2020年の大阪アジアン映画祭のオープニング作品を飾り、上映後には客席から拍手が巻き起こったマレーシア映画『夕霧花園』がついに日本国内にて本公開を迎える。

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日本ではあまり語られることのない第二次世界大戦におけるマレーシアの歴史と共に一組の男女の切ない恋が紐解かれていく。1950年代、イギリスの植民地となったマラヤ(現在のマレーシア)で、不穏な空気が流れる中、亡き妹の夢である日本庭園造りに挑んだヒロイン・ユンリンと日本人庭師・中村が出会ったことで物語動き出す。マレーシアのキャメロンハイランドの美しい景色を舞台に、第二次大戦中、後の1940年代・1950年代と近代の1980年代の三つの時間軸からユンリンを通して描かれる。

中華圏で最も権威ある映画賞「金馬奨」第56回にて最優秀映画賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞など9つの賞へのノミネートを果たし、時代背景を考慮した衣装やヘアメイクが高く評価され最優秀スタイリングデザイン賞を受賞した。劇中では家屋やインテリア、ファッションから小物に至るまでこだわりぬき、当時のマ レーシアを再現している。

7月24日『夕霧花園』公開初日にオンライン舞台挨拶が実施されました。
以下オフィシャルレポートとなります。

■日時:7月24日(土) 10:00の回(上映終了後30分間)
■登壇者: 阿部寛、リー・シンジエ(マレーシアよりオンライン/英語名:アンジェリカ・リー)、トム・リン監督(台湾よりオンライン
※オンラインでの参加でスクリーンに映し出された状態です。リアルの登壇ではございません。
■場所:ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3階)

―――以下レポート

Q:まずはご挨拶と初日を迎えての感想を一言ずつしますお願いいたします。

阿部寛さん 「オリンピックも始まってお忙しいなかご来場ありがとうございました。この作品は3年前にマレーシアで撮影しました。暑い中、9ヶ国のキャストとスタッフが集まって集中して作りました。いよいよ日本で公開されるということでうれしく思っています」

リー・シンジエさん 「(日本語で)はじめまして、こんにちは。(阿部に対して)こんにちは阿部さん、お元気ですか。観客の皆さん映画を観に着て頂いてありがとうございました」

トム・リン監督 「ご覧になっていただいた観客の皆さんに感謝します。この作品がどういうメッセージを伝えようとしているのかご覧なればわかると思います。とにかくポジティブでプラスのエネルギーを皆さんにお伝えしたいと思います。」

Q:本作が皆さんにとって初のタッグだったかと思いますが、過去作・過去の出演作などからそれぞれ他のお2人の印象はどんなものでしたか?また、実際にお会いしてみてその印象はかわりましたか?

阿部寛さん 「トム・リン監督は人間を深く描いていて優しさに満ち溢れている作品を撮られて、本作も形は違って戦争の話しですけども。シンジエさんは、現場で緊張すると思ってご本人の作品は見ないでいました。現場では気を使っていただいてさし入れもたくさんもらいました。監督も集中力と特別なこだわりを持って撮影に挑んでいる姿が印象に残っています」

リー・シンジエさん 「お二人と会ってほんとうにラッキーで、すごく期待していました。日本の俳優さんとお仕事をしたこともなかったですし、ほんとうに貴重な機会をいただきました。みんなで同じ方向を向いて、まるで事前の了解があったかのようでした」

Q:映画では秘密を守り通す有朋の姿が印象的でした。皆さんが秘密にしていることはございますか?

「そうそう、マレーシアで撮影していてそれも夜だったんですが、監督に言ったら怒られるかも知れないんですが。大きな照明をたいていたら、マレーシアは昆虫が多くて、大きなカブトムシが飛んできて、それを何匹か捕まえて控室に連れて行ったんです(笑)」

リー・シンジエ「そうですね。撮影で休憩を取っていたら、阿部さんのマネジャーが来てと言うので阿部さんのところに行ったらカブトムシがいたんですね。わたしは昆虫が苦手で、肌の上にカブトムシがいるのはちょっと…(笑)」

Q:阿部さんからご来場の皆様に最後にメッセージをお願いいたします。

阿部さん「この映画を観てどう感じましたでしょうか? ほんとうに戦争は悲しいものだなと実感しました。戦争自体がむなしいものであってどちらかが加害、被害というのはないのが戦争なんだと思います。いま様々な形で社会が分断されている状況ですが、この映画を観て深く何かしら深く考えていただければと思います」

映画『夕霧花園』(ゆうぎりかえん)

第二次世界大戦の悲劇、日本とマレーシアの関係、時代に翻弄される人々

マレー半島の南部に位置する現在のマレーシアとシンガポールは、第二次世界大戦中イギリス領マラヤ と呼ばれ英国の植民地であった。1942年、日本軍はマラヤを占領し、イギリス軍は退却、マラヤは日本が降伏する1945年まで、3年間日本軍によって支配されたという歴史がある。

その後、イギリス人は占領に戻り、独立運動が立ち上がった。1948年のイギリス軍とマラヤ共産党の対立は、1960年まで不規則なゲリラ戦争を生み、マラヤはこの12年間緊急事態と宣言された。そしてマレ ーシアは1957年に独立を果たす。

本作は日本軍に占領されたマラヤの悲しい過去をベースに、歪んだ主従関係にあったマレーシアと日本という国の因縁を超えて惹かれあいながらも最終的には結ばれることのなかった一組の男女の姿と、運命に翻弄されたヒロインの生き様を描いている。

台湾恋愛映画の名手!トム・リン監督の新たなる挑戦

2008年、商業長編デビュー作『九月に降る風』が大ヒットを記録し、台湾新世代の最有望監督の一人となったトム・リン監督は、日本国内でもファンの多い監督である。本作は『九月に降る風』(2008)、『星空』(2011)、『百日告別』(2015)に続く日本公開作4作目。国内でもファンの多い監督である。爽やかな青春映画や恋愛映画を手掛けてきたトム・リンが今作品では舞台をマレーシアに歴史に基づいた壮大なストーリーを展開させ、戦争という歴史から見えてくる人間の光と影のコントラストを巧みに描き切った。

キーパーソン・日本人庭師の中村役は阿部寛! 儚く幻のような存在感でイメ ージにない繊細な演技と英語セリフに挑戦し新境地を開拓

日本トップクラスの俳優の一人である阿部寛が日本を飛び出し海外映画に挑み、難しく重要な役どころ に挑戦した。阿部にとって本作品は『チョコレート・ファイター』(タイ、2008)、『メモリーズ・コーナー』(フランス・カナダ合作、2012)、『空海』(日中合作、2017)に続く海外作品4作目となる。国内ではコミカルな役柄や、もしくは重厚な役が多いが、昨今のイメージにはない繊細で幻想的な役どころ。 庭師であり多才な芸術家、そして終戦時、日本軍により埋められたとされる莫大な埋蔵金「山下財宝」にまつわる秘密を握っているという稀有なキャラクター・中村有朋を演じ、新たな魅力を発揮した。

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監督のトム・リンは当初はダメもとで出演交渉に乗り出したことを明かしている。最終的に阿部が原作小説のストーリーを気に入ったこと、英語セリフに挑戦したいという希望があったことが、思わぬ成功につながったと語っている。

本作の主演、ユンリン役を務めるのは香港・台湾映画界をメインに活動するマレーシア出身のリー・シンジエ。日本では『The EYE【アイ】 』(2002)やツイ・ハーク監督の『MISSINGミッシング』(2003) などで知られる。台湾映画『Betel-Nut Beauty(原題)』で2001年度のベルリン映画祭最優秀新人賞を獲得。2012年の大ヒット韓国映画『10人の泥棒たち』でのジュリー役の活躍も話題となった。最愛の妹の夢を実現させようと日本庭園を造ることで、過去の疑問に対する答えを導こうとする。時代に翻弄されながらもたくましく生き抜く女性を好演した。そして約30年後のユンリンを演じるのは台湾を代表する女優で あり、近年は監督としての活躍も目覚ましいシルヴィア・チャン。過去の経験を乗り越えキャリアアップし自立した現代的な女性を体現した。その他キャストには『眺めのいい部屋』(1986)、『オーシャンズ13』(2007)、『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)などに出演のジュリアン・サンズら実力派や、映画監督のホー・ユーハンがカメオ出演し個性豊かに作品を彩る。

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脚本はコリン・ファース主演『トラウマ』(2004)のリチャード・スミス。撮影はカンヌ映画祭「ある 視点」部門プレミア上映のインド映画『Manto(原題)』(2018)のカルティク・ビジェイ。『ナルニア国 物語 第1章:ライオンと魔女』(2005)にて英国アカデミー賞受賞のニッキー・グーリーがヘアメイク を担当し、今作でも金馬奨最優秀スタイリングデザイン賞を受賞。音楽は2017年のASEANパラリンピック にて大会音楽を手掛けたオン・サン。様々な国・地域からスタッフとキャストが招聘された国際的なチー ムにて制作された。

主な撮影は別荘地で知られるキャメロンハイランドで行われ、青々とした茶畑が広がる高原は美しく、その先の密林の中にひっそりとたたずむ日本式庭園は神秘的に演出され、美しい景観と戦争の暴力性を対比させ光と闇を描き出している。
原作はマレーシアの作家タン・トゥアンエンの小説「The Garden of Evening Mists」。ブッカー賞(イギリスの文学賞。世界的に権威のある文学賞の一つ)ノミネート、現代アジアの文学の中でも最も優れた小説に贈られるマンアジア文学賞と歴史小説を対象としたウォルタースコット賞を受賞。

映画『夕霧花園』予告編

映画『夕霧花園』予告編

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ストーリー
――愛した男はスパイなのか――記憶が紡ぐ時を超えた愛の証明

1980年代、マレーシアで史上二人目の女性裁判官のキャリアを持つユンリンは、さらなるキャリアアッ プのため連邦裁判所事を目指していた。かつて愛した男、謎多き日本皇室庭師の中村がとある財宝にまつ わる日本軍スパイとして指弾されているのを知り、彼の潔白を証明できる証拠を探すことを決意する。

ユンリンにとって忘れることのできない約30年前の記憶を手繰り寄せ、想いが交差していく――
―出会い

戦後の1950年代。マレーシアはイギリスの植民地統治が再開された一方、民族主義が高潮し、マラヤ共 産党が山地で活発な活動を展開し、イギリス軍とたびたび軍事衝突を起こしていた。そんな混沌とした世 情の中、ユンリンは戦犯法廷のアシスタントとして働いていた。旧日本軍の支配下にあった過去から心と 身体に深い傷を負っていた彼女は、収容所で亡くなった妹の夢である日本庭園を造るため、キャメロンハ イランドで活躍する日本人庭師の中村有朋の元を訪れる。有朋は依頼を断るが、現在造っている庭園“夕 霧花園”で自分の見習いをしながら庭造りを学ぶことを提案する。仕方なく見習いを始めたユンリンだっ たが、深い信念を持って庭造りに打ち込み、ミステリアスでどこか孤独な有朋に惹かれていき...。

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――ユンリンの過去
第二次世界大戦中、イギリスの植民地のマラヤ(現在のマレーシア)を日本軍が占領した1941年から日 本敗戦までの1945年。マレーシア華僑のユンリンは、妹のユンホンと共にミッションスクールに通ってい たが、日本軍によって強制労働に駆り出され、ユンホンにはさらに辛い仕打ちが待ち構えていた。
ユンホンは過去に旅行先の日本の京都で見た庭園の美しさに魅了され、いつか自分でも庭園を作り上げてみたいという夢を抱くようになった。屈辱の中でも自分自身の夢の庭園を思い描くことで、何とか精神を保っていたが、やがて日本は敗戦し、証拠隠滅のため現地人捕虜を収容所ごと焼き払い、ユンホンも火事に巻き込まれ亡くなってしまう。ユンリンはただ一人逃げ出すことができたが、旧日本軍の支配下にあった過去から心と身体に深い傷を負い、妹を見殺しにしてしまった後悔の念に苛まれ、日本に対して悲しみと憎しみを抱えながらも妹の夢を自分でかなえようと決心するのであった。

リー・シンジエ
阿部寛 シルヴィア・チャン
ジョン・ハナー ジュリアン・サンズ デビッド・オークス タン・ケン・ファ セレーヌ・リム
監督:トム・リン
脚本:リチャード・スミス 原作:タン・トゥアンエン 撮影:カルティク・ビジェイ 美術:ペニー・ツァイ・ペイリン 衣装:ニーナ・エドワーズ ヘアメイク:ニッキー・グーリー、ビビー・チャウ 特殊メイク:カレン・タン、グレース・チョン 編集:スー・ムン・タイ 音楽:オン・サン
製作:Astro Shaw & HBO Asia
2020/マレーシア/120分/カラー/ビスタ/5.1ch
提供:マクザム、太秦
配給:太秦
後援:在京マレーシア大使館
協力:大阪アジアン映画祭 字幕:川喜多綾子 字幕監修:山本博之

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7 月 24 日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開