(カバー画像)ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《イタリアのダンス》 1865-70 年 油彩/カンヴァス  Inv. 887.3.1 ランス美術館蔵 ©MBA Reims 2019/ photo: C. Devleeschauwer

澄んだ青い空に白い雲、清々しい緑色の樹々が広がる風景画は、まるでその新鮮な空気感までもが伝わってくるようで、ひとときの清涼剤として私たちの心を癒してくれます。
今回はそんな風景画の起源を辿り、名古屋市美術館で開催中の「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ」を紹介致します。

フランス北東部の古都ランスは、シャンパンの生産地としても有名で、繊維産業でも繫栄していました。
ランス市と名古屋市は 2017 年に姉妹都市として提携を結び、以前にも名古屋市美術館では、藤田嗣治などの名品を紹介する「ランス美術館展」が開催されましたが、このたび、ランス市が誇る至高の風景画コレクションが再び来日することになりました。

戸外制作を行ったバルビゾン派の画家たちや、“空の王者”と賞賛されたウジェーヌ・ブーダン、そしてモネ、ルノワール、ピサロら印象派の珠玉の作品が一堂に会します。

なかでも木立や水辺を繊細かつ詩情豊かに描き出したカミーユ・コローの作品は、必見です。
本展では、コローの油彩画の傑作 16 点をまとめてご覧いただける、名古屋で初めてとなる大変、貴重な機会です。
是非この機会に、それまでの伝統を打ち破り、アトリエを飛び出して、自然の光や大気の変化を描き出した画家たちによる19 世紀フランス風景画の変革をご覧ください。
それでは、展覧会の構成に沿っていくつかの作品を紹介致します。

第1章 コローと 19 世紀風景画の先駆者たち

19 世紀は近代社会の大きな転換期ですが、「風景画」にも大きな変革がもたらされた時代でした。
それまで風景画は、絵画主題として、歴史画よりも下に位置づけられていて、画家たちは”神話”や“古代の場面”の背景として”風景”を描いていたのです。
これに大きな変革へのきっかけをもたらしたといわれるのが、ピエール=アンリ・ド・ヴァランシエンヌ(1750-1819)の著書(『芸術家のための実用遠近法入門および画学生とくに風景画をめざす学生のための省察と忠告』1800 年)です。
彼は風景画を独立したジャンルとして主張し、画学生たちに対して、もし歴史画家を越えたいと思うのなら外に出て自然の光を学ぶべきだ、と忠告しました。
ヴァランシエンヌのもとで学んだアシル=エトナ・ミシャロン(1796-1822)は、イタリア各地をはじめ、積極的に各地に出かけて習作を描き、それらをもとにアトリエで完成作を仕上げました。そしてそのミシャロンの弟子が、繊細かつ抒情的な風景画で現在も高い人気を誇る、カミーユ・コロー(1796-1875)です。
彼は自然が与える瑞々しい印象を画面に記録した最初の画家の一人だと言えるでしょう。
本章では、ミシャロンなどバルビゾン派の先駆者たちの作品に加えて、コローの傑作 16 点やギュスターヴ・クールベ(1819-1877)の作品を紹介し、フランスにおいて「風景画」というジャンルが確立されていった流れを概観します。
本章では、地中海の光のなかで踊る男女を叙情的に描いた《イタリアのダンス》や、傾いだ木々のダイナミックな動きによって優れた対角線構図を用いている《突風》など、コローの傑作 16 点をご覧いただけます。

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《突風》 1865-70 年
油彩/カンヴァス Inv. 899.16.23 ランス美術館蔵 ©MBA Reims 2019/ photo: C. Devleeschauwer

第2章 バルビゾン派

「バルビゾン派」とは、19 世紀中頃のフランスの風景画家のグループを指しており、その名称はパリ南東約 60kmのフォンテーヌブローの森に位置する小さな「バルビゾン村」に由来しています。
従来の絵画制作はアトリエで行われていましたが、鉄道の発達やチューブ入り絵具の発明によって戸外での制作が容易になり、以降、風景画家たちは、戸外で直接自然と向き合い、神話や宗教の主題を排除して、羊の群れや森の片隅といった身近な風景を描くことで、近代風景画を切り拓きました。
本章では、テオドール・ルソー(1812-1867)、シャルル=フランソワ・ドービニー(1817-1878)、ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ(1807-1876)、ジュール・デュプレ(1811-1889)、コンスタン・トロワイヨン(1810-1865)、シャルル・ジャック(1813-1894)といった、自然の姿に魅了されたバルビゾン派の画家たちによる作品が紹介されています。

テオドール・ルソー 《沼》 1842-43 年 油彩/カンヴァス
Inv. 907.19.227 ランス美術館蔵 ©MBA Reims 2019/ photo: C. Devleeschauwer

第3章 画家=版画家の誕生

19 世紀後半の版画制作で、画家たちによって最も広く使用されてきた技法の一つに、銅版画の一種であるエッチングがあります。この技法は銅版画の中でも制作が容易で、画家が自由に素早く描いた線描を活かすことができました。さらにはクリシェ・ヴェール(デッサン、版画、写真を融合した新しい技法)も誕生します。
こうして版画に高い関心を持った画家が増え、画家でありながら版画も積極的に制作する芸術家(画家=版画家)の活躍が顕著になりました。
本章では、そのような芸術家たち、ドービニーやヨハン・バルトルト・ヨンキント(1819-1891)などによる版画作品が紹介されています。
また、19 世紀中頃の画商や出版社は、絵画を原画とした複製版画を新聞・雑誌や商品カタログに多数掲載したり、版画集として刊行したりしました。
後の時代のセザンヌ、ファン=ゴッホなどの画家たちは、こうして普及した版画をもとにしてジャン=フランソワ・ミレー(1814-1875)など同時代の作品模写を制作しています。
このように版画は、19 世紀フランス美術業界の発展に貢献するとともに、同時代の作品の図像を後世へ橋渡しする役割を果たしたのです。
本章では、ミレーの素描を原画とする《野良仕事》を掲載した「イリュストラシオン」誌や、書籍『田園の風景画家』に掲載された、戸外制作する新しい画家の姿を伝える挿絵版画なども紹介されています。

ヨハン・バルトルト・ヨンキント 《オランダ、マースラン村からの眺め》 1862 年
エッチング/紙 個人蔵

第4章 ウジェーヌ・ブーダン

ウジェーヌ・ブーダン(1824-1898)は、生涯の多くをフランスのノルマンディー地方で過ごし、海景を数多く描きました。
彼は空と海辺の大気の効果に対する鋭い観察眼を持ち、カミーユ・コローから“空の王者”と称されました。一方ブーダンがコローから学んだことは、平行に層を積み重ねていく画面構成や、灰色を基調とする色彩です。
時間や天候による空と海の移り変わり、そして船が停泊する港や動物が集う水辺などの情景を、粗い筆触で捉えて描き出しました。
このようにブーダンは、大気の効果を十分に観察して素早く力強いタッチで描くことで、光と瞬間の表現を追求する戸外制作の先駆者の一人となりました。印象派の画家クロード・モネ(1840-1926)に自然に直接学ぶことを教え、彼を戸外制作へと導いたことでも知られています。
本章では、ランス美術館が所蔵するブーダンの傑作 7 点が紹介されています。

ウジェーヌ・ブーダン 《水飲み場の牛の群れ》 1880-95 年 油彩/カンヴァス
Inv. 907.19.33 ランス美術館蔵 ©MBA Reims 2019/ photo: C. Devleeschauwer

第5章 印象主義の展開

印象派の画家たちは、目の前で刻々と変化していく自然を体験し、大気と光の効果を描きだそうと戸外で制作を行いましたが、それは前章までに見てきた画家たちとの交流によって導かれた制作態度です。
例えば、画業を通じて多くの風景画を描いたピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)は、バルビゾン派の画家たちと同じようにフォンテーヌブローの森で、またブーダンと同じようにノルマンディー沿岸で、制作を行いました。さらにクロード・モネは、ブーダンやヨンキント、ドービニーに教えられながら画家になるための修業を積み、戸外制作を行いました。
モネの連作に倣ったカミーユ・ピサロ(1830-1903)は、ルーヴル宮などパリの都会的な風景を、水や空といった自然のなかの移り変わりやすい要素の中に描いています。
このように見ていくと、革新性が強調されることの多い印象派の作品は、むしろ風景画の歴史やそれまでの制作方法を真摯に引き継ぎ、そこから発展して生み出された絵画であったことがわかります。
その新しさは、粗い筆致や鮮やかな色彩で自然を捉えるという描き方そのものではなく、従来なら未完成のような作品を「完成作」として発表したところにありました。
本章では、モネ、ピサロ、ルノワールといった印象派の画家たちの作品が紹介されています。
彼らがどのように大気の変化や光を捉え、「風景画」として提示していったのかをご覧ください。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《風景》 1890 年頃 油彩/板に裏打ちされたカンヴァス
Inv. 949.1.61 ランス美術館蔵 ©MBA Reims 2019/ photo: C. Devleeschauwer

クロード・モネ 《ベリールの岩礁》 1886 年 油彩/カンヴァス
Inv. 907.19.191 ランス美術館蔵 ©MBA Reims 2019/ photo: C. Devleeschauwer

ランス美術館がリニューアル休館中のため実現した、フランス風景画の名品の数々。
選び抜かれた油彩画約50点と個人蔵の版画26点をご堪能ください。
戸外での作品制作によって自然の光や大気感までも表現する「風景画」が確立され、「印象派」へと変遷していきました。
19世紀フランス風景画の変革によってもたらされた、爽やかな新しい風を感じてください。

展覧会概要

展 覧 会 名 ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ
会 期 2021 年 4 月 10 日(土)~6 月 6 日(日) 【50 日間】
開館時間:午前 9 時 30 分~午後 5 時、金曜日は午後 8 時まで
    いずれも入場は閉館 30 分前まで
休 館 日:月曜日(5 月 3 日は開館)、5 月 6 日(木)
※4 月 29 日(木・祝)から 5 月 5 日(水・祝)までは休まず開館
会 場 名古屋市美術館
〒460-0008 名古屋市中区栄 2-17-25 〔芸術と科学の杜・白川公園内〕
TEL:052-212-0001 FAX:052-212-0005
主 催 名古屋市美術館、中日新聞社、テレビ愛知
後 援 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、
後 援 名古屋市立小中学校 PTA 協議会
協 力 日本航空
企画・監修 ランス美術館
企 画 協 力 ブレーントラスト
観 覧 料 平日限定券 一般:1,400 円、高大生:900 円、中学生以下:無料
土日祝日・日時指定
事前予約購入 一般:1,500 円、高大生:1,000 円、中学生以下:無料
当日購入 一般:1,600 円、高大生:1,100 円、中学生以下:無料
(当日購入は、前日までの予約購入に空きがあった時間帯のみ可)
※詳細は展覧会特設サイトを参照

関連催事 展覧会解説会
① 4 月 24 日(土) 午後 2 時~(約 60 分)
② 5 月 9 日(日) 午後 2 時~(約 60 分)
講師:勝田琴絵(名古屋市美術館学芸員)
会場:名古屋市美術館 2 階講堂
定員:90 名(先着順。午後 1 時 30 分に開場し定員になり次第締切り)

「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ」@名古屋
シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ」@名古屋シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、招待券をお送りいたします。
この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
*応募締め切りは2021年5月10日 月曜日 24:00
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
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また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。下記の必要事項、をご記入の上、プレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上3組6名様に、招待券をお送りいたします。
この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。