「デッド・ドント・ダイ」

 死人は死なない。すでに死んでいるのだから、死ぬわけはない。その通りなのだが、映画における死人は往々にして生き返ってくる。本作では、ただ生き返るのではなく、人間に襲いかかり、噛みつき、その肉を食する。噛まれた人間もすぐに彼らの仲間入りをしてしまう。これまで作家性の強い、人間ドラマを作り続けてきたジム・ジャームッシュの新作は、今やホラー・アクション映画の定番となったゾンビ映画だ。

©️2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

 ここでゾンビ映画の歴史を紐解くと、もともとは死人を呪文で生き返らせサトウキビ畑で働かせたという中南米ハイチのヴードゥ伝承に由来している。無休無給の労働力だったわけだが、スクリーンでも「恐怖城」(32)、「私はゾンビと歩いた!」(43)といったローカル色豊かなホラー作品に登場していた。そして1968年、広告映画を撮っていたジョージ・A・ロメロがイメージテンというプロダクション名のもとに撮った「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」によって大きく変わることになる。死人が蘇り、人間に襲いかかってくるという画期的な設定は、その後のホラー映画に多大な影響を与えた。当初は話題にならなかったが、次第に知れわたり、カルト映画のステイタスを得るまでになる。亜流作品が雨後の筍のように出来たが、いまだにこの映画を越すインパクトのある作品は登場していないと言っても過言ではない。

 アメリカの地方都市センターヴィル。米系企業が極地で工事を行い、そのため地球の自転軸がずれて異常事態が発生する。政府と企業は異常事態と工事とは関係ないと発表していた。だが、夜の八時過ぎでも明るく、家畜が逃げ出したりする。墓からは死者が起き上がり、ダイナーに行き、二人の女性を襲い、その肉体を食した。クリフ・ロバートソン保安官、ロニー・ピーターソン巡査、ミンディ巡査の三警官を始め、浮浪者ボブ、嫌われ者フランク、雑貨屋ボビー、金物店主ハンク、葬儀屋ゼルダ、少年囚三人、モーテル主人、都会から来た三人といった人々の行動をコラージュのようにちりばめながら、ゾンビとの戦いが展開されていく。

 随所にホラー映画への言及がなされ、ゾンビが出土した墓にはサミュエル・フラーと彫られ、製作プロの名前がイメージイレヴンとなっているように、パロディやコミカルな要素が満載。もちろんゾンビ映画らしいえぐい描写も少なくない。ロニーは「頭を狙え(Kill the Head)」と強調し、なたで首を切り、保安官はショットガンで頭を射つ。すると、血ではなく黒い粉状のものが舞い出るところがユニーク。ゼルダは剣道着のようなものをきて、畳敷きの部屋で黄金の仏像に頭を下げてから、刀を振り回す。ゾンビ集団の中を噛まれもせずに歩き(まさに「私はゾンビと歩いた!」)、宇宙船から発せられた光を浴びて浮上し中へ入り、宇宙船は急発進する。

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 全世界規模のゾンビ跳梁を人口700人強の小さな町に限定し、ストーリーを象徴するような同名カントリー曲を随所に流して、雰囲気を醸し出す。墓から出てきた死人は、なぜか死装束ではなく、生前に着ていた普段着をまとい、生前にやっていたことを死後もやる。子供ならおもちゃ、お菓子をあさり、野球選手やテニス選手はバットやラケットを素振りする。
 この異常事態は経済活動を重視して自然を傷つけたことへの復讐なのか、ゼルダの正体や目的は何だったのか、多くの謎が不明のままに終わってしまう。

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今回のジャームッシュはいつもとは一味違うジャンル映画の枠組みの中で、究極の状況における人々の行動と心理をテンポよく紹介し、ゾンビ映画としての面白さも満喫させてくれる作品に仕上げていた。保安官に扮したビル・マーレーの軽妙な演技がよい。不思議なゼルダに扮したティルダ・スウィントンはまさにはまり役。
他にジャームッシュ作品常連のトム・ウェイツ、アダム・ドライヴァー、サラ・ドライヴァー、スティーヴ・ブシェーミ、クロエ・セヴィニーらが顔をそろえている。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

ジム・ジャームッシュ監督最新作-
『デッド・ドント・ダイ』日本版予告

日本版予告!ジム・ジャームッシュ監督最新作-愛すべきゾンビ・コメディ『デッド・ドント・ダイ』

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<STORY>
アメリカの田舎町センターヴィルに、何やら恐ろしくゾッとする影が・・・。
3人だけの警察署で働くロバートソン署長(ビル・マーレイ)とピーターソン巡査(アダム・ドライバー)は、ダイナーでの変死事件を皮切りに、思わぬ事態に巻き込まれていく。次々と墓場から蘇えり、町に溢れる死者たち。どうやら生前の活動に引き寄せられているようだ。日本刀を携えて救世主のごとく現れた葬儀屋のゼルダ(ティルダ・スウィントン)も加わり、時間を追うごとに増殖していくゾンビたちに立ち向かう。彼らを待ち受けるのは、希望か、それとも絶望か・・・!?
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ(『パターソン』 『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』)
出演:ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、イギー・ポップ、セレーナ・ゴメス、 トム・ウェイツ
2019年/スウェーデン、アメリカ/英語/104分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:THE DEAD DON’T DIE/日本語字幕:石田泰子 
​提供:バップ、ロングライド 
配給:ロングライド 
#デッドドントダイ
 
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6/5(金)全国公開