今年は初のオンライン開催として【9月18日(金)~22日(祝・火)】に開催された“ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020 Powered by Hulu”。最終日の9月22日(祝・火)にクロージングセレモニーが行われ、各賞の受賞者が喜びを語りました。

MCにはフリーアナウンサーの笠井信輔と坂本梨紗が登場。
盛り上がったオープニングセレモニーの様子などを振り返りながら、「ゆうばり映画が始まったんだ!と思い起させてくれる作品だった」「常識に囚われた映画のプロには作れない、混沌の映画がここにある」等、Twitterに寄せられた一般視聴者の声を紹介した後、いよいよ各賞の受賞結果が発表されました。最後には「次回の開催からは夕張の地で皆さんをお迎えできますように」と厚谷司夕張市長からのVTRコメントが流れ、映画祭のエグゼクティブプロデューサー深津修一からの閉会宣言で2020年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭は幕を閉じました。

まず、【ファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門】の受賞結果が発表されました。

プログラミングディレクターを務めた塩田時敏からの挨拶の後、グランプリが発表され、本年度は『湖底の空』(佐藤智也監督)が受賞した。

以下に各賞の受賞結果と選評を記載させていただきます。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020 Powered by Hulu 
クロージングセレモニー概要
■日 時:9月22日(祝・火)
■会 場:スペースFS汐留(東京都港区東新橋1-1-16)
■司会:笠井信輔、坂本梨紗

ファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門
審査員長:清水崇(映画監督)
審査員:川瀬陽太(俳優)、向井康介(脚本家)、本田隆一(映画監督)、モ・ウニョン(プチョン国際ファンタスティック映画祭プログラマー)

◆グランプリ:『湖底の空』(佐藤智也監督)

佐藤監督は「今回オンラインということで、ゆうばりまで行けない方にも観てもらえて、さらに評価もいただけてとても嬉しいです。一卵性双生児の女性の方に話を聞いたのがこの映画の始まりで、子供の頃と大人になった後の双子を描きたいと思いました。この受賞を糧に次の活動に繋げていきたいと思います。」と喜びのコメント。審査員長の清水崇(監督)は「5人の審査員全員一致で何も揉める事無く、本作に決まりました。聞けば、佐藤監督は以前もゆうばりで審査員特別賞を受賞しているとか。その経験と実力が実を結んだ文句無しのグランプリ作品だと思います。」と評価しました。

オンラインでの受賞の様子

続いて、『Crazy World』(ナブワナIGG監督)が審査員特別賞を受賞。

◆審査員特別賞:『Crazy World』(ナブワナIGG監督) 

ウガンダから参加したナブワナ監督は、「この映画が日本に届き、観ていただいたことに感動します。僕は日本が大好きで、僕の映画人生は黒沢明監督の「羅生門」を観て始まったので、強い絆を感じています。僕の心から作っている映画を受け入れてもらえたのは誇りに思います。」と喜びのコメント。審査員長の清水氏は「監督はじめ、作っているスタッフも出演者も誰もが存分に楽しんで存分に楽しませようとしているのが滲み出ている映画の原点的な作品。かなり斬新で、通常は避ける部分を恥ずかしげもなくやってしまっている事が逆に好感すら感じさせ、人によっては癖になるテイストかもしれません。審査員の大半が推して残った受賞作です。」と評価しました。

続いて、『Cosmetic DNA』(大久保健也監督)が北海道知事賞を受賞。

◆北海道知事賞:『Cosmetic DNA』(大久保健也監督)

大久保監督は、「このような賞を頂きまして、この度はありがとうございました。とても嬉しいです。」と緊張気味にコメント。審査員長の清水氏は「作り手自らの立ち位置も含めて独白的な要素を交えながらも、個人の趣味世界に陥らず広がりと可能性を感じさせる。個人的には、もう少し音楽とダイジェスト(点描)編集に頼らず、展開の構成を凝縮した次回作を期待しています。」と講評しました。

続いて、シネガーアワード
の受賞作品が発表。シネガーアワードとは、南俊子賞(批評家賞)を受け継ぐもので、道内外の映画業界関係者によって選出される賞。本年度はSTVラジオパーソナリティ・工藤じゅんき氏、札幌プラザ2.5スタッフ・矢武兄輔氏、キネマ旬報編集部・川村夕祈子氏によって選出されました。

◆シネガーアワード:『湖底の空』(佐藤智也監督)

佐藤智也監督

グランプリとW受賞となった佐藤監督は「ファンタスティック映画祭に出す作品にしては地味かなと思っていたのですが、評価を頂けてこの上ない喜びです。」とコメント。工藤じゅんき氏は「審査にあたった3人が共通して選んだのがこの作品でした。過去の傷が出会いを通して変化していく様子。美しい映像と繊細な心理描写で国と言葉の壁を軽々超えて心に届きました。世界に自信をもって公開してほしい。」と講評しました。

最後に審査員長の清水崇氏より、「商業娯楽映画として完成度の高い作品から、これぞゆうばりファンタ映画祭的な拙さこそあれど突き抜けた勢いのある作品まで。いろんな視点で観ることができる作品がたくさんありましたし、作り手のメッセージや演出、芝居の質感など、多種多様な作品があって見応えがありました。」と【ファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門】を総評。
「僕も含めて、かつては皆それぞれに手作りの自主制作映画からスタートしてきているメンバーが審査員として参加していた事もあり、心のどこかで“技術や拙さでなく、独特過ぎる世界観やメッセージ、癖のある演出や芝居”で突き抜けてくれる作品を求めていたように思います。その点では色々な意味で勢いのある作品がもう少しあればな・・・というのが僕の感想ではありました。」と語りつつも、「映画を作ろう!観よう!という皆さんの心意気で映画と映画祭は成り立っています。閉塞しつつある世界を、大いに映画で広げ繋げてやりましょう!」と映画の明るい未来を願いました。

続いて、【京楽ピクチャーズ.プレゼンツ インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門】の受賞結果の発表が行われました。

京楽ピクチャーズ.プレゼンツ
インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門
審査員長:佐々木浩久(映画監督)
審査員:黒沢あすか(女優)、チョン・ジウク(評論家)

グランプリはテッサ・マイヤー監督の『歩く魚』が受賞。

◆グランプリ:『歩く魚』(テッサ・マイヤー監督)

テッサ監督は「本当にサプライズです。素晴らしい映画祭で受賞できてとても幸せですし、グランプリなんて信じられません!審査員の皆様、優しい審査をありがとうございました。この作品に協力してくれた佐賀県の皆さんにお礼を申し上げたいです。」とコメント。

オンラインでの受賞の様子

審査員長の佐々木浩久氏は「審査員3人全員がこの作品を選びました。ドキュメンタリーの手法を使っている劇映画であり、なおかつファンタジーであり、それと同時に女性問題を扱う社会的な映画でもあり素晴らしかった。キャスティングも素晴らしい。“新しい映画であること”という点でこの作品がゆうばりのグランプリにふさわしいと思います!」と評価しました。

テッサ・マイヤー監督

続いて、優秀芸術賞の3作品が発表となりました。

◆優秀芸術賞:『ビハインド・ザ・ホール』(シン・ソヨン監督) 

シン監督は「ゆうばり映画祭はいつか行きたいと思っていた映画祭で、このような機会を頂いて本当に嬉しく思います。コロナで厳しい状況が続いている中でもオンラインの開催で皆さんにお会いできたことも嬉しく思います。」とコメント。審査員長の佐々木氏は「韓国で社会問題となっている盗撮について取り扱いつつ、覗く側と覗かれる側をコミカルにテンポよく描いていて、エンターテインメントとしてうまくいっていた。2人の距離がだんだん近付いていき、最後での映画的な距離の取り方にとても関心しました。」と評価しました。

◆優秀芸術賞:『Share the Pain』(中嶋駿介監督) 

中嶋監督は「この映画は中学生の頃の自分の経験とその痛みから生まれました。Me Too問題等、昨今性暴力への声が大きくなっている状況で、この映画が正解・不正解ではなく、性暴力に関して考えるトリガーになればいいなと思って作りました。本当にありがとうございました。」とコメント。審査員の黒沢あすか氏は「これまで男性優位で進みがちだった性行為を女性側の立場に立った発想に繋げて、時代に一区切りをつけてしまうような映画。その監督・脚本を男性2人で取り組んだことに驚きを感じましたし、敬意を表したい。」と評価しました。

◆優秀芸術賞:『The Barber』(セルゲイ・プディッチ監督)

セルゲイ監督は「素晴らしい映画祭の一員として選ばれてとても嬉しいです。応募した時にはゆうばりに行くのが夢でした。世界状況が変わってしまいオンラインではありますが、今日はゆうばりのために仕立てたスーツを着ています!」と喜びのコメント。審査員のチョン・ジウク氏は「8分11秒という短い作品でしたが、 高い完成度とゆうばりらしい陰鬱で怪しい雰囲気だけでなく、どんでん返しの冴えたショートフィルムにふさわしい切れのある作品でした。」と評価しました。

最後に、審査員長の佐々木浩久氏より「24本の作品を観て、撮影・録音・編集などの技術はどの作品もプロに引けを取らない秀逸なものが多かったと思います。技術的なものがほぼパーフェクトな中で何を基準に選んでいくかを考えると、映画としての骨格がしっかりと芯があるもの、社会との繋がりを意識して自分たちの表現をしているもの、そういうものから選びました。また、性を取り扱う作品が多かったにもかかわらず、女性をモノとして扱う作品は少なく、映画における女性の考え方が大きく変わっていることも感じ、総じてこれからの時代を感じさせる映画祭でした。」と【京楽ピクチャーズ.プレゼンツ インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門】の総評を行いました。