テレビCM、テレビドラマの監督としても活躍する宗野賢一監督の2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門正式出品作『フェイクプラスチックプラネット』が、アップリンク渋谷にて2月7日より公開が始まりました。

ⒸKenichi Sono

この度、cinefilでは今作『フェイクプラスティックプラネット』の監督宗野賢一さんにいくつかの質問を投げかけました!

『フェイクプラスティックプラネット』
宗野賢一監督

今作を作られるきっかけは? 脚本は前から考えていたのでしょうか? 

貧困女子についてのルポを読んでいたときに、ネカフェ難民という単語を知りました。そのあとYouTubeにネカフェ難民を特集した番組がいくつかアップされていたので、それを見ました。動画内で紹介される長期滞在の人たちは部屋をあたかもアパートの自室かのようにデコレーションしていたり、いろんな洋服(夏物から冬物まで)がハンガーにかけてありました。それを見て、ネカフェを香港の団地のような居住スペースとして描いたら面白そうと漠然と思ったのが、きっかけでした。
歴史上のシンクロニシティについてiphoneにメモしていたのを思い出し、アイデアをミックスしていき今作の脚本が出来上がりました。[貧困女子][ネカフェ難民]という社会性のあるテーマを扱う今作ですが、ノンフィクションものではありませんし、最初からリアルに描くということには重きは置いていませんでした。むしろいろんな物や登場人物を嘘くさい存在にすることで、主人公のアイデンティティの模索がより映画的に魅力的になると考えました。
書き始めたとき頭の中にあったのは、[不思議の国のアリス、イン東京]という世界観です。そして、見たあとに前向きになれるような映画にしたい、という気持ちがありました。

『フェイクプラスティックプラネット』というタイトルが都会ぽくて素敵ですが、このタイトルに込めれた意味は?

脚本を書いていた時にパソコンから流れていた曲がレディオヘッドの「フェイクプラスティックトゥリーズ」という曲でした。主人公シホは物語途中で、自分の存在というものがわからなくなり、アイデンティティクライシスを起こします。一体この世界(今生きるこの地球上で)でなにが本物なのか?すべてが作り物=フェイクではないのか?という意味で[嘘でできた惑星]という意味のタイトルにしました。

マドリード国際映画祭での宗野賢一監督

前作「数多の波に埋もれる声」もそうですが、監督は割と孤独なそして、どこかしら影のある女性の主人公を描いていますが、何かそういう設定に思いがあるのでしょうか?

実は今書いてる次回作の主人公も女性です。思いというのは特にありません、気づけばそうなっていたという感じです。

今回は、シンクロニシティというか、過去と現在がシンクロしつつドラマが進行していきますが、監督自身このような共時性を感じられたことがあるのでしょうか?

普段の生活でですが小さいことでは多々あります。
とある「偶然の一致」に勝手に主観が入り、そこに意味を求めることで、それが「共時性」
の出来事になっているだけかもしれません。

ⒸKenichi Sono

生まれ変わるもしくは輪廻といったことにも興味があるのでしょうか?
また、監督が思う死生観とは?

死んでも生まれ変わることはないと思いますし、輪廻というものも信じていません。
そもそも自分の生や死に意味を求め、そして自我が消えてなくなってしまうことへの恐怖から輪廻や生まれ変わりという考えが芽生えたのだと思います。
意味を求めるから、いろんなものに束縛され、生きることへの重圧を感じるようになると思っています。人生に「意味」なんてない事を受け入れると、生きる事が楽になります。
だからこそ、劇中のシホのように「今」が大事だという考えにたどり着きました。

宗野賢一監督

監督・脚本・プロデューサー 宗野賢一(そうの けんいち)
1985年生まれ。兵庫県出身。高校卒業後、アメリカに渡り、カリフォルニア州のチャップマン大学で映画制作を専攻。 人種差別問題を扱った卒業制作映画『There But Not There』(2010)がミシシッピ州のCrossroad Film Festival、ロードアイランド州のIvy Film Festival、サウスダコタ州のBlack Hills Film Festivalで公式上映され、好評を博す。Black Hills Film Festivalでは2010年度の最優秀学生映画のノミネート作品6本に選出される。
2010年に日本に帰国してから東映京都撮影所で助監督として『科捜研の女』『遺留捜査』『大岡越前』『刑事ゼロ』『Black Fox』など様々な作品に参加する。
2015年に自主制作映画『数多の波に埋もれる声』で長編映画監督デビューし、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2016 のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門に入選、公式上映される。
2019年には、ヤマザキビスケット「ルヴァンプライム」の「科捜研の女」バージョンの特別CMを3本監督したのち、ドラマ本編でも監督を務めている。

主演の山谷花純さんは、いかがでした?

すごく勘の鋭い方だという印象でした。
それがすぐわかったので、あまり現場でそのシーンについて長々と話すことはやめました。しかし、決して天才タイプでは無く、その演技力はしっかりと努力によって裏付けされたものであることが幾度となく垣間見えることがありました。
モニターに映る山谷さんを見て、脚本執筆時に頭の中で生きていたシホそのものだ、と驚いたのを覚えています。

映画全体に夜のイメージと、画面が統一されたトーンで世界観が作られていますが、撮影で監督が気になさるところはどういうところでしょう?
映画でのこだわりとかありましたら教えてください。

いつも映像で伝わる映画の雰囲気、世界観は一番気にかけています。撮影前に、僕が集めたいろんなzineや画像などをカメラマンの小針さんに見せて映画のトーンをしっかり話し合いました。ネットカフェ内の撮影ではスモークを使い、少し映画ブレードランナーの街のようにいろんな色の明かりがボヤっと滲む感じを表現しました。

ⒸKenichi Sono

撮影の小針さんや照明の大堀さん、音楽のヴィセンテ・アヴェラさんなどキャリアを見ますと海外、特にLAに住まわれた方が多いですがもともとから、知っていた仲間なのでしょうか?

もともと知っていたのは音楽のヴィセンテのみです。彼との作業は僕がアメリカにいた頃に撮影した短編から数えると今回で4作目になります。いつも僕のイメージする音楽を期待を上回るレベルでつくってくれます。日本で撮影する本作に日本人でないヴィセンテが音楽をつけることで、良い意味で日本ぽくない雰囲気を作品に出せると思いました。

今回の作品を生み出すまでに苦労した点がありましたら、教えてください。

自主制作なので、スタッフがとにかく少なく、脚本、キャスティング、ロケハン、撮影スケジュール、衣装の方向性、小道具の準備など自分でやることが多すぎて脳がパンクしかけました。
ただ撮影自体は好きなので、撮影が始まってからも寝る時間のない日々が続き苦労はしたかもしれませんが、楽しかった思い出しかありません。

今までに影響を受けた映画や映画監督はどなたでしょう?もしくは漫画、art、文学など他のジャンルでも構いません。

影響を受けた映画監督は、マーティン•スコセッシ、アレハンドロ•ゴンザレス•イニャリトゥ、ガス•ヴァン•サント、ペドロ・アルモドバル、ハーモニー•コリン、デイビッド•リンチ、ウォン•カーウァイになると思います。
好きな写真家は、ナン•ゴールディン、ライアン•マッギンレー、アリ•マルコポロス。好きな作家は遠藤周作です。

ⒸKenichi Sono

今後の予定、または次回作の構想などはすでにおありですか?

今次回作の脚本を執筆中です。ただもう一度自費で自主制作をやる金銭的余裕が全くないので、制作を助けてくれる資金支援者、プロデューサー、制作会社などを探しています。

海外の映画祭での反応などはございますか?(例えば日本と違うとか)また、今後も海外の映画祭などに出されていくのでしょうか?

ネカフェ難民、デリヘルなど日本特有のものを扱う作品なので、海外の人には理解してもらえないかもと心配でしたが、むしろ海外の方がこの映画の世界観を気に入ってくれる人が多い印象です。
山谷花純さんの芝居の力強さは特に好評で、マドリードでは賞までいただくことができました。
映画祭への出展はもうありません。あとは日本国内で出来るだけ多くの観客に見てもらえるように東京のあとは3月に名古屋のシネマスコーレ、5月に大阪のシネ•ヌーヴォXと順次公開していきます。

マドリード国際映画祭での宗野賢一監督

最後に今作を、これからご覧になる方に一言お願いします。

日常に起こる最高に嬉しい事も最悪に悲しいこともすべての出来事が重なり人の人生の道は形成されていく。今経験した嫌なことがあったからこそ辿り着ける明るい未来があるかもしれない。
映画を見終わった時に明日が楽しみになるような作品になっていますので、ぜひ劇場で楽しんでいただけたら、と思います。

『フェイクプラスチックプラネット』予告編

映画『フェイクプラスチックプラネット』予告編

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ストーリー
東京でネットカフェ暮らしをする貧困女性のシホ。
ある日、街角で初対面の占い師に「あんた、25年前にも来たね」と言われる。
それはいったい誰だったのか?そのふとした疑問をきっかけに、彼女の「常識」が全て覆される事態に発展していき・・・
自分と瓜二つの人間が25年前にいた? その真実を知ろうとした時、今までの「自分」が崩れ落ちる・・・。 自分はいったい「誰」なのか? 運命のいたずらに立ち向かう主人公を描くサバイバルストーリー!

【監督・脚本】
宗野賢一

【キャスト】
山谷花純、市橋恵、越村友一、五味多恵子、長谷川摩耶、大森皇、右田隆志

マドリード国際映画祭2019で最優秀外国語映画主演女優賞受賞
ブエノスアイレス・ロホサングレ映画祭2019に正式出品

配給:アルミード

UPLINK渋谷ほか全国順次ロードショー中!