11 月 12 日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、 イオンシネマ他にて全国順次公開となる仲村トオル×杉野希妃×斎藤工×中村ゆり等の出演、鬼才・万田邦敏監督待望の新作となる『愛のまなざしを』。
この度、公開にあたって、今作の脚本を手がけられた万田珠実さんによる集中連載が、「シネフィル」で掲載されることとなりました。
制作の裏側などを交えた、公開までの制作日誌となります。

第二回 クランク・イン前 その2

2019年8月29日(木)

準備期間が短かったのと、出演者の皆さんのスケジュールが合わなかったこともあり、リハーサルはほぼこの日1日だけでした。この日、いくつかのシーンをリハした後、最後に、貴志の家のダイニングで、貴志が亡き妻の両親にこれからの生活について話をするシーンを演じてもらいました。

貴志は綾子との新しい生活をスタートするためにここを出ていこうと考え、こう言います。
貴志「新しい家を探すつもりです。お父さんたちがここに住むなら、自由に使ってください」

 若く美しい恋人に夢中になり、周囲のことが目に入らなくなってしまった貴志。真面目で誠実に見えていた貴志の印象が少しずつ変わっていく場面、のつもりでした。ところが…。
この自分勝手で無神経なセリフを、仲村さんは実に爽やかな笑顔で言ってのけたのです!狂っている。少しずつどころか、いきなり振り切れている。そうか、貴志って本当は元々相当に狂っている人間だったのか!

クランク・イン前のリハーサルではなく、撮影現場でのテストの様子

 この時のこの気付きは、後々この作品にとても大きな影響を与え、忘れられない出来事となりました。この時の仲村さんの演技は、脚本家と監督の想定をはるかに超えており、そのことが逆に、脚本家と監督に、貴志とはどんな人間なのかを知らしめてくれました。私たちはひょっとしたら、大きな間違いを犯しているのかもしれない…。

 私が今まで書いた2本の脚本は、いずれも女性を主人公にしたものでした。私には男性の考えや行動がよくわからないので、男性目線で話を語ることが難しい。今回も、やはりそうでした。一方で、仲村さんとは前作の2本、『UNloved』と『接吻』に重要な役で出ていただき、今度こそ主人公を演じていただきたいとは思っていました。しかし、いざ自分が書くとどうしても女性目線の物語になってしまう。そんなわけでこの物語も当初は、綾子の視点が強かったのです。しかしあの貴志の笑顔を見てしまったら、もっと貴志の視点で物語を展開したいという思いが、再び湧き起こりました。
どうやったら、今からこの物語が貴志の物語になっていくのか…。その方法はまだこの時点では見えないまま、ただ、そうしたいという願望と、そうするのだという意志だけは、監督と確認しあったのでした。

 ちなみに、『UNloved』で最初に監督が仲村さんに会った時、仲村さんは台本に無数の付箋を付けていたので、どれだけ質問されるのかと戦々恐々だったところ、監督が演出意図を伝えた後に「何か質問ありますか」と聞くと、「いえ、何もありません」と言われ、むしろ驚愕したというエピソードを聞かされていました。それで今回、脚本を読んでどうでしたかと伺ったところ、「いや、何も疑問はないですよ。全て納得いきました」とおっしゃっていただき、嬉しかったのですが、それであの貴志なの!? と思うと、貴志の狂気が仲村さんに降りてきたかのようで、なんだか怖くなりました。

何を考えているの?貴志さん…

「愛のまなざしを」特報

「愛のまなざしを」特報 11月12日(金)公開

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【STORY】
亡くなった妻に囚われ、夜ごと精神安定剤を服用する精神科医・貴志のもとに現れたのは、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子。恋人との関係に疲弊し、肉親の愛に飢えていた彼女は、貴志の寄り添った診察に救われたことで、彼に愛を求める。いっぽう妻の死に罪悪感をいだき、心を閉ざしてきた貴志は、綾子の救済者となることで、自らも救われ、その愛に溺れていく…。しかし、二人のはぐくむ愛は執着と嫉妬にまみれ始めるのだった――。

出演:
仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐
万田祐介 松林うらら
ベンガル 森口瑤子 片桐はいり

監督:万田邦敏
脚本:万田珠実 万田邦敏

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2021 年 11 月 12 日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、 イオンシネマほかにて全国順次公開!