誰のための映画か

松本「主演の2人とは最近会ってます?芋生さんと中山くんには?」

廣「映画祭でお会いしたのが最後ですね。アップリンク渋谷での上映の際に舞台挨拶で来てくださるので、プチ同窓会じゃないですけど、色々と会って話せたらいいなと。」

松本「いつ撮影したんでしたっけ?」

廣「今から2年半ほど前でしたね。2017年の8月19日~9月1日。もうそんなに経ったんだって感じがします。」

松本「最近の芋生さんのご活躍っぷりはすごいですよね。特に最近は結構女性らしい役が多い印象があります。」

廣「髪も長くなってて、また違う雰囲気で似合ってますよね。」

松本「そうそう。だから、このボーイッシュな時代の芋生さんを久しぶりに見たなって思って、ちょっと嬉しくなりました。この映画は若者をターゲットにしている感じですかね。」

廣「うーん……。こう言うとあんまり良く思われないかもしれないけど、よく映画って「観客のために作るものだ」って言うじゃないですか?でも、この映画に関しては、僕はどちらかというと「自分自身のために」作った、というのが正直なところで。当時の自分のあらゆる物を詰め込んで、精一杯作品に描くことで、自分の中の何かを変えられるような気がしていて、その一心でこの映画を撮っていたから。」

松本「なるほどなるほど。」

廣「だから、「どの層に響くか」みたいなことは正直、全然考えていませんでした。」

松本「2年半前だから、21歳の時?」

廣「そうですね。21歳になったばかりの頃ですね。」

松本「何を悩んでましたか?21歳のときは。」

廣「21歳の時…。多分、18歳の時からの、過去の色んな後悔を引きずったまま、ひたすら燻り続けているような時だったんですよね。「映画監督になる」という自分の中での決意も、容赦ない現実にぶち当たって、何もできないまま、ただ毎日が無駄に過ぎて行くような感覚に苦しめられていました。不安に押しつぶされてしまいそうだった。でも、「絶対にこのまま終わってたまるか」って気持ちだけは常にあって。馬鹿にされても、一人ぼっちになっても、自分の抱えている仕舞い切れない感情を、何か良いものに変えてやる!という一心で、気が付いたらこの映画を作っていました。」

松本「でも何かやっぱ、そっちの方が全然いいですよね。自分のためとか、誰か一人のために作る、という方が。」

廣「ロマンチストですね。」

松本「ロマンチスト、最高ですよ。」

タイトルに秘められたもの

松本「タイトルは撮影する前から決まってたんですか?」

廣「決まってました。この映画の成り立ち自体が、自分自身へのエールみたいな部分があるので、タイトルにも自分なりに意味を込めています。「群青」という言葉からは、青春の青さとか、センチメンタルな感情とか、ブルーなイメージを想像できますよね。でも、自分にとってはそれだけじゃなくて。僕にとって大切な存在であった人、その人は彩役のモデルになった人なんですが、その人は本当に青が似合う人だったんです。その人に対して、僕には到底忘れられない後悔があって。前向きになれない状態であり続けたからこそ、その人に対して祈りを込めるような気持ちで、何か意味のある名前をつけたいと思ったんです。だから、「あの群青の向こうへ」というタイトルにしました。映画の最後のシーンに重なる部分もありますが、僕たちは皆、どこか「向こうへ」走り続けなければならないのだと思ったんです。それがきっと、「大人になる」という事なんだと、当時の自分は感じていたんじゃないかな。」

対談を終えて最後のメッセージ

廣「この作品は、映画としては未熟なところが沢山あるし、色々物足りない部分があるとは思うんです。でも、これは紛れもなく21歳のときの自分が一生懸命作った大切な作品であるし、その時の精一杯な気持ちが、スクリーンを通して観客の皆さんに届くようなことがあれば、それは本当に嬉しいことだな、と思っています。ぜひ見に来ていただけたら嬉しいです。」

松本「今日はありがとうございました。色々深いところまでお話が聞けてあっという間の時間でした。紛れもなく是非多くの方劇場に足を運んでいただきたい作品だと改めて思います。」

(編集 秋風昴)

廣賢一郎監督プロフィール
1996年生まれ、長野県松本市出身。
大阪大学歯学部歯学科在学中に、デジタルハリウッドでCG/VFXを学ぶ。以降、数々のMVやCMの監督を務め、クマ財団クリエイター奨学生(2期生)にも選出された。

松本花奈 監督プロフィール
1998年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学総合政策学部在学中。高校入学後、映像制作集団KIKIFILMに加入し、作品を作り始める。初長編映画「真夏の夢」が史上最年少の16歳でゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出品。翌年、二作目の映画「脱脱脱脱17」が同映画祭にて審査員特別賞&観客賞を受賞。
第29回東京国際映画祭フェスティバルナビゲーター就任。2018年4月に情熱大陸にて密着される。雑誌連載やラジオ番組のMCを行いながら、映画やテレビドラマ、Webムービーとジャンル問わず多岐に活動、HKT48や崎山蒼志など今注目を集めるアーティストのミュージックビデオにも携わる。
山戸結希企画・プロデュース、女性監督によるオムニバス映画「21世紀の女の子」にて主演・橋本愛『愛はどこにも消えない』を監督。2019年は平成から年号が変わる中で平成生まれの若手スタッフ&キャスト布陣で製作したフジテレビのスペシャルドラマ「平成物語」(全話)、テレビ朝日7月クールのドラマ「ランウェイ24」(1.2.8.9.10話)など多くのドラマを演出した。
最新作映画「キスカム!~come on, kiss me again!~」が2020年4月2日より新宿バルト9他にて全国公開予定。

映画『あの群青の向こうへ』 予告編

映画「あの群青の向こうへ」予告編 (2020年1月11日よりアップリンク渋谷にて公開)

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《STORY》
未来の自分自身から手紙(ブルーメール)を受け取るようになった時代。青年カガリは些細なきっかけから家出少女のユキと共に東京を目指すことになる。

〈監督・脚本〉廣 賢一郎

〈出演〉芋生悠 中山優輝(現: 輝山準) 瀬戸かほ 斎藤友香莉
合アレン 田口由紀子 ひと:みちゃん 大口彰子
フランキー岡村 石上亮 鈴木ただし ほか

〈スタッフ〉
録音・整音/杉本祟志 録音助手/深田絵理佳 助監督/山口昂太郎 横内有貴 斎藤友香莉
制作/伊藤慎介 東拓馬 塩見悠史 ヘアメイク/長田静喜 制作進行・照明/菰田尚音
メイキング・スチール/寺居直樹 かみやしんぺい 撮影・編集・美術・CG/VFX/廣賢一郎
【2018年/97分/カラー/ステレオ/シネマスコープ】

1月11日よりアップリンク渋谷他にて全国順次公開