2000年に東映系で全国劇場公開された新世紀怪奇シネマ『うすまき』が、シアターキルド代官山で21年ぶりの劇場上映決定いたしました。
「富江」等、怪奇漫画家として日本が世界に誇る(2021年アイズナー賞2部門同時受賞)伊藤潤二氏の代表作「うずまき」を「LʼArc〜en〜Ciel」や「氷室京介」等数々のアーティストのMVやLIVE映像を手がけるHiguchinsky 監督が映像化した、⻑編テビュー作品です。
主演は『ノルウェイの森』他、ハリウッドデビューも果たした初音映莉子、モデル出身のフィーファン 。共演には大杉漣、高橋惠子などの名優陣や、佐伯日菜子、三輪明日美、阿部サダヲ、手塚とおる、でんでん、堀内正美などの個性派俳優が名を連ねています。2000年の日本公開から時を経た現在でも世界の映画ランキングで上位を賑わし、カルト作品として再評価されてきている異色作!
公開告知のWEBニュースがSNSで拡散され、すでに海外のサイトで取り上げられるまでの大反響。
発売されたチケットは瞬く間に残り席わずかとなり、別日公開の問い合わせが多かった為、急遽、2日間【10/18(月) 10/19(火)】の 追加上映が決定となりました。
この度の劇場上映に向けて、今作の監督、Higuchinsky氏にいくつかの質問を投げかけたところ、ウクライナからエアメールで以下のような怪答が届きました。
映画『うずまき』Higuchinsky 監督へのQ & A
映画『うずまき』が生まれた経緯
私の観点からの話になってしまいますが、ビックコミック スピリッツに連載されていた漫画「うずまき」の第6話「巻髪」をたまたま読んで、そのビザールかつ美しい世界観にたちまち魔かれてしまいまして、当時エコエコアザラクの TV シリーズ(※注 1)を 1 本演出させて頂いた時に監修をされていた梶 研吾さんにすぐさま電話しました。「次は一緒に映画やりましょうねっ!」て話をしていたのでw すると「既に映像化の話があって丁度監督を探してたんだよ」ということでプロデューサーの方に繋いで下さったんです。これはもう本当にラッキーというか運命を感じましたね。映画監督になるのは 15 歳の時に大量の γ 線をあびた頃からの夢だったので。(ロシア語意訳)
(※注 1)エコエコアザラク THE SECOND〈第 22 話〉魔女裁判 当時東京では榊原事件の影響で突如の放映打ち切りになり未放映だったエピソード
漫画「うずまき」について
きっかけは先程の第6話からなんですが、初めから読み直した時にもう完全に伊藤潤二ワールドに魔かれましたね。まず絵がすごくビザール&ビューティフルでめちゃくちゃかっこいいじゃないすか。最近コラボで服にもなったりしてますけどそのぐらい人を魅了する絵、画風ですよね。そしてお話も町がうずまきに呪われるという、実は字面だけで考えると怖くない話だと思うのですが、伊藤潤二ワールドに入り込んだら最後、我々はそのうずまき達に魅了され魔かれてしまっているんですよね。世界で人気があるのも納得ですしそうあるべき作家。そのビジュアルパワーが本当に半端ないので、映像化するにあたっても絶対原作には敵わないだろうけどなんとか近づきたいと思ってました。原作は映画完成後に完結したのですが、もう魔かれっぷりが半端ないですよねw (ロシア語意訳)
この作品を作るにあたって監督として特に気にかけられた点、苦労なさった点を教えてください。
自分は大学時代から「フィルムで撮影→ネガテレシネ→ビデオで編集」という方法で作品を作ってました。最終的にビデオ(VHS)にした方が観てもらえる機会が多いと思っていたのと、当時開発されたばかりのネガテレシネの手法は、曇りを晴れに出来るし、フィルムの空気感を残しながらも自由にトーンをハンドリング出来るので最高じゃんと。当時はまだプロクレッシブ撮影とか出来なくてビデオで撮影すると生っぽかったですしね。そして時を経て MV を作るようになり、まさにその手法がメインとなっていたのと、うずまきの世界観を創り出すのにはぴったりだと思って「フィルム撮影→ネガテレシネ→ビデオ編集→キネコ(フィルムに焼く)」という工程で作業させて頂きました。当初は単館上映の作品として企画を進めていたので割とすんなり OK して貰えたのですが、途中で全国配給が決まった時はその方法を認めて貰う為にテストキネコして映画館で試写したりもしました。結果的に 16mmフィルムでの撮影から35mmフィルムでの撮影にすることで漸く OK を頂きました。もうひとつの問題は、キネコするには秒 24コマでビデオを編集せねばならず、だけど当時は 24Pで編集出来るシステムがAVID ぐらいしかなくて、AVID の編集オペレーターの方もいらしたのですが、OK テイクのみを繋いでいく作業ではなく、普段やっていたように素材全てを検証かつ試行錯誤しながら自分で編集したかったので、反対されたりもしましたが自分が使い慣れていたヘビーワークスという編集機で自分で編集させて貰いました。で、きちんと話すとかなりややこしいので省きますが、結果的に編集がとてもややこしくなったわけですw しかし今思うのはやはり自分で編集して良かったなぁと。そうじゃなきゃこんな奇妙な映画にはならなかっただろうなぁと思っています。(ロシア語意訳)
いわゆるJ ホラーという括りではない、POPさやARTFILM、実験映画的等、複合的な要素が散りばめられている気がするんですが。
そもそも自分は「うずまき」という漫画をホラーと捉えてなかったんですよね(汗) 伊藤潤二さんとも撮影前にお話したのですが「うずまき」は怪奇であり、自分はその怪奇さを映像化したいですと。スタッフには『悪魔の手毬唄』とか 『怪奇大作戦』のトーンで行きたいと話してました。2000 年公開だったので新世紀怪奇シネマという宣伝文句でお願いしたのですが、別配給会社の作品と〈ホラー対決〉みたいな宣伝をされてしまい非常に不本意でした。そもそも自分ホラー映画は観るの苦手ですしね(汗) それと当時の自分は映画=単にストーリーを語り伝えるもの派、ではなく、映画=時間軸含め映像ならではのもうひとつの世界を創り魅せるもの派w、だったので、その辺が実験的風味も醸し出し ているのではないでしょうか。当時漫画自体が最後まで完結していなかったのもあって、お話として完結させるのではなく、映画そのものをうずまき構造にしたのも実験映画的風味醸し出しちゃってるのかもです。気付いた人は少ないというかいないかも知れませんが、当時の映画は今と違ってフィルム上映若くはビデオテープで観るものだったんですよ。 つまり映画『うずまき』そのものがうずまきでして、「観るたびに魔かれ繰り返される悪夢」なのです。 (ロシア語意訳)
役者さんについては何か印象に残った事はありますか?
主役のお二人は私の提案でビジュアルで決めさせて頂きました。映像は観るものなのでビジュアルでグッと来るのが一番大事という。初音映莉子嬢は本当に奇跡のように桐絵で可愛いくて、虚構の世界の住人として超絶に可憐な空気を醸し出してますよね。フィーファンは超怪奇顔だし、今回あらためて映画を観なおして「2人とも完璧だ」と思いました w エコエコアザラクでも組んだ佐伯日菜子嬢は、彼女が伊藤潤二さんのファンだったこともあって、もう嬉々として、いや奇々として演じてくれましたね。魔かれてる時の巻髪も全てCG 無しの自前ですからね。本当に凄いです。
大杉漣さんは敢えて原作を読まずに来たと衣装合わせの時おっしゃっていたのですが、ご持参された眼鏡がまさに斎藤敏夫の眼鏡で w、現場でも本当に楽しんで演じて頂きました。目玉を回すシーンもなんとかご本人でとお願いしたら、かなり練習されたようでしっかり体得されてましたね。あの演技にはこちらも目を回しました。
高橋恵子さんは本当にお綺麗でおやさしくて、ロケ場所のご好意でみんなで手料理を頂いた時なんかもうその母性にグルグルじゃないメロメロになりました。現場では休憩中生ヤスデを指に巻いてじゃれてたり、本番では耳の中入っていくヤスデをしばし我慢して頂いたりして、その度胸に舌を魔き、あ、巻きました。
阿部サダヲさんは確かクラインクインした日の最後、雨ふらしのシーンだったのですが、自分が芝居以外の部分で拘ってしまい雨の中何テイクも演技して頂いて、OK出た時には唇超ムラサキになってしまってるのに「こんな体験なかなか出来ないんで嬉しいです」とグルグルじゃないブルブル震えながらも笑顔で答えて頂きました。魔かれるシーンも痛かったと思いますが、腰あたりまで限界まで魔かれて下さいました。
堀内正美さんはテレビの『七瀬ふたたび』からの大ファンでして、もうお顔が怪奇イケメンで Higuchinsky の大好物なので映画のオリジナルキャラであるうずまきの謎を解く記者役をお願いしました。あの音楽にのせて繰り広げられる調査シーン、お気に入りのシーンなのですが、あそこに出てくる情報は全てヒントになってまして、その情報や堀内さんが一番最後に積み上げる本を読んで頂くと、、、みたいな仕掛けになってます。
当時から既に映画をビデオで観る人が多かったので、ビデオ化されたら一時停止して読み解いて欲しいなぁと思ってました。他にも実はよく観ると色々な仕掛けがありまして、DVD の副音声でヒントを解説した記憶があります。堀内さんには初音嬢とともに同じ伊藤潤二さん原作の『長い夢』という作品にも御出演頂いてます。この作品も映画『うずまき』と緩やかにリンクしてますので、機会があったら是非観てみてください。あ、音楽の話が出たついでに、音楽はMOONRIDERS の鈴木慶一さんとかしぶち哲郎さんなんですが、先ほどの調査シーンとかはかしぶちさんに細かいお願いしてすっごくカッコよくして頂きました。
ざっくりわけると初音嬢のほんわかしたシーンの曲は鈴木さん担当で、怪奇系はかしぶちさん、という感じでしたね。 サントラ盤があるのですがこれがまたカッコ良いんですよ。エンディングテーマ曲の Do As Infinity「Raven」も入ってますしね。
話戻しますと、手塚とおるさんもファンだったんですがもう最高でしたねwww デフォルトで魔かれてらっしゃいましたからね。でんでんさんのシーンは実はもうちょっと撮影していたのですが、全体の流れの都合上やむなくカットしてしまいました。別シーンで音声だけ使わせて頂いてます。最後の魔かれ○○でるシーン超カッコいいっすよね。
三輪明日美嬢もラブ&ポップ以来のファンでしたが、最初にちょっとキャラクターの話をしたくらいでもう自然とキュートに役を演じてくれたので、そうそうそれです!はい OKみたいな感じだった記憶があります。
他の出演者の皆さんも含めて、台本自体そこに特に感動があるわけでもないのに「言いたいことはないんです(汗)。 魅せたい世界を創りたいんです」という私の説明にご納得頂いて、超グッと来る演技をして頂き、感謝しかないです。 (ロシア語意訳)
2000 年に日本公開された映画ですが、逆に 2010 年以降、海外での評判が高まってきてると思うのですが、この点 はご自身ではどう思われますでしょうか?
2015年WhatCulture第1位
https://whatculture.com/film/10-strangest-horror-movies-of-all-time?page=1
2015年
BuzzFeed15位
https://www.buzzfeed.com/alexalvarez/horrifically-beautiful
2019年英国ガーディアン7 位
https://www.theguardian.com/film/2019/feb/21/top-20-japanese-horror-films-ranked
映画監督になると決めた時の目標が「映像による世界征服」だったので、異文化の方に刺さるのは本当に嬉しいですね。 映像作品の良さは、作り手がその場にいなくても、どこかの誰かと繋がれる、って事だと思ってますので、国境を超えてたくさんの人に観て頂けてるだけでも光栄です。あと好き嫌いが超絶激しく分かれる作品だと思うのですが、普通じゃないのが好き、な方々には強い痕跡を残せてる気が致します。あと海外の方にはお話でなく純粋にビジュアルを楽しんで貰えてるのかなぁとも思います。伊藤潤二さんの原作漫画のパワー、というのがもしかしたら正解なのかも知れませんが w、ただそこに目をつけた Higuchinsky の目に狂いはなかったんだなと★ (ロシア語意訳)
21年ぶりの日本での劇場上映になりますがご感想を。また初めてご覧になる方などへ、メッセージをお願いします。
まさに 21年前の作品ではあるのでお恥ずかしい面もございますが、映画というのは誰かに観てもらって初めて完成するものですから単純にとてもありがたく嬉しいです。そして隠れファンの方が結構いらしたことにも感動してます w 初めてご覧になる方にグルグルじゃないくれぐれもお伝えしておきたいのは、ホラー映画だと思って観ないでくださいw 怪奇映画です。そして理屈で考えず雰囲気を楽しんで、皆さんの想像で足りない部分を補完しながら楽しんでみてください。悪意を持った理解ではなく、好意的な誤解を。それが Higuchinsky の願いです。〜ウクライナより愛を込めて。
(ロシア語意訳 )
【STORY】
女子高生の五島桐絵は、幼なじみのボーイフレンド⻫藤秀一に、突然「駆け落ちししないか」と言われ困惑する。しかし最近秀一は何かに怯えているかのように元気がなく、桐絵はずっと心配していた。やがて、桐絵の通う高校の生徒がらせん階段から飛び降りて死んだ事件をきっかけに、秀一はおぞましいことを口にする。二人の暮らす地方都市・黒渦町が得体の知れない"うずまき"の力に呪われているというのだ......。
監督: Higuchinsky
キャスト: 初音映莉子、フィーファン、佐伯日菜子、高橋惠子、大杉漣、ほか