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『夢みるように眠りたい』

 1985年に撮影され、翌86年に公開された林海象のデビュー作で、主演した佐野史郎の映画初出演作でもある。オリジナル16ミリネガ原版を元に、クラウドファンディングの支援を受けて2019年6月にデジタル・リマスター(2K)を制作したとエンド・クレジットにある。今回の再公開は実に34年ぶりとなるのだが、その描写の斬新さ、独創性、稚気愛すべき仕掛けは少しも色あせていない。

 当時、29歳の林海象監督が自ら脚本を書き、冒険探偵ロマンスにファンタジー要素を盛り込み、無声映画への愛情をたっぷりと盛り込んだ作品。
台詞は字幕で処理され、ラジオやテープレコーダーの音声、効果音及び弁士の説明はトーキーとなっている。無音、有音のバランスもよく、観客の興趣を高めるのに大きく寄与していた。

 初めて女優を使った映画は帰山教生監督の1919年作「生の輝き」とされているが、実はそれ以前に月島桜が主演した「永遠の謎」という時代劇があったという設定。
忍者に誘拐された桔梗姫を黒頭巾が救出しようとするという内容だが、風紀を乱すと警視庁から撮影、上映を禁止され、ラストシーンが撮られないまま歴史から消えていった。
 月島桜の娘、桔梗が誘拐され、犯人は身代金百万円を要求してきた。執事が魚塚探偵事務所を訪れ、魚塚甚に救出を依頼した。手掛かりはテープに吹き込まれていた「将軍塔の見える 花の中 星の舞う」という文言。助手の小林少年とともに、「将軍の絵柄のある仁丹の広告塔、それが見える遊園地花やしき、電飾が星のような観覧車」と解いていく。観覧車内にはテープレコーダーがあり、もう百万円を要求してきた。捜査依頼を辞退するも、是非にと押し切られ、次なる手掛かりの地球ゴマが示すものを探し歩き、怪しい三人組を尾行するが、暴漢たちに襲われてしまう。
 さらに三度目の身代金百万円が要求され、魚塚は日本初の映画専門劇場である浅草電気館に飛び込んだり、「永遠の謎」のフィルムの中で黒頭巾として桔梗姫を救い出そうとする。

怪しいトリオの掲げる看板に書かれたMパテー商会とは日本最古の映画会社のことであり、古き懐かしき映画を思いださせずにはおかない仕掛けが随所に織り込まれている。
今となっては知る人ぞ知るといった小道具、建物、広告(黒人がストローで飲むカルピス)、三輪自動車といったアイテム、衣装(魚塚、執事はソフトをかぶり、小林はハンチングにニッカーボッカーに長靴下)が雰囲気醸成に役立っている。

 チラシには昭和30年代頃の浅草を舞台にした探偵映画とあるが、戦前の浅草のような背景も多く、描かれている時代は明確ではない。小林が聞いてるラジオからテーマ音楽が流れている「笛吹童子」が、NHKで放送されたのは昭和27年で、東映で映画化されたのは昭和29年だ。後者には執事役の吉田義夫が出演していた。桔梗に佳村萌、桜に深水藤子、小林少年に大竹浩二、弁士役に松田春翠が扮し、他にあがた森魚、大泉滉、松田春翠の弟子にあたる沢登翠らが出演している。夢と現が入り混じり、映画作りへの愛情を吐露した作者にエールを送りたくなる映画であった。

『BOLT』

 同時期に公開される最新作「ボルト」は三部構成のオムニバス映画で、東北芸術工科大学との共同製作作品。永瀬正敏が三話すべてに出演しているが、ストーリー的なつながりはさほど強くない。
一話目では、地震の影響で原子力発電所の放射能冷却装置のボルトがゆるみ冷却水が流れ出したため、そのボルトを締めに行くという決死行が描かれる。大きなボルトを巨大レンチで締め付けるという力業が要求されるのだが、単純な行為だけに見る方も思わず力こぶが入ってしまう。ドイツ無声SF映画の傑作「メトロポリス」(1927)の、大きな時計針のような棒を一生懸命廻す労働者を連想した。自分の命より使命を優先する作業員に永瀬が扮し、佐野史郎も同僚役で出ている。

二話目は避難指定地区で独居老人の遺品整理の仕事をしている無口な男性役。三話目は自動車修理工場で暮らす孤独な男の役。試写の前の挨拶で、林監督は「本作の一番いいところは短いとこ」と述べていたが、上映時間は80分と確かに短いが、第一作以来の独特の世界は維持されている。
一話目で半分近い時間を取り、残りを二、三話で分けている。試写終了後の話では「撮影は三、二、一の順番で撮った」とのこと。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

『夢みるように眠りたい』

STORY
大正7年。初めての女優主演映画といわれる帰山教正監督「生の輝き」の以前に、実は月島桜が主演した「永遠の謎」という映画があった。しかし、この「永遠の謎」は、警視庁の映画検閲によって妨害され、ラストシーンが遂に撮影されないまま、その名を映画史から消されてしまった……。 昭和のはじめ、東京。私立探偵・魚塚甚(佐野史郎)の元に、月島桜と名のる老婆(深水藤子)から、誘拐された娘・桔梗(佳村萠)を探して欲しいとの依頼がくる。調査を続けるうちに、魚塚は、この事件全体がまるでドラマのように出来すぎていることに気がついていく……。

●脚本・監督:林海象 
●撮影:長田勇市 
●製作:一瀬隆重 
●美術:木村威夫 
●音楽:熊谷陽子 /浦山秀彦 /佳村萠 /あがた森魚 
●照明:長田達也

●出演者:
佳村萌 /佐野史郎 /大竹浩二 /大泉滉 /あがた森魚 /小篠一成 /中本龍夫 /中本恒夫 /
十貫寺梅軒 /遠藤賢司 /草島競子 /松田春翠 /吉田義夫 /深水藤子

●受賞歴:
1986ヴェネチア国際映画祭 批評家週間 正式招待 / 1987
フィゲイラ・ダ・フォズ国際映画祭 グランプリ / 1987
ベナルマデナ国際映画祭 グランプリ(ヘラクレス賞) / 1987
ブルーデンツ国際映画祭 実験映画部門 グランプリ / 1986
ニューヨーク映画祭 正式招待 / 1987
アントワープ映画祭 正式招待 / 1987
香港国際映画祭 正式招待 / 1987
シドニー映画祭 正式招待 / 1987
バンクーバー映画祭 正式招待 / 1987
メルボルン映画祭 正式招待 / 1986
第8回ヨコハマ映画祭 自主制作映画賞/
新人監督賞 / 1986
第41回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞

監督・脚本:林海象
2020年デジタルリマスター(初版1986年)|日本|84分 /モノクロ

製作:映像探偵社
宣伝・配給:ドリームキッド /ガチンコ・フィルム

12月19日(土)~ユーロスペースにて劇場公開、他全国劇場公開

『BOLT』

STORY
ある日、日本のある場所で大地震が発生。その振動で原子力発電所のボルトがゆるみ、圧力制御タンクの配管から冷却水が漏れ始めた。高放射能冷却水を止めるため、男は仲間とともにボルトを締めに向かう。この未曾有の大惨事を引き金に、男の人生は大きく翻弄されていく。

episode1.BOLT
大地震の影響で原子力発電所のボルトがゆるんだ。冷却水が漏れ始めた圧力制御タンクの配管のボルトを命をかけて締めに向かう男たちの物語。

episode2.LIFE
原発事故後、避難指定地区に独り住み続けたひとりの老人が亡くなった。遺品回収に向かった男が直面する現実。

episode3.GOOD YEAR
クリスマスの夜、車修理工場に暮らす男の前に現れた一人の女。夢か幻か。

監督・脚本:林海象

出演:
永瀬正敏/佐野史郎/金山一彦/後藤ひろひと
テイ龍進/月船さらら/吉村界人
佐々木詩音/大西信満/堀内正美
佐藤浩市 (声)

美術:ヤノベケンジ
制作:東北芸術工科大学
製作・著作:レスパスビジョン /ドリームキッド / 海象プロダクション

配給:GACHINKO Film
2019/80分

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