第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作『読まれなかった小説』が、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか絶賛上映中です!

公開記念イベント第2弾は、ラテンアメリカ文学研究の第一人者として、また文芸評論でも知られる野谷文昭さんによるトークイベントが開催されました。
チェーホフ、ニーチェ、ドストエフスキーなど、数々の作品にオマージュが捧げられた本作。
より深く読み解くキーワードとなるのは、ラテンアメリカ文学史上屈指の名作でノーベル文学賞受賞作家ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』。「蟻と再生」をテーマにパンフレットにもご寄稿いただいた野谷文昭さんによる興味深い解説となりました。

以下イベントレポートなります。

日時:12月15日(日)15:05~15:25   
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(千代田区有楽町 2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ 4F)
ゲスト:野谷文昭さん(東京大学名誉教授)

©2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film

膨大な台詞と豊かな映像により描き出される
「父と息子の軋轢と邂逅」

シナンの夢は作家になること。大学を卒業し、トロイ遺跡近くの故郷へ戻り、処女小説を出版しようと奔走するが、誰にも相手にされない。シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きな父とシナンは相容れない。気が進まぬままに教員試験を受けるシナン。父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。父子の気持ちは交わらぬように見えた。
しかし、ふたりを繋いだのは意外にも誰も読まなかったシナンの書いた小説だった――。

©2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film

日本のラテンアメリカ文学研究の第一人者 野谷文昭さん絶賛!
「見どころ満載のすごい映画!」

189分の本作を観終えて、トークイベントのために残ってくださっているお客様に「3時間超えの映画を観た後に残ってくださるなんて、みなさん勉強家ですね」と笑いを誘う挨拶から始まったトークイベント。
「トルコ文学は門外漢ですが、面白いので話したくなるんです」とトークを引き受けた理由を語る野谷文昭さん。映画の感想として、「とにかくセリフが多い。でも、消費するだけの言葉ではなく、引用したくなるほど実のある言葉ばかり。無駄がなく、討論になる。ドラマツルギーに溢れている。だから、3時間超えても観ていられるんだと思う」とセリフの多さに感嘆の声を漏らす。
ラテンアメリカ文学の傑作「百年の孤独」との類似点について問うと「書店のシーンでガルシア=マルケスが登場人物以上に大写しになります。また、映画の後半では、赤ん坊の顔と主人公の父の顔に“蟻”が這っている映像があります。そこからこの作品は『百年の孤独』からモチーフを引用しているのではないか、と思いました」と分析。
そのほかにも様々な作品の影響が見える。この映画は1回観ただけじゃすまないんです。5回くらい観るほうがいいですね。見所満載のすごい映画です」と絶賛!

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★素敵な書店が出てくる映画。
父殺しと息子殺し、ドン・キホーテ…文学的なイメージが盛りだくさん!

映画で出てくる書店は本好き、本屋好きな人にはたまらないですね」と野谷さんが語る海辺の書店。
ここには多くの作家の肖像画が映る。思わず、写り込んでいる肖像の主を調べたそうで「トルコ系の作家と世界の有名作家の写真が混在しています。大きいのはガルシア=マルケスと作家ではないですがフリーダ・カーロ。そして、ガルシア=マルケスに多大な影響を与えたと言われているヴァージニア・ウルフ。カフカも写っていましたが、彼もガルシア=マルケスに影響を与えています。ドストエフスキーもいましたね」と書店の肖像画を解析。

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「主人公シナンの部屋にはシオランという思想家であり作家の写真があります。この作家の写真を飾っていることで、シナンの教養度が分かる。うまい演出ですね」とシナンの部屋に飾られた写真までも気になったそう! 文学トークはまだ続く。
「ノーベル文学賞受賞作家のオルハン・パムクによる『赤い髪の女』が最近翻訳されましたが、その小説には“父殺し”、“息子殺し”のモチーフがあり、“井戸掘り”も出てきます。この映画でも、シナンは父が死んでいるのではないかと思いながら逃げようとし、父は息子の死の幻影を見ます。互いが互いを殺し、乗り越えるわけです。また、ドン・キホーテ的な要素もあります。父が諦める井戸掘りを息子のシナンが掘り続ける。その姿は“自分は狂っていた”と言うドン・キホーテに対し、サンチョ・パンサは“そんなことはない。さあ旅に出よう”と旅を続けるシーンと重なります」とスペイン文学の代表作『ドン・キホーテ』に『読まれなかった小説』をなぞらえ、解説してくださいました。

本作を観た人なら誰もが気になる「文学的モチーフ」と作家の肖像画について、ずっと聞いていたくなる詳細な解説に会場内のうなずきが止まらぬトークイベントでした。

東京大学名誉教授 野谷文昭さん

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作『読まれなかった小説』予告

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作『読まれなかった小説』予告

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監督・編集:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(『雪の轍』)  
撮影監督:ギョクハン・ティリヤキ  
脚本:アキン・アクス、エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

音楽:ミルザ・タヒロヴィッチ 
挿入曲:J.S.バッハ「パッサカリア ハ短調BWV582」(編曲:レオポルド・ストコフスキー)

出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグチュルほか

2018/トルコ=フランス=ドイツ=ブルガリア=マケドニア=ボスニア=スウェーデン=カタール/189分/英題:The Wild Pear Tree/原題:Ahlat Ağaci

配給:ビターズ・エンド
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新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか絶賛上映中!