『カゾクデッサン』

映画美学校の試写室で行われた映画の上映が始まる前に、今井文寛監督が「低予算のインディ映画です」と挨拶。これを聞いて「ちまちました独りよがりの映画なら嫌だなー」と思ったものだ。インディ映画がすべてそうだとは言わぬが、娯楽性に乏しいか或いは逆に過剰だったり、無名の俳優の拙い演技、バランスのとれてない構成の作品があるのも事実。映画美学校の試写室で上映される作品にインディ映画が多いのは、試写室の賃貸料が安いせいかなと勘繰ったりもしたものだ。

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

 元ヤクザで今はバーテンダーという水元剛太に、中学三年生の池山光貴が「母の貴美が交通事故で入院している。外傷はないが、意識が戻らないまま二週間がすぎた。気が付くかもしれないから話しかけてほしい」と頼む。恋人でバーのオーナーでもある美里には「別れた女房の息子だ」と打ち明け、彼女の勧めもあって病院へ。貴美の夫・池山義治は剛太を見てイヤーな顔をする。話しかけてみたものの、貴美の意識は戻らない。
 フラッシュ・バック場面が数回挿入され、高校生の貴美が妊娠したことがわかり、「堕してくれ」と土下座して頼む男を殴りつける剛太——三人のシルエット遠景が映される。以後、剛太、光貴の二人を中心に、美里、義治をはじめとした周囲の人々の思い、行動が交錯し、それぞれの感情がぶつかり合う。緊張と追憶といった要素が織り込まれて、光貴が剛太に「自分の本当の父親は剛太じゃないのか」と詰め寄る場面もある。

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

 今井監督は低予算だけど、メジャー映画のような制約をうけずに己の感性にそった作品作りを試みたと言いたかったようで、私の心配は杞憂に終わった。
親子の絆といった家族の在り方をテーマに、登場人物のキャラクターを際立たせて描いているのが良い。光貴の訪問がきっかけで、過去のしがらみにへばりついていた剛太の頑なな心情が変化していき、それが池内親子にも波及し、終盤でフラッシュバック映像の意味も明らかになる。光貴の実父の正体をラスト直前まで隠し通した巧みな語り口もこれまた良い。

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

 剛太に「殺人鬼を飼う女」の水橋研二、美里に「火口のふたり」の瀧内公美、光貴に「ミスミソウ」の大友一生、義治に大西信満、美貴に中村映里子が扮している。
今井文寛は監督の他に、脚本、製作も担当。インディペンデント映画というと、「カメラを止めるな」といった数少ない例外を除き、儲からないのが常。それでも次々に作られてくるのだから、世の中に映画好きは尽きないのだろう。今井監督の今後に大いに期待が持てる作品と言える。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

出演:水橋研二 瀧内公美 大友一生 中村映里子 大西信満
SHIN 萩原護 岩﨑 愛 ナガセケイ 山田 諭 髙野春樹 河屋秀俊 坪内 守 逢坂由委子
監督・脚本・プロデューサー:今井文寛
プロデューサー:嶋田郁良 比嘉世津子 今井文寛|協力プロデューサー:狩野善則|撮影・編集:中澤正行|照明:福長弘章
録音・整音:臼井 勝|美術:佐々木記貴|音楽:蓑田峻平|助監督:小林尚希|キャスティング:富澤沙知|制作担当:鈴木和晶
スタイリスト:高橋さやか|メイク:村中サチエ 細川昌子 竹川紗矢香|技斗:江澤大樹|企画協力:ブレス|製作:株式会社マーキュリー
2019年/日本/98分/カラー/シネマスコープサイズ/DCP
配給:今井文寛

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

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