©︎高橋葉介・早川書房・ビーチウォーカーズコレクション

「夢幻紳士 人形地獄」

 高橋葉介の『マンガ少年』に連載され、中断後、『ミステリ・マガジン』で復活した同名漫画の「人形地獄」をもとに構成された実写映画化である。
高橋の描く漫画はシュールな味あいのあるコントラストを強調した絵柄、ストーリー展開が特徴。もともと僕は漫画をほどんど読まない少年時代を過ごし、大人になったのだが、『ミステリ・マガジン』には長年寄稿していた関係から、こちらには目を通していた。
 他人の心を読んだり、自由に夢を見させることができる探偵の夢幻魔実也(むげんまみや)のキャラクターが斬新。衣装も黒の大きなつば広の帽子に、マント風のものを羽織り、目は大きく、髪はいくつもの房になった長髪と、まるで男装の麗人みたい。

©︎高橋葉介・早川書房・ビーチウォーカーズコレクション

 昭和初期。夏、田舎道を運搬中の木箱が壊れて、中から着物姿の少女・三島那由子が発見される。だが、彼女は意識がなく、眠り続けており、事情がまったく分からない。母親ミツは「娘は奉公に出て以来、数か月音信不通だった」という。夢幻魔実也は少女が収容されている山中の小さな診療所に赴き、彼女を観察。お手上げ状態の駐在、ミツから頼まれて、那由子の心中を探ってみると、奉公先の女主人雛子に、自分を人形と思い込む暗示をかけられていた。雛子が住む屋敷を訪れて、雛子と対決する。夢幻に付きまとう謎の男小堀貞一、犬になりきった十勝十蔵といった脇のエピソードを積み重ねて、夢幻の人となり、過去が紹介され、暗示による夢幻と雛子の闘争が展開されていく。

©︎高橋葉介・早川書房・ビーチウォーカーズコレクション

 林海象が企画主宰したネットシネマ「探偵事務所5」のセカンド・シーズンに監督として参加していた海上(うなかみ)ミサコが、13歳の時に読んで衝撃を受けた高橋の漫画をもとにクラウド・ファンディングで資金の一部を募って映画化した。2016年に完成したが、商業公開は今回が初めて。

©︎高橋葉介・早川書房・ビーチウォーカーズコレクション

 ノスタルジックで、ミステリアス。画面もモノクロとカラーの混合だが、後者の場合でもモノクロのテイストが強く、原画の雰囲気を出している。
海上ミサコが木家下一裕、企画の佐東歩美、監督補の菅沼隆とともに脚本を執筆、編集も手掛けている。映画の公式HPによると、「子どもの頃から漫画は好きでしたが、好きなものがアニメーションでも実写でも映像化されることはとても嫌だ」と思っていたが、「バタアシ金魚」を見て考えが変わったという。また不思議な力を持ったジプシーの青年を描いたエミール・クストリッツア監督の「ジプシーのとき」がいつも脳裏にあり、「映画って、現実には難しい超能力者という設定でも表現できるんじゃないか?」と思ったとのこと。宣伝担当者を通じて、あくまでも漫画原作を実写化した時に「登場人物の人生を生きる」映像であった事に感銘を受けて参考にしたのだという補足説明があった。
夢幻紳士こと夢幻魔実也に皆木正純、三島那由子に横尾かな、雛子に岡優美子、八重子に紀那きりこ、ミツに井上貴子、小堀に龍坐が扮している。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

原作  高橋葉介「夢幻紳士 人形地獄」より 早川書房刊

脚本・編集・監督  海上ミサコ

出演 皆木正純/横尾かな/岡優美子/龍坐/紀那きりこ/杉山文雄/SARU/井上貴子/義 いち/山口美砂/森川陽月/山田歩

配給 ミカタ・エンタティメント
製作 ビーチウォーカーズコレクション
©︎高橋葉介・早川書房・ビーチウォーカーズコレクション 

6月26日より新宿K’s cinemaほかロードショー中!