本年度アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞ノミネート、2019年カンヌ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞受賞のワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ監督『娘は戦場で生まれた』が、2020年2月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー公開となります。

© Channel 4 Television Corporation MMXIX

この度、本作の公開を記念して2/8(土)にトークイベントを行われました。

【映画『娘は戦場で生まれた』トークイベント】
日時:2月8日(土)
会場:日本ユニセフ協会ユニセフハウスにて
登壇者 サへル・ローズさん

2/8(土)日本ユニセフ協会ユニセフハウスにて女優のサヘル・ローズさんを招いて映画『娘は戦場で生まれた』の試写会とトークイベントが開催された。イラン出身のサヘルさんの実体験から語られる温かい言葉の数々に会場でも、多くのすすり泣きが聞こえた。

サへル・ローズさん

MC:本日は戦争と女性、戦争と子供と言う視点から女優のサヘル・ローズさんをお招きして語っていただきたいと思います。

サヘル・ローズ(SR):今日はどうしてもスクリーンで皆さんと一緒にもう一度見たいと思っていました。

MC:改めて見ていかがでしたか?

SR:いろいろなドキュメンタリー、シリアのものもたくさん見て来ましたが、女性の目線でワアド監督が撮ったこの映画はいままでにないものだと思います。男性の目線で、特に中東だと女性がフューチャーされることを控える部分がある。彼女の目線で彼女自身が見てきたもの、女性だからこそ見てきたもの、母性愛を持って撮ってきたものが今までのシリアを題材にした作品と違っていました。

彼女が見ている景色、子供たちを見ている視線、妊娠がわかった時の表情とか、ひとつひとつが日常。紛争を撮ろうとか戦争を撮ろうとかではなくて、彼女が生きてきた痕跡、日常を撮っているからこそ、ここまでの「ほんと」って見たことない。すべてがリアル。日常だからこそ訴えかけてくるものが強いと思います。

1度目はワアド監督の目線でサマを見届けてしまう人が多いと思いますが、2度目は周りにいる家族だったり、友人だったりが印象に残りました。みんなそれぞれ子供がいて、その子供が「アレッポが消えちゃった」とお母さんの涙を無邪気に拭いているんですよね。もし皆さんの周りで子供が「東京が消えちゃったって」言ってたらどうでしょう? 普通、自分の国が消えちゃったって私だったらなかなか言えないけど、子供たちが無邪気に言うのが逆に突き刺さってきてしまいます。子供たちがいま聞いている空爆の音っていうのは永遠に消えないと思うんです。私が花火の音を聞いてトラウマを感じるように、子供たちもこれから生きていく中でいろんな音を聞いてフラッシュバックを感じて、癒えない傷を抱えていかなければならないと思うと子供がほんとうに犠牲者だなって思います。

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MC:悲惨な状況が日常であるということを突き付けられますね。

映画の中で妊婦さんが運び込まれて赤ちゃんが救い出されましたよね。一生懸命、お医者さんがさすったりして息を吹き返した時に劇場内では良かったという雰囲気になったんですけども、私はどこかで「この子、これから生きなきゃいけない」と思う自分がいて、素直に生き延びてくれた命に対して良かったのかなって、いいのかって気持ちでふたつになったんです。いまあの子はどうしてるんだろうって。戦場で生まれてくる命に対して素直に喜べなくなる、これってなんて残酷なことなんだろうと思いました。

サへル・ローズさん

MC:自分が生まれた故郷をなくすって日本にいてなかなか経験ないことですね?

SR:国を追われたり、本当にいま逃げなければならない状態に置かれてしまった。いま日本ではそういう環境にはありません。でもアレッポにいる彼らが逃げない、ここに留まりたいという気持ちは、状況は全く違いますが、わかり易く言い換えると、例えば福島の方々を思いだすと、周りはすぐ出て行った方がいいんじゃないかと言う、でもそこに家族がいる、いろんな記憶がある。なかなか自分の育った場所、愛しい場所から離れることはできないんじゃないでしょうか。そういう思いで見てもらえるとそこから離れられないんだなと。そこで再生することを考えて一生懸命、勇気を持って生きようとするはずなんです。

映画の冒頭のワアド監督が学生時代に撮ったアレッポの街の映像はまだ街に色がありますよね。でも時間と共にどんどん、灰色になっていく。アレッポという場所自体が全て壊されて魂を消されてしまった。でも子供たちの瞳の輝きは失われていなくて、いつか帰って来れるという希望を持っていると思うんです。バラとかジャスミンの花がきれいな街に。

去年の9月と10月にヨルダンとイラクの難民キャンプに行ったんですね。シリアの子たちと触れ合って。その子たちが目をキラキラさせながら「いつかお家に帰るから」って言うんですね。必ず帰ると言っているキャンプの人たちが、バラとジャスミンの花をテントの前に植えているんです。「ここに花を置くことで、自分たちの美しかったアレッポをずっと持ち続けたい。ずっと共に生きていたい」って言ったんです。ワアド監督も映画の中でバラの苗を持っていきましたよね。それを見た時にヨルダンで会った家族を思い出しました。

自分たちの故郷を花に託していたんです。

女性が撮ったからこそ、日常だったり、人々の心がすごく表れていた。だからこそ、遠い国のことであっても自分たちのことに置きかえ易かったと思います。

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MC:難民キャンプではどういう活動をされているんですか?

憎しみの種を植え付けられてしまった、親を殺されてしまった子たちには教育が一番大事だと思うんです。学校を作る手伝いをして、子供たちにちゃんと教育の場を与えることで、知識を持って意思を持っていれば武器を持つことはないと思います。国にも利用されないし宗教にも利用されない。武器ではなく人の手を持って握り合うこと、許すことさえできればこの負の連鎖はどこかで断つことができるんじゃないかと希望を持っています。

MC:キャンプで「シリアの子供たちの声」を衣装にして、その衣装に「ジョーカー」と呼んでいるそうですが。

子供たちのどうしても吐き出せない気持ちを手紙に書いてもらっていて、その手紙を衣装にしました。みんなハートの中に表情を描くんですがほとんどのハートが泣いているんです。いろんな言霊がそこに宿っていて。ジョーカーと言っているのは、人は最初から悪い訳ではなくて、やり方ひとつ間違えてしまうとこの子たちはジョーカーになってしまう。自分の中にある闇が大きくなってしまってネガティヴな感情が渦巻いてします。誰しも最初から悪人ではない。一人ひとりの関わり方によって人はジョーカーになってしまう。子供たちにはジョーカーになって欲しくないし、暖かい光の方を向いて欲しい。人は家族の目線によって生まれて来る。自分の瞳に子供が映っていて、子供の瞳に親が映っている。親は自分のことを見てくれていると感じています。人が人を見なくなった時に一人ひとりの命は堕ちてしまいます、消えてしまいます。だからこそ見て欲しいんです、ちゃんと人を。

 「ジョーカー」と名付けれられた衣装を着たサヘルさん

サへル・ローズさん

カンヌ国際映画祭ほかすでに55を超える映画賞を受賞-
『娘は戦場で生まれた』予告

カンヌ国際映画祭ほかすでに55を超える映画賞を受賞-『娘は戦場で生まれた』予告

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母は銃のかわりにカメラを手にとった
いまだ解決をみない未曽有の戦地シリア。ジャーナリストに憬れる学生ワアドは、デモ運動への参加をきっかけにスマホでの撮影を始める。しかし、平和を願う彼女の想いとは裏腹に、内戦は激化の一途を辿り、独裁政権により美しかった都市は破壊されていく。そんな中、ワアドは医師を目指す若者ハムザと出会う。彼は仲間たちと廃墟の中に病院を設け、日々繰り返される空爆の犠牲者の治療にあたっていたが、多くは血まみれの床の上で命を落としていく。非情な世界の中で、ふたりは夫婦となり、彼らの間に新しい命が誕生する。彼女は自由と平和への願いを込めて、“空”を意味する“サマ”と名付けられた。幸せもつかの間、政府側の攻撃は激しさを増していき、ハムザの病院は街で最後の医療機関となる。明日をも知れぬ身で母となったワアドは家族や愛すべき人々の生きた証を映像として残すことを心に誓うのだった。すべては娘のために…。2019年カンヌ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞ほか55(2019年12月19日現在)を超える映画賞を受賞。マイケル・ムーア監督ら世界の映画人を衝撃と感動の渦に巻き込み、本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた、傑作ドキュメンタリー映画!

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【監督】ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
【出演】ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブほか

2019年/イギリス、シリア/アラビア語/100分/英題:FOR SAMA/日本語字幕:岩辺いずみ/字幕監修:ナジーブ・エルカシュ/G区分

【配給】トランスフォーマー
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2020年2月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!