日)
会 場 あべのハルカス美術館 ABENO HARUKAS Art Museum
〒545-6016 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
近鉄「大阪阿部野橋駅」、JR・地下鉄「天王寺駅」、阪堺上町線「天王寺駅前駅」下車すぐ。
駐車場はございません。公共交通機関をご利用ください。
開館時間 火~金/10:00~20:00、月土日祝/10:00~18:00 ※入館は閉館30分前まで
休 館 日 11月29日(月)、12月31日(金)、1月1日(土)
観 覧 料 一般1,500(1,300)円/大高生1,100(900)円/中小生500(300)円
※料金はすべて税込み。 ※( )内は前売りおよび15名以上の団体料金。
※前売券は11月19日(金)まで販売。
※障がい者手帳をお持ちの方は、美術館チケットカウンターで購入されたご本人と付き添いの方1名様まで当日料金の半額。
※本展観覧券(半券可)の提示で、特別展「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」
【2021年11月13日(土)~2022年1月16日(日) 大阪市立美術館】の当日券を100円引で
ご購入いただけます。(1枚につきお一人様1回限り有効、他の割引券との併用不可)
【チケット販売場所】
あべのハルカス美術館ミュージアムショップ(美術館開館日のみ)、あべのハルカス美術館
ホームページ(オンラインチケット)、近鉄駅営業所、チケットぴあ(Pコード:685-695)、ローソン
チケット(Lコード:59080)、イープラス、セブンチケット、CNプレイガイド、近畿日本ツーリストグループの店舗(一部店舗を除く)など。
お問合せ Tel 06-4399-9050
美術館公式ホームページ https://www.aham.jp
「コレクター福富太郎の眼」@大阪 シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「コレクター福富太郎の眼」@大阪 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、招待券をお送り致します。
この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
*応募締め切りは2021年11月29日 月曜日 24:00
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、当選無効となります。
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9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。