これまで本連載では私のエッセイ的なスタイルで書いてきておりましたが、今回はインタビュー形式にてお届けします。

お話を伺ったのは、制作プロダクションである株式会社ダブの代表で数々の映画プロデュースを手掛けてきた宇田川寧氏。

宇田川寧 Yasushi Utagawa
1996年株式会社ダブ設立。主なプロデュース作品は『アヒルと鴨のコインロッカー」(2007/中村義洋監督)、『ゴールデンスランバー」(2010/中村義洋監督)、『ちょんまげぷりん」(2010/中村義洋監督)、『うさぎドロップ」(2011/SABU監督)、『ヒロイン失格」(2015/英勉監督)。近年では、『モリのいる場所」(2018/沖田修一監督)、『ここは退屈迎えに来て」 (2018/廣木隆一監督)、『3D彼女リアルガール」(2018/英勉監督)、『がっこうぐらし!」(2019/柴田一成監督)、『アイネクライネナハトムジーク」(2019/今泉力哉監督)、『九月の恋と出会うまで」(2019/山本透監督)、『ホテルローヤル』(2020/武正晴監督)など。2021年は、飯塚健監督『ヒノマルソウル-舞台裏の英雄たち-』の公開を控えている。

私は配給寄りの立場で映画に関わる事が多いですが、制作プロダクションはまさに”映画を作る”の根幹です。映画の業界構造の理解や、プロデューサーがどういう視点で監督や脚本家といったクリエイターを見ているか等、有益な情報になったら嬉しく思います。

映画における制作プロダクションとは

―――まず、映画において制作プロダクションがどんな業務を担っているかを教えて頂けますか?

簡単に言うと、脚本という設計図を基に、予算の中でよりクリエイティブ高く撮影現場を仕切るという事でしょうか。また弊社の場合は、オリジナルでも原作でも企画の開発から行っている作品も多いです。

―――会社としてのダブにはどういう人がいるのでしょうか?

制作スタッフは外部のフリーランスで組織する事が多いので、会社としてはプロデューサーがメインです。あと監督が1人(平林克理)と編集が1人(相良直一郎)います。監督と編集は、弊社の仕事も勿論やりますが他社案件にも呼んでいただいて参加することもあります。

―――映画の撮影現場ではどの位の人数のスタッフを集めていますか?

各パートの助手まで入れると、60人前後ぐらいが平均でしょうか。

制作プロダクションが作る企画とは

―――自身で立てた映画企画は、どのように成立させているのでしょうか?

弊社1社だけで映画を作る事は難しいので、製作幹事や配給会社などの一緒に開発してくださるパートナーさんを探すところから始まります。映画にしたいと思ったテーマや企画があっても、映画を作る為の製作資金やキャストに概ね目途がついて、成立(製作の決定)となるまでに2,3年はざらで、中には4,5年かかってしまう作品もあります。
なのでそれ位粘れる、自分が思い入れを持って取り組める企画かどうか、というスタンスで企画を考えていますね。

―――企画内容は、どの段階でどの位まで詰めていますか?

弊社1社で企画している段階でも、周りに読んでもらえるだけの完成度の脚本までは作っています。製作パートナーさんが参画してくれたら一緒に、どの位の公開規模や予算で製作するのかという見立てをしていく事になるので、それに準じてキャスティングについても考えていく流れを取っています。

新たな才能との出会い

―――新しい監督や脚本家とはどう出会っていますか?

やっぱり作品を観るしかないと思っています。
公開規模が小さい作品や新人監督の作品、自主制作映画についてもチェックして、気になった人にはコンタクトを取るようにしています。

自主制作映画については具体的には、国内の映画祭や、VIPO(映像産業振興機構)がやっているndjc:若手映画作家育成プロジェクトの作品を観たりしますね。

―――宇田川さんは映画祭などで審査をする機会もおありですよね?

そうですね。最近だと2019年と2020年の新藤兼人賞の審査員もしていたので、かなりの数の作品を観ていました。

あとは、人づてに紹介されたり、評判を聞く機会も多いですね。現役で活躍されている監督から、”この自主映画のこれがすごい”みたいな評判を聞いてご紹介いただいたりするケースもあります。

そういう形で、監督とは出会いますけど、脚本家はもっとたくさんの方々とご一緒したいと思っています。常々幅を広げたいなと考えていたので、脚本家のマッチングサイトGreen-lightは良いなと思いました。

Green-lightから脚本家に登用され商業映画デビュー『感謝離 ずっと一緒に』

―――Green-light、ご利用ありがとうございます(笑)。ここから脚本家として起用頂いた方がいらっしゃると伺いましたが。

はい、鈴木史子さんという方ですね。
何か狙いを定めて探すというよりはGreen-lightにあがっている企画を見ていて、鈴木さんがあげていたプロット兼企画書に目が留まりました。某マンガ原作の企画だったのですが、特に原作権を抑えてという事ではなく、これをドラマにするならという切り口で考えたプロットが書いてあって。

実はその原作は以前私も興味があったもので、そのきっかけもあって目を惹いたんです。なかなか難しい内容の原作なので、当時はうまくいかず諦めた経緯があって。鈴木さんがあげていたプロットは、まず文章力があったのと、この切り口でやれば映像化できるかもなと思わせるものだったんです。
彼女は他にも自身のオリジナル脚本をあげていたのですが、すごく無駄のない、好みの脚本でした。

―――そのタイミングで、彼女を起用してみようという映画企画があったんですね。

「感謝離 ずっと一緒に」という原作の映画化の企画を考えていて、それの脚本に鈴木さんを抜擢してみようと思いました。最初はプロットを書いてもらうところから始まり、脚本も全て彼女が書きました。コンセプトがはっきりした企画だったので、成立までは早かったですね。

彼女はまだ商業作品の経験のない新人だったのですが、『感謝離 ずっと一緒に』(2020)で脚本家デビューとなりました。監督も小沼雄一という過去に何度も仕事をしてきた監督だったので、新人と組んでも大丈夫だなという見通しもありましたね。

ちなみに鈴木さんは、ダブが昨年制作したTOKYO MXの連続ドラマ『片恋グルメ日記』でも脚本家で参加してもらっています。

監督、脚本家に求める事

―――宇田川さんが仕事をする監督や脚本家に求める事って何ですか?

自主制作ではなく商業作品なので、どこまでが作家性、どこまでがビジネス、その線引きというか境目を意識してほしいなとは思っていますね。

監督も脚本家も同様ですが、作家性重視でひとりよがりの作品になってしまっては広く受け入れられづらいでしょうし、作家性は私情とは違います。常に「作品を最優先」して、作家性と商業のバランスを意識して作る。“何を選択するのが作品にとってベストか”を考えることが絶対必要だと思いますし、そういう監督や脚本の方とご一緒していきたいです。

―――ダブでは、監督や脚本家と継続して仕事をする傾向がありますよね?

私はそもそも映画制作現場畑ではないところからダブという会社を始めたので、これからの新しい監督と仕事して一緒に実績を作っていこうという想いでやってきました。一度ご一緒した監督とは、その後も企画を継続していく方が多いかもしれません。

これから作りたい映画

―――これからどんな映画を作りたいですか?

人の五感に訴えるもの、ですかね。

自主制作や若い監督の作品には、世の中の問題に関してただ投げかけているだけのものが多い気がしているんです。こういう問題、こういう苦労があるんだよ、だけで終わっちゃうというか。論点を投げかけるだけでなくて、監督や脚本家、プロデューサーといった作り手がどう考えているのか、メッセージを映画の中に吹き込んでいかないと見応えがないなと個人的には思っています。お酒の場に例えていうと、『(作品と)サシで語り合って、今日は飲んだね~』、みたいな鑑賞体験になるような映画を作りたいなと思っています(笑)。

―――本日はお話ありがとうございました!

はい、お察しの通り弊社運営のGreen-lightの宣伝意図も含めて(笑)、本記事を書かせて頂きました。

昨年宇田川氏から『感謝離 ずっと一緒に』の制作の話を伺った時から実現させたかったこのインタビュー。自分とは異なる立場である制作プロダクション見地からの映画のお話も伺えて有意義な時間となりました。

和田有啓
1983年神奈川県横浜市生まれ。
スポーツ取材の会社からキャリアをスタートさせ、その後、松竹芸能、電通、DLEを経て2017年に独立。フリーランスとして複数の企業と提携し映画の企画/プロデュース/配給/宣伝を行った後、2019年に自身の会社となる株式会社Atemoを設立。2020年春から日本初の会員制映画製作マッチングサイト「Green-light」を運営。