片嶋一貴監督・井上淳一脚本による『アジアの純真』が8年ぶりに東京で再上映されることになりました。

 本作は2011年10月15日の新宿K’s Cinemaでの上映を皮切りに全国10数カ所で順次ロードショーされました。しかし、決して多くの観客に届いたとは言えません。
 それから、8年。この間、片嶋一貴は『たとえば檸檬』(12)『TAP 完全なる飼育』(13)『いぬむこいり』(17)『M 村西とおる 狂熱の日々』(19)など監督作品を次々に発表、井上淳一も『戦争と一人の女』(13・監督)『あいときぼうのまち』(14・脚本)『大地を受け継ぐ』(16・監督)『止められるか、俺たちを』(18・脚本)『誰がために憲法はある』(19・監督)と脚本、監督、ドキュメンタリーとジャンルを問わず作品を発表してきました。

(c)2009 DOGSUGER

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『アジアの純真』とはどんな映画か?

2002年、北朝鮮による拉致事件で反朝鮮感情が蔓延する中、チマチョゴリを着た在日朝鮮人の女子高生が、チンピラに殺害される事件が発生した。その殺害現場に居合わせ、恐怖から見て見ぬフリをしてしまった気弱な日本人高校生。罪の意識に苛まれる高校生の前に、殺された女子高生そっくりの少女が現れる。少女は双子の妹だった。少女は、太平洋戦争の時、旧日本軍が廃棄した毒ガスを見つけ、それを持って、日本社会への復讐の旅に出る。寂寥たる風景の中をあてどなく彷徨う自転車の二人。それは、世界の中に放り出された二人の心象風景なのか。少女は問う。「どうやったら、世界は変わるんだよ」と。二人は世界を変えることができるのか――

 本作は第40回ロッテルダム国際映画祭に出品されました。そして、なんとか公開され、観ていただいた方からは熱狂的に愛されもしました。また、撮影時18だった韓英恵のみずみずしさは特筆に値し、インディーズ映画でありながら、その年のキネマ旬報の主演女優賞で、永作博美、大竹しのぶに次ぐ第三位という快挙を成し遂げました。
また、本作は、片嶋・井上の師である若松孝二監督の「最後の出演作品」でもあります。

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監督・片嶋一貴ステイトメント
『アジアの純真』がまた映画館で上映されるのは、嬉しいことです。なかなか多くの人の目に触れることが難しい作品なので…。撮影は2009年1月、劇場公開は2011年の10月でした。この映画は、韓英恵という女優がいなければ成立しえないものでした。18歳の韓英恵。この年齢でしか出し得ない異様な殺気と脆さが同居し、特有のオーラを醸し出している。偏狭な精神から自由になるためにもがき苦しむ純真な魂に、社会の正義など、いかに不確かなものなのか…。そこに、人間存在の不条理があると考えます。すでに韓英恵は29歳。時代は変わり、変わらないものは何も変わらない。今現在、この映画がどんなふうに受入れられるのか、とても楽しみです。

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脚本・井上淳一ステイトメント
戦後最悪と言われる日韓関係。ネットばかりか、ワイドショーでも反韓嫌韓ヘイトまがいの言葉が平然と語られる。ヘイトはそんなに視聴率がとれるのだろうか。叩いても文句を言われないものを叩く品性の卑しさ。「強制連行」が「徴用工」と呼び名を変えて久しい。あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」が中止になったのも、KAWASAKIしんゆり映画祭の『主戦場』上映中止騒動も、最大の原因は慰安婦だ。誰も自分たちのことを、歴史を、振り返らない。この国が彼の国で何をしてきたか。足を踏まれた者にしか足を踏まれた者の痛みは分からないのだとしても、これは酷すぎるのではないだろうか。いつかどこかで見た風景。戦前? いや、もっと近く。例えば、2002年。拉致問題が騒がれていた頃の、国を挙げての北朝鮮大バッシング。あの頃の空気にソックリだ。その後も、やれミサイルだ、やれ核開発と騒いだはいいが、金正恩がトランプと握手した途端にトーンダウン。今度はお隣の国が敵になる。それを煽って何になるというのだろう。
『アジアの純真』は2003年にシナリオを書き、09年に撮影され、11年に公開された映画だが、この映画で描いたことと何も変わらない現実。双子の姉を殺された在日朝鮮人少女は旧日本軍が不法投棄した毒ガスを手に入れ、日本という国に復讐するために旅に出る。報復の連鎖。その先に何が待っているのか?
香港では若者たちのデモに警察の暴力がエスカレート、権力は弾圧を隠さなくなった。イランでもペルーでもデモが激化、パレスチナではイスラエル軍との激突が続き、カシミール地方を巡って印パは一触即発、米中関係も温暖化も悪化の一途、辺野古の埋め立ては続き、福島では原発汚染水が垂れ流され続け、我が国の首相はウソしかつかない。分断と対立。なぜ同時多発的に世界中でクソバカな指導者が誕生してしまったのか。
そんな今だからこそ、『アジアの純真』を再上映したいと思った。幸い、全国各地で手を挙げてくれる同志がいた。新潟、茨城、沖縄、長野、大阪、広島、名古屋、埼玉と回り、ついに東京再上陸。
この映画は公開時、「反日映画」と散々叩かれた。反日、上等。今、この国を愛せよという方が不可能だ。日本人が作った「反日映画」を題材して、この国がどうしたらもう少しマシになるか考えたい。主人公は言う。「どうやったら、世界は変わるの?」と。答えなんて出るワケがない。でも、問いかけるだけではダメだ。この映画が、考えるはじめの一歩になればと願っています。

2011年/白黒/110分
ドッグシュガー、ロード・トゥ・シャングリラ
監督・片嶋一貴
脚本・井上淳一
撮影・鍋島淳裕/照明・堀口健/美術・佐々木記貴/録音・臼井勝/編集・福田浩平
音楽・ken sato

出演・韓英恵・笠井薫明、黒田耕平、丸尾丸一郎、川田希、パク・ソヒ、澤純子、白井良明、若松孝二

出品映画祭
ロッテルダム国際映画祭
ロンドンレインダンス映画祭
パリシネマ映画祭
春川国際学生平和映画祭

ラピュタ阿佐ヶ谷 2020年1月20日(月)~31日(金)レイトショー 20時30分~
松本CINEMAセレクト2020年2月11日(祝)10時30分 13時 16時