「罪の声」

三億円事件とともに昭和の犯罪史をいろどった菓子会社社長誘拐事件と商品への毒物混入脅迫事件をベースに、塩田武士が執筆した『罪の声』(講談社文庫)の映画化作品。
同じ事件をベースにした高村薫の『レディ・ジョーカー』が警察捜査をメインにしているのに対して、本作は題名が示すように、電話で身代金の受け渡し場所を指示した子供の声が重要な要素となり、新聞記者と事件関係者の息子が闇に包まれた過去の謎を一つ一つ解き明かしていくところが軸になっている。
監督は「いま、会いにゆきます」「麒麟の翼」「ビリギャル」の土井裕泰。TVシリーズ「逃げるは恥だが役に立つ」で土井と組んだ野木亜紀子が脚色に当たっている。

©2020 映画「罪の声」製作委員会

 平成も終わりになったころ、新聞記者阿久津英士は、35年前の事件を掘り起こす記事を書くように命じられた。未解決のまま時効となり、もやもや感を引きずっていた先輩からは当時の取材メモを渡され、尻を叩かれる。もとは社会部所属だったが、事件を追いかけるのに疲れ、今は文化部でテキトーな映画批評を書いていた阿久津。ぶつくさ言いながら取材を始め、関係者を探し出して話を聞いているうちに、ブンヤ魂に火がつく。
 一方、京都でテーラーをやっている曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープを見つけ、再生してみると幼い自分の声がきこえてきた。しかも、それは身代金の受け渡し場所を指示するものだった。すっかり忘れていたが、思いだすと、真相を突き止めずにはおられなくなる。自分と同じように声を使われた男の子と女の子の現在を知りたいと熱望し、事件関係者の行方を探し始める。
 実際の事件でも唯一メンが割れている“キツネ目の男”のモンタージュ写真を有力な手掛かりに、新聞社では社会部が阿久津をバックアップし、当時の状況を再調査。やがて、阿久津と曽根は出会い、二人で手を組んで調査を進めていく。阿久津がロンドンにまで足を延ばすことでグローバルな広がりを見せ、当事者の一人だった曽根はメンタルなアプローチで関係者にせまっていく。
 阿久津側のいかにも新聞らしい調査報道と、曽根の子供時代の謎を解き明かそうとする執念にも似た思い。その二つが、複雑に絡んだ人間関係、高度経済成長社会のひずみがうんだ犯人グループの犯行動機をあぶりだしていく。随所に挿入される当時の状況、警察の対応が緊迫感を醸し出す。
二人の行動で謎が解き明かされていく過程は爽快であり、巻き込まれた子供の35年間の心の傷の深さも伝わってくる。もっとも、35年間わからなかったのに、今回は次から次へと手掛かりがつながっていく展開は都合よすぎるものの、エンターテインメントとしてよくできており、後味も爽やか。

©2020 映画「罪の声」製作委員会

 阿久津に扮した小栗旬がキャラクターと一体化した演技を披露。彼の上司に古舘寛治、先輩に松重豊が扮してヴェテランらしい味を出している。曽根一家は俊也を星野源、その妻を市川実日子、母を梶芽衣子、叔父を宇崎竜童が演じている。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

映画『罪の声』予告

映画『罪の声』予告【10月30日(金)公開】

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小栗旬  星野源

松重豊 古舘寛治/
宇野祥平 篠原ゆき子 原菜乃華 阿部亮平/
尾上寛之 川口覚 阿部純子/
市川実日子 火野正平 / 宇崎竜童 梶芽衣子
※古舘寛治の「舘」の漢字→正くは「舎+官」の外字

原作:塩田武士『罪の声』(講談社文庫)
監督: 土井裕泰
脚本: 野木亜紀子
主題歌: Uru 「振り子」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

©2020 映画「罪の声」製作委員会

全国東宝系にて公開中