第70回ベルリン映画祭において、あまりにも衝撃的なバイオレンスとエロティックな描写が物議を醸し賛否の嵐が吹き荒れながらも、映画史上初の試みともいえる異次元レベルの構想と高い芸術性が評価され、第70回ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した『DAU.ナターシャ』が、2月27日(土)、シアター・イメージフォーラム、アップリンク吉祥寺ほか全国公開となります。

© PHENOMEN FILMS

いまや忘れられつつある「ソヴィエト連邦」の記憶を呼び起こすために、ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーによる「ソ連全体主義」の社会を完全に再現する前代未聞のプロジェクトは、実にオーディション人数約40万人、衣装4万着、欧州史上最大の1万2千平米のセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40ヶ月、35mmフィルム撮影のフッテージ700時間、撮影ピリオドごとに異なる時間軸……莫大な費用と15年もの歳月をかけたもので、本作は、その膨大なフッテージから創出された映画化第一弾となる。

本作では、秘密研究都市にあるカフェで働くウェイトレス、ナターシャの目を通し、観客は独裁の圧制のもとで逞しく生きる人々と、美しくも猥雑なソ連の秘密研究都市を体感していくことになる。そして、巨大な迷宮の入り口であると同時に、当時の政権や権力がいかに人々を抑圧し、統制したのか――その実態と構造を詳らかにし、その圧倒的な力に翻弄される人間の姿を生々しく捉えていく試みでもある。この壮大な実験の果てに待ち受けるのは――?

© PHENOMEN FILMS

© PHENOMEN FILMS

スターリン体制下の1952年というパラレル世界に送り込まれた人々の、
あまりにも濃密な日常を捉えた日本版予告編が解禁

ソ連の秘密研究所に併設された食堂の責任者として働くウェイトレスのナターシャの慌ただしそうな“昼間”の姿は、夜に閉店すると一変、同僚ウェイトレスのオーリャと店内の食糧を肴に夜な夜な気だるくお酒を飲みかわす。ナターシャは、オーリャに対して上司としての優越性だけでなく娘ほどに年の離れた若い女性への複雑な感情など、抱える思いは単純ではない。そんな姿をはじめ、研究所に関わる人達が繰り広げる異常なまでにハイテンションな宴の様子、ナターシャが高名な科学者リュックと繰り広げる濃厚なラブシーン、謎めいた研究装置、歩くのもおぼつかないほどに酩酊したオーリャ、全てに嫌気がさしブチ切れるナターシャの様子など、この都市に生きる人々の生々しい姿を切り出した。そして、ナターシャはリュックとの関係を疑われ、KGBに連行され、激しい拷問を受けることになる――

本作の監督のひとりで「DAU」プロジェクトの責任者でもあるイリヤ・フルジャノフスキーは、ソ連全体主義を呼び起こさせるともいえるこのプロジェクトに取り組んだ理由について、
「私はユダヤ人の家系です。母はウクライナ出身で、故郷のユダヤ人は全員殺害されました。もし母が戦争の初めの頃に逃げていなかったら、私は今ここに座っていなかったでしょう。ドイツ兵たちはただの普通の男性だったことを理解する必要があります。「DAU」を通じて人間の本性が非常に複雑であることが分かるでしょう。この虐殺を伝える言語をどうすれば見つけられるでしょうか?それについてどのように話し、その記憶をそうやって新しい世代に引き継ぐことができるでしょうか。「DAU」は、ソヴィエトのトラウマについて語ります。バビ・ヤール(1941年に、ホロコーストにおける1件では最大の犠牲者を出したと言われる虐殺が起こったウクライナの地名)もグラーグ(ソ連時代の強制労働収容所・矯正収容所の管理部門の名称だが、ソ連の奴隷労働システムそれ自体を表す言葉としても使用される)も、最近起こったことです。ソヴィエト連邦以降の世界には、犠牲者または加害者、あるいはその両方がいない家族は存在しません。それこそがソヴィエトのトラウマです。ソヴィエトが残した病は記憶喪失です。誰もが覚えておきたいことだけを覚えています。この記憶喪失を克服しない限り、それは何度も何度も繰り返されます。意識的に覚えていないのかもしれませんが、魂は覚えています。反省し二度と繰り返さないための努力をしない限り、何度でも同じ経験をすることになるでしょう」と語る。

また、当初は「DAU」プロジェクトのメイクスタッフとして参加し、後に編集も担当することになる共同監督のエカテリーナ・エルテリは、撮影現場から作品に関わっていたことについて
「大きなアドバンテージがあったと思います。私は少なくとも500時間の映像を乗り越えて、ナターシャについての伝えたいストーリーを見つけました。彼女は困難な生活を送ってきました。彼女が発する言葉の全てにそれを感じることができます。とても孤独で傷つきやすいように見えるにも関わらず、とてもタフな行動をした彼女にとても感動しました。その硬い殻の中に隠された憧れ、希望、絶望、そして強さの層を見て、これを共有したいと思ったのです」と振り返る。

ベルリン映画祭で銀熊賞『DAU.ナターシャ』予告

前代未聞のスケールで描き出す、人間の悪と愛に関する研究-ベルリン映画祭で銀熊賞『DAU.ナターシャ』予告

youtu.be

<STORY>
ソ連の某地にある秘密研究所。その施設では多くの科学者たちが軍事的な研究を続けていた。施設に併設された食堂で働くウェイトレスのナターシャはある日、研究所に滞在していたフランス人科学者と肉体関係を結ぶ。言葉も通じないが、惹かれ合う2人。しかし、そこには当局からの監視の目が光っていた……。

監督・脚本:イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ
撮影:ユルゲン・ユルゲス『ファニーゲーム』

出演:ナターリヤ・ベレジナヤ/オリガ・シカバルニャ/ウラジーミル・アジッポ

2020年/ドイツ、ウクライナ、イギリス、ロシア合作
ロシア語/ 139分/ビスタ/カラー/ 5.1ch /原題:DAU. Natasha / R-18+

日本語字幕:岩辺いずみ /字幕監修:松下隆志 /
配給:トランスフォーマー

Twitter&Instagram:@DAU_movie
© PHENOMEN FILMS

2月27日(土)シアター・イメージフォーラム、アップリンク吉祥寺他