増村保造監督の作品は色々と観てきましたが、監督のセンスってやっぱりすごい!と思えた作品です。
女の狂気・人間の変態性・社会派ドラマなど素晴らしい作品の数々からあえて今回は”ラブコメ”を選んでみました。
若尾文子さん、川口浩さんがとってもチャーミングなのはもちろんのこと、脇を固める俳優陣の仕事っぷりが素晴らしい作品です。
今回は取り上げなかったけれど、船越英二さんの喜劇的センスが最高だし、若尾文子さんの役の振り幅広すぎるだろ。とも思いました。
あと100回くらい観ても飽きない作品です。
※本文にはネタバレも含みますのでご注意ください。
あらすじ
野々宮家は三人姉妹。長女の桃子(丹阿弥谷津子さん)は三島商事の社長で三島家の長男・一郎(船越英二さん)の妻。次女の梨子は三島家の次男で専務の二郎と結婚し、次は三女の杏子(若尾文子さん)と三原家の三男である三郎(川口浩さん)を結婚させようと画策する桃子たち。
そんな意図を知った杏子と三郎は桃子の作戦には乗っかるものかと「結婚しない同盟」を結ぶが、桃子は色んな角度で二人の結婚を導いていく。
初めは結婚してたまるかと意気込んでいた杏子と三郎であったが、徐々にお互いを意識しだして・・・
その1【貫禄のある社長夫人】・・・丹阿弥谷津子さん
野々宮家3姉妹の長女・桃子。
設定年齢は定かではないけれど、演じられていた丹阿弥さんが当時35歳だったから多分30代前半くらいの設定なんじゃないかと思うのですが、とんでもない存在感。
その貫禄といったら50代くらいのもの。
このお方が物語の軸となる”杏子と三郎を結婚させる”ということを色んな作戦で二人の行く末を導いていく重要な存在。
初登場シーンの次女・梨子の結婚式で会社関係の人に挨拶して回る様子や、立ち振る舞い方でもう旦那である一郎とのパワーバランスがわかっちゃう。
この大物感、貫禄はどこからやってくるのだろうと私が着目したのは笑顔のまま話すという技。
口を大きく開けないで喋るのがポイントです。
社長夫人感と言いますか、心の余裕がその喋り方に出ている。
裏で会社をも牛耳る勢いの桃子は度胸が据わっていて、どんな人に対してもパワーバランスが上なのですが、三郎が務める会社・大島商事の社長夫人に対してだけちょっと崩れます。
大島商事の息子・武久は杏子と結婚したがり、娘・藤子は三郎と婚約している。
桃子にとっては強敵です。
杏子と武久を結婚させるわけにはいかないと直談判しに行くのですが、社長夫人にペースを乱され、パワーバランスが崩れてしまいます。
その社長夫人を演じられているのが東山千栄子さんなのですが、まぁ、この二人のやりとりが面白いんです。
東山さんのまた違う社長夫人らしい余裕感というか、何ににも動じない感じがすごい。
役によって”流れている時間の速さが違う”っていうのが面白ポイントの1つだなぁと思った名シーンです。
その2【可愛い笑顔の愛されキャラ男子】・・・小林勝彦さん
三島商事で秘書として働くことになった杏子の世話係をすることになった宇野くん。
美人でしかも新しいもの好きの同僚男子はみんな杏子を狙っているけど、社長の息子である三郎と結婚するらしいともっぱらの噂だからみんな話しかけたりできず。。
そんな中、宇野くんが勇気を出して杏子をとんかつ屋に誘いだし、杏子が純然たるフリーであることと就職したのは恋人探しの為という情報を聴き出します。
その噂は一気に社内に広まって、杏子は口説かれまくることに。
とんかつ屋さんで両頬に手をついて杏子に見とれている宇野くんが、めっちゃ可愛いんですよねー。
「かわいいなー」って心の声が顔の横から吹き出しで見えてきちゃう。
会社で杏子を見ている時も顔から”好き”が滲み出ているし。
草食男子ではないんだけど、男って感じでもない。
愛されキャラというか、中性的な雰囲気を持っていて、かっこいいよりかわいいが似合う宇野くん。
今までこの年代の映画を見ていてなかなか見なかった「かわいい男子」キャラ。
約60年前の映画が今でも古臭く感じず見られるのはこの宇野くんのキャラクターがポイントとなっている気がするんですよね。
この映画の中でもビジネスガールという言葉が度々登場しますが、女性が次々に社会進出し今までの”男女”の関係性に変革期がやってきていたと思うんです、昭和30年代って。
杏子と宇野くんも割り勘でとんかつ屋さんに行っていたり。
そういう小ネタや宇野くんのキャラクター設定で、増村監督の新しい時代に対するウェルカム感がすごく伝わってきました。
その3【ぶっきらぼうだけど温かみのあるお父さん】・・・宮口精二さん
言わずと知れた名バイプレイヤーの宮口さん。
シャイというか、頑固というか、そんな感じの役がとっても似合う宮口さん。
今回は野々宮家、3人姉妹のお父さんです。
ただ居るだけでぶっきらぼう感が出るのはなんでなんだろう・・とじっくり見てるとなんとなく気付いたのが、口の閉じ方。
漫画でいう”への字”?みたいな口の閉じ方なんですよね。
気付けたのそこだけかい!って思うけど、それだけでその人の性格が伝わるってすごいですよね。
いつもむすっとした感じなんですけど、決して感じ悪さがなくて。
杏子も「お父さんは私のことが一番かわいいんでしょ」って言ってますが、それは無表情ながらも伝わってくるんだなぁ。
杏子に臨時収入があり親孝行をしようと父を誘って二人でとんかつ屋さんに行った時、父の背中越しで喋っている杏子がしばらく続くんですけど、その背中が楽しそうなんです!
”あぁーお父さん嬉しそうだなぁ”って背中でわかる凄さ。
見えない心の開け閉めが見えちゃうんですよねー。
え、なんでなんで?凄すぎません?
最後、杏子と三郎の結婚式に絶対行かないと意地を張っていたお父さんだけど、こっそり隅の方にやってきて、背中でスピーチを聞いているシーンではもう心の声が全部聞こえてきちゃいますもん。
宮口さんには台詞なんていらないんだ、と唸るシーン。
こちらの映画は今から61年前の昭和34年に公開された作品ですが、今見ても結婚に対する考え方とか通ずるものがあって全然色あせてなくて、おしゃれで面白い。
結婚するために就職するっていうのは今でなくなってきていると思うけど、夢はお嫁さんって女子も多いし、現代でも「あー、わかるー!」って言いながら女子も男子も見れる映画だと思うのです。
しかも、作品を通して流れるジャズが良くって、軽快なラブコメ感を作っている。
当時の会社に務める結婚前の男女のやりとりなんかも要所要所出てくるんだけど、その小ネタがまた面白い。
オープニングのロゴの出し方とか色彩感覚もちょーオシャレだし、当時の高度経済成長期だった日本のシャキシャキ感というか、活気の良さ。
通勤電車や仕事帰りに丸の内の地下街でご飯食べたり、飲みに行ったりの描写がパワフルでテンポもよくて作品の軽快なリズム感を作り出している気がします。
結婚しない宣言をした二人がいつのまにかお互い気になり、好きになって結ばれる。という単純なストーリー。
シンプルな物語だからこそ素材の良さが求められるし、ダメな部分はすぐに露見してしまうけど、さすが増村監督。
音楽、画角、ちょっとした台詞全てにセンスが溢れていて、日本でもこんなにかわいいラブコメ映画が作れてしまうんだ!っと度肝を抜かれた作品です。
AmazonprimevideoシネマコレクションbyKADOKAWA「最高殊勲夫人」
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椿弓里奈(つばきゆりな)
1988年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学短期大学部卒業後上京し、役者として活動。
主な出演作に【映画】「64-ロクヨン-」瀬々敬久監督、「PとJK」廣木隆一監督【TV】「でぶせん」日本テレビ・Hulu、「きのう何食べた?」テレビ東京【CM】大塚製薬「ネイチャーメイド」など。昨年同い年の役者で立ち上げた”889FILM”ではyoutubeにてショートムービーなどの動画配信中。
所属事務所HP⇒http://www.jfct.co.jp/b_tsubaki.html Twitterアカウント⇒@bakiey