第1回木下グループ新人監督賞グランプリに輝いた映画『AWAKE』が12月25日(金)より公開されます。本作は、吉沢亮さん、若葉竜也さん、落合モトキさんらをキャストに迎え、プロとコンピュータ将棋ソフトウェアとの対局で話題を呼んだ2015年の「電王戦」に着想を得て作られた山田篤宏監督によるオリジナルストーリーです。今回は、本作が商業映画デビューとなった山田監督に、ストーリーの閃き、キャストと役柄の関係、印象的なシーンなどについてお聞きしました。

ーー今作は実話から着想を得てオリジナルの作品にしたとのことですが、どんなことを軸に物語を広げていったのでしょうか。

山田篤宏(以下、山田):常日頃から、面白いことがあったら映画にできないかなとか、映画のストーリーにならないかなと考えていて、「電王戦」の対局を見たときに、これは映画の題材にピッタリだと感じました。ただ、現実では棋士と開発者は全く知らない二人だったので、その部分は今作と大きく異なっています。あの二人(棋士と開発者)が小さな頃からのライバルだったとしたら、映画としてすごく面白くなるなというのをすぐに思い付きました。

ああいう勝負があり、ああいう結果を迎えた、そして、元奨励会の人で(人工知能の)開発者となった人がいるというところは事実ですが、それ以外のところは全部創作です。小さな頃からライバルで競っていたけれど、適わなくなって、片方は開発者に、そしてもう片方はプロになって・・・という流れは見えていたので、この物語の大筋を作るのはそこまで苦労しませんでした。人工知能研究会とか磯野の存在などの細かい設定は、考えているうちにアイディアが出てきた感じです。

ーーそうだったのですね。「清田くんの存在が浅川くんを強くした」というセリフなど、ライバルという存在の描き方が素晴らしかったので、監督の根っこにあった何かなのかと感じていました(笑)。

山田:若葉くんの『AWAKE』のとあるインタビューで「監督は英一の方に思い入れがある」というようなことが書かれている記事を読んだのですが、僕自身が勝てなかった人の方に惹かれてしまうということはあるかもしれません。英一は主人公だからかもしれませんが。ただ、勝てない人の方がドラマとして強い気がするので、単純に作者としてそこに惹かれたという可能性もありますね。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

ーー『AWAKE』は、細やかな人間ドラマを描きつつも、対局に向けて積み重なり広がっていくエンタメ性もすごく感じました。グランプリが決まってからも、脚本作りにはかなりこだわられたのでしょうか。

山田:最初の脚本は175ページくらいでしたが、最終は121ページになっていています。単純に大幅に短くなっているのですが、英一と陸のバックストーリーが最初は5:5くらいだったところを、大事なところだけ残して、視点をほとんど英一側に持って行きました。あとは、奨励会に入るためには絶対に師匠が必要なので英一にも小さいころ師匠が居たのですが、その師匠のセリフをお父さんに融合させたり、最後に解説する先生のセリフにまとめたりして、削っていきました。撮影に入る前、「初稿から撮影稿に至るまで監督の想いが変わっている可能性があるから、初稿を読みたい」という制作スタッフの方が居たので初稿を読んでもらったんですけど、そんなに大きく印象は変わりませんでしたと言われましたね(笑)。

ーー作品作りへの熱を感じますね…!勢いある展開はもちろん、印象的なシーンやセリフも本作の魅力だと感じました。中でも、終盤の対局後の寛 一 郎さん演じる中島と川島潤哉さん演じる山崎の会話は、いろんな要素が詰まった素晴らしいシーンだったなと。

山田:「電王戦」の話は結構複雑なので、プロットにまとめて人に読んでもらってもその面白さをわかってもらえないことが結構多かったんです。あのシーンはとても良い塩梅で将棋の魅力も伝えられましたし、ストーリー自体のまとめにもなっているので、すごく良く書けたなと思っています。

ーーあのお二人に語らせるというところもグッときました。あと、キャスティングも見事にハマっていましたね。どのキャラクターも愛らしいというか。今回、吉沢さんや若葉さんとご一緒していかがでしたか?

山田:吉沢くんは、撮影がはじまる前のリハーサルで、僕の想像を超えて作り込んできてくれた部分があったので、イメージがガチっとハマり、現場ではだいぶスムーズに進みました。若葉さんは、将棋の所作に関して「自分がやるには一番上手くないといけない」と言っていて、すごくこだわりを持って演じていましたね。

ーー落合さんが演じた磯野のキャラクターも最高でした。セリフも多く、映画に勢いをもたらすような役でもありましたよね。

山田:磯野は脚本を書いている段階ですごく良いキャラクターが書けたなと思っていました。一見とっつき難いのですが、実はいいヤツで、脚本段階でも周りのスタッフの中で人気のキャラクターでした。英一と陸はとにかく喋らないので、その分彼(磯野)に動いてもらうという役割分担も考えていて。リハーサルのときに、落合くんが考えていたよりももっとオーバーに演じてもらうという方向で話し合いをしていました。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

ーーなるほど。英一や陸は言葉が少ないからこそ、仕草や目線などの芝居や演出が素晴らしかったです。吉沢さんが一人でUSBで将棋を指すような手元の動作を繰り返しているシーンは特に印象的でした。

山田:あのシーンは本来無かったんです。

ーーえ、そうだったんですね!

山田:あれは、小学生などが上手くできるように普段から指す練習をする「空打ち」というそうです。制作前に将棋指導で来ていた棋士の先生も、癖で時々やってしまうというお話を聞いて、面白いなと思っていて。元々は、あのシーンが無くて次のシーンに流れる感じだったのですが、やっぱりあの辺りで英一の決意めいたところが無言で見えるといいなと、途中で思いついて取り入れました。その時に英一が手に持っているのは何だろう?空打ちができそうなものは何だろう?と考えたときに、USBかな…と。

ーー手元や引きなど、撮り方も印象的でしたね。

山田:すごくマニアックな話をすると、最近、同じロケーションで時間を隔ててカットを割る、という撮り方がすごく好きで(笑)。同じ場所なのですが、カットを変えることで時間が経過しているようにわからせる演出というか。個人的に最近すごく気になっている撮り方なんです(笑)。それが上手く作用しているので、あのシーン好きなんですよ。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

ーーそんな拘りがあったのですね…!そんなカメラワークと共に、今作は音楽も作品の広がりに繋がっている重要な要素だと感じました。

山田:音楽は、佐藤望さんという非常に才能あふれる方にご担当いただきました。いわゆる将棋映画のような音楽は絶対に嫌だったのでなるべく避けていただき、明らかにコンピュータらしいピコピコした音もちょっと違うな…と感じていたので、そこの塩梅は結構やり取りをしました。最後の対局シーンでは、もっと派手に盛り上げてしまってもいいかと思ったのですが、ここはじっくり対局の息づかいを見せようという話も出ていたので、いろいろと試行錯誤はしましたね。

ーー山田監督は今回オリジナル脚本の『AWAKE』を作られて商業映画デビューとなりましたが、映画に対する気持ちや熱量は変化しましたか?

山田:全然変わらないです。映画を作りたいという想いはずっとありますし、映画を撮るのが一番面白いのでこれからも作っていきたいです。ただ、昔だったらあれもこれも面白そうと思ってポンポン頭の中に企画が浮かんでいたのですが、新人監督ですがそこまで若くはないので、ここから先どうやって企画を作っていこうかと考えています。

山田篤宏監督

プロフィール

山田 篤宏
1980年、東京都出身。ニューヨーク大学で映画を学び、これまで乃木坂46のミュージックビデオや短編映画で実績を積む。第1回木下グループ新人監督賞において、応募総数241作品の中からグランプリに選ばれた本作で商業デビュー。
【フィルモグラフィー】
『My First Kiss』(05/短編) バハマ国際映画祭正式出品 KidsFirst! FilmFestival正式出品/第3回山形国際ムービーフェスティバルグランプリ
『ハッピーエンド』(10/長編劇場公開) オースティン映画祭長編映画部門観客賞/オックスフォード映画祭正式出品/LAジャパンフィルムフェスティバル正式出品/シカゴ・トーキング・ピクチャーズ映画祭グランプリ/ちば映画祭、高崎映画祭公式上映

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

映画『AWAKE』

2020年12月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

出演:吉沢亮 若葉竜也/落合モトキ 寛 一 郎
配給:キノフィルムズ
©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

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cinefil連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想いなど、さまざまなお話を聞いていきます。

edit&text:矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・取材・企画・宣伝など。様々な映画祭、イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、映画を生かし続ける仕組みづくりの「Sustainable Cinema」というコミュニティや、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。

photo:浅野耕平(Kohe Asano)