『糸』の大ヒットも記憶に新しく、今後『明日の食卓』『護られなかった者たちへ』『とんび』と公開待機作が控える瀬々敬久監督。この度、『ヘヴンズ ストーリー』(DCP版初上映)、『菊とギロチン』等の代表作を含めたインディーズ系 11 作品を特集上映が、3 月 6 日(土)〜12 日(金)までの 1 週間、K's cinema にて『世直しじゃー!! ―こんな時代に瀬々敬久特集―』 と題して開催されます。

『ヘヴンズ ストーリー』DCP版初上映、
ピンク時代の傑作3作品のデジタルリマスター版も上映!

上映される作品は、2010年の初公開から師走の恒例として K’s cinema で毎年上映され続けながらも、昨年はコロナ過で上映できなかった『ヘヴンズ ストーリー』(2010)の初のDCP上映。
フィルムからデジタルへ移行する時代の中で作られ、フィルムに焼き付けた21世紀の“罪と罰”とも言える本作は、東日本大震災、現在のコロナ過を通じて、ますます重要さを増し、今回はDCP化されての記念すべき上映です。また、アナーキストと女相撲を題材に激動の時代を描いた『菊とギロチン』(2018)では、本特集で掲げる「世直しじゃー!!」の如く、現在のやり場のない日常の怒りを感じ取っていただけると思います。
更に今回は、『現代群盗伝』(93)『End of The World』(95)など国際的な評価も高いピンク映画時代の5作品も上映。本特集に合わせて3作品をデジタルリマスター化、2作品は35mm上映となります。そして上映機会が少なく上映のたび満席となる、瀬々監督の原風景ともいえる8mm作品『少年版私慕情』(82)は監督自らマルチ映写。その他、性同一性障害を描く『ユダ』(2004)、つげ忠男作品の映画化『なりゆきな魂、』(2017)、瀬々監督がプロデュースした『石巻市立湊小学校避難所』(2012/監督:藤川佳三)も3.11東日本大震から10年を迎えて特別上映されます。新型コロナウイルスの収束を願うことはもちろん、現在(いま)だからこそ体験して欲しいラインナップです。

上映作品

ヘヴンズ ストーリー

2010|278分
製作:ヘヴンズ プロジェクト
配給:ムヴィオラ
脚本:佐藤有記|撮影:鍋島淳裕、斎藤幸一、花村也寸志
出演:寉岡萌希、長谷川朝 晴、忍成修吾、村上淳、山崎ハコ

家族を殺された幼い娘、妻子を殺された若い夫、一人息子を育てながら復讐代行を副業にする警官、理由なき殺人を犯した青年、そしてその青年と家族になろうとする女性。彼らを中心に、20人以上の登場人物が、複数の殺人事件をきっかけにつながっていく...。得体の知れぬ憎しみが覆う世界に向けて、日常の中にある「罪と罰」というべき大きな命題に挑み、復讐の先にある再生を描ききった、全9章4時間38分の大叙事詩。公開から10年を経て初のDCP版上映。
3月6日(土) 、3月10日(水)
両日とも12:30〜(途中休憩あり)

菊とギロチン

2018|189分
製作:「菊とギロチン」合同製作舎
配給:トランスフォーマー
脚本:相澤虎之助、瀬々敬久
撮影:鍋島 淳裕
出演:木竜麻生、韓英恵、 東出昌大、寛 一 郎

大正末期、関東大震災直後の混沌とした社会情勢の中、急速に不寛容な社会へとむかう時代。かつて実際に日本全国で 興行されていた「女相撲」の一座と、実在したアナキスト・グループ「ギロチン社」の青年たちが出会い、「自由な世界に生きること」を夢見て、それぞれの闘いに挑む――。時代に翻弄されながらも、歴史の影でそれぞれの「生きる意味」を模索して、世界に風穴をあけたいと願った若者たちの、アナーキーな青春群像劇。
3月7日(日)、3月12日(金)
両日とも14:30〜

わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です
(公開題:「禁男の園 ザ・制服レズ」)

1992|61分
製作:国映
配給:新東宝映画
脚本:瀬々敬久|撮影:斎藤幸一
出演:岸加奈子、蒲田市子、林由美香

教師の由紀と関係のあった生徒・ 真理が消息を絶つ。彼女は爆弾魔の健と同棲していた。宮澤賢治にインスパイアされ、賢治の「春と修羅」と「東アジア反日武装戦線」の結合を夢想して作ったという。なんと切なく美しい! *デジタルリマスター版での上映 R18
3月7日(日)13:00〜

迦楼羅の夢
(公開題:「高級ソープテクニック4悶絶秘戯」)

1994|62分
製作:国映
配給:新東宝映画
脚本:羅漢三郎(瀬々敬久、井土紀州、青山真治)|撮影:斎藤幸一
出演:伊藤猛、栗原早記、下元史朗

郁夫は団地に住む美重子をレイプして服役し、出所後に彼女と瓜二つのソープ嬢に出会うが...。瀬々、井土、青山3人の共同脚本で、伊勢の斎宮をヒントにソープ嬢を考えるという神話的スケールで中上健次的な世界観を描こうとした。郁夫役の伊藤猛の狂気と再生の鮮烈。
*35mm英語字幕版での上映 R18
3月8日(月)13:00〜

トーキョー×エロティカ

2001|77分|
製作・配給:国映、新東宝映画
脚本:瀬々敬久
撮影:斎藤幸一
出演:佐々木ユメカ、石川裕一、佐々木麻由子

90年代半ば、ケンジは毒ガステロで死亡。97年、その恋人ハルカは売春の相手に殺される。2002
年、死んだケンジとハルカは再び出会い、新 しい物語が始まる。地下鉄サリン、東電OL殺人などの事件を題材に、世紀末と新世紀を跳躍し遡り、再生を感じさせる重層的な作品。
*35mm英語字幕版での上映 R18
3月8日(月)14:30〜

End of The World
(公開題:「すけべてんこもり」)

1995|65分|
製作・配給:国映
脚本:瀬々敬久
撮影:中尾正人
出演:河名麻衣、川瀬陽太、泉由紀子

逃亡中の若い男女。女が里子に出した息子を取り返そうと島にやってくるが...。火山噴火前の三宅島でロケを敢行。溶岩で埋もれた大地が宇宙のごとき異世界。瀬々作品常連の川瀬陽太はこれで初出演。ラスト、キャメラに向かって問いかける川瀬の突き抜けた存在感が見事。
*デジタルリマスター版での上映 R18
3月8日(月)16:20〜

ユダ

2004|113分
製作・配給:ユーロスペース
脚本:佐藤有記、瀬々敬久
撮影:斎藤幸一
出演:岡元夕紀子、光石研、本多一麻

映画美学校から生まれた企画「映画番長-エロス番長シリーズ」の一編。ドキュメンタリー作家の”私”、「ユダ」と呼ばれる性同一性障害の少年、心と体に傷を持つ謎の女の三者が錯綜する彼らの数奇な運命...。本作で初起用した映画美学校出身スタッフ、佐藤有記(脚本)、今井俊裕(編集)、海野敦、菊地健雄(助監督)が、のちの「ヘヴンズ ストーリー」につながる。
2004年映画芸術ベストワン。
3月9日(火)13:00〜

なりゆきな魂、

2017|107分
製作・配給:ワイズ出版
原作:つげ忠男
脚本:瀬々敬久
撮影:鍋島淳裕
出演:佐野史郎、柄本明、足立正生、山田真歩、三浦誠己

戦後間もない頃のバラックで暴れる無頼漢サブの愛と別れ、偶然に男女の争いに巻き込まれ衝動的に殺人を犯しまう老人たち、花見で偶然に出会った男女が殺し合いにまで発展してしまう様子を凝視する初老の男、バス事故に運命を翻弄される被害者遺族たちなど、孤高の漫画家・つげ忠男の作品集「成り行き」「つげ忠男のシュールレアリズム」収録の4編に、瀬々監督によるオリジナルストーリーを混在させた、不条理が極まる異色作。

3月9日(火)15:30〜

少年版私慕情 国東 京都 日田

1982|80分|8mm|マルチプロジェクト上映

22歳、京大時代の自主作品。8mm映写機3台を駆使し瀬々本人が即興映写するという上映形式で、知られざる日記映画の傑作とも。出奔した母のイメージを探すロード・ムービーでもある。フェリーの波頭に瀬々自らのぎこちないナレーションが重なるだけで詩情に泣ける。この頃から、瀬々の風景は特別だった。
3月11日(水)16:30〜

現代群盗伝
(公開題:「未亡人 喪服の悶え」)

1993|62分|製作:国映|配給:新東宝映画
脚本:瀬々敬久|撮影:斎藤幸一
出演:佐野和宏、石原ゆり、葉月蛍

瀬々版「河内山宗俊」!ゼネコン汚職 と戦うエロ坊主!?明治時代に起きた民衆蜂起「秩父事件」の秩父困民党を現代のピンク映画に導入するという離れ技に驚かされる。秩父のロケ ーションの中に立ち上がる民衆の姿に泣ける。葉月蛍の愛らしさも見逃せない。
*デジタルリマスター版での上映 R18
3月12日(月)13:00〜

瀬々敬久プロデュース作【3.11東日本大震災10周年特別上映】
石巻市立湊小学校避難所

2012|124分|
撮影・監督:藤川佳三
プロデューサー:瀬々敬久、坂口一直

東日本大震災の避難所となった小学校で藤川佳三監督が6ヶ月あま り現地に泊まり込み、被災者と寝食を共にしてカメラを回した生活の記録。“かわいそうな被災者”というイメージだけでは括れないそれぞれの個 性、共同生活でのストレスや葛藤、そして、震災がなければ交わることのなかった人々の出会いや絆が生々しく映し出されていく。日常の風景と 本音のつぶやきがつまった人間ドキュメント。
3月11日13:00〜*上映後、石巻市より藤川監督の中継あり。

監督コメント:

若い頃、70年代の終わりから80年代初頭にかけ自主映画とピンク映画で次々と若い監督たちが新しい映画を作 っていた。映画が何かを変えるのだと思った。そこには「変革」があるのだと思った。自分も同じ旗を振りたいと思った。その頃読 んで夢中になったのが「秩父事件」(井上幸治)、東アジア反日武装戦線について書かれた「狼煙を見よ」(松下竜一)。「明治の 圧政政府」や「国家の暴力」に抵抗した人々の話だ。90
年代にピンク映画でそれらをモチーフにした。一方で90年代は新しい 犯罪の時代だった。「人が人を殺す」ということを描いた。0年代になって『ヘヴンズ ストーリー』を自主で作り、その問題を掘り下 げようとした。10年代は『菊とギロチン』で再び「変革」について考えた。 たとえ身を窶(やつ)していても、映画にはまだまだ「変える力」があるのだ、そう思っている。回顧することなく、現在形として。 今、こんな時代だからこそ「世直しじゃー!」なのだ。
瀬々敬久

2021 年 3 月 6 日(土)~3 月 12 日(金)新宿ケイズシネマにて開催!