ベルリン在住の中国人アーティスト、何翔宇(ヘ・シャンユ)が監督・制作・出演した長編映画『THE SWIM(ザ・スイム)』(2017)が、2019年11月30日(土)より、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムにて、連日21:00よりレイトショー公開されます。

2017年4月、米・ニューヨークのグッゲンハイム美術館でワールド・プレミア公開された同作が、商業劇場のスクリーンに上映されるのは、今回のイメージフォーラムが世界初となります。

ヘ・シャンユは、中華人民共和国の東北部に位置する遼寧省(りょうねいしょう)で生まれました。遼寧省の南部にある丹東市(たんとうし)が彼の故郷です。そこに流れる鴨緑江(おうりょくこう)
という川の対岸は北朝鮮で、川を泳いで中国側に渡る脱北者が多数いる、とヘ・シャンユは証言しています。加えて、丹東は中国の北朝鮮貿易における最大の物流拠点なので、約2万人の朝鮮人が暮らすとも語っています。そんな故郷のポートレイトが、映画『ザ・スイム』になります。

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of Nozomi Nagao

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of Nozomi Nagao

ヘ・シャンユは、アメリカ東部に住んだ経験があります。英語が上手く話せず、言いたいことを伝え切れない経験をした彼は、アーティストとしてレモンが題材の作品制作を思い付きます。

レモンを食べる時、酸っぱさのあまり、思わず口を小刻みに動かす人の仕草に着想を得ます。それこそ、外国人として英語のコミュニケーションに苦労する自分の姿に類似するものと考え、「レモン・プロジェクト」を始動したのです。レモンは世界的に普及しているものの、その歴史や文化的意義、使用法や調理法は、地域により随分と異なります。そんな事実に着目して、大規模なリサーチを行い、一連の作品シリーズへと昇華させました。

そのようなリサーチ型の作品制作は、映画『ザ・スイム』にも受け継がれています。ベルリンに移住後、幾度となく故郷の丹東を訪れ、中国に暮らす元北朝鮮人や北朝鮮人と接点を持つ中国人らを丁寧に取材。そのインタビューを映画『ザ・スイム』に採用しています。

まるで山水画に描かれた景色のように、山と川が織り成す雄大な中国の風景を映像にとらえる反面、耳を疑うような酷い話も記録しているのが、本作『ザ・スイム』の特徴です。

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of Nozomi Nagao

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of Nozomi Nagao

内気な息子は奥手で、女性との交際に発展しません。そう語る中国人夫妻は、脱北した若い女性との見合いを依頼。元北朝鮮から来た女子を嫁に迎えるも、結婚直後に逃げられてしまいます。しかも、中国人家族が仲介者に払ったお金は戻ってきません。嫁をカネで買おうとした中国人家族、期待した生活と違うとばかり都会に消えた北朝鮮の嫁、人身売買のごとく脱北者を手配するブローカー。誰のどこに正当性があるのか、と疑問を投げかける作風に仕上げています。

脱北して、ひっそりと中国で暮らす北朝鮮の男兄弟のインタビューでは、当局の摘発を回避すべく画面にモザイクをかけました。まるで介護のような結婚生活だと不満を漏らす脱北妻の北京語は、かなり訛っているそうです。川向うの北朝鮮側で、ひとり食料もなく暮らす幼女の餓死を恐れ、中国側の駐留地まで連れてきた中国共産軍の元兵士。彼は退役して年月が経ち、自らの死期が迫るため話してくれたのかも知れません。そうした演出が、中国と北朝鮮の今を示唆しているのです。

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of Nozomi Nagao

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of Nozomi Nagao

映画『ザ・スイム』がドキュメントする対象は、大別すると3つです。まず、作家の故郷である
丹東の風景。そこに来る脱北者、脱北者と関係を持つ地元民。そして、ヘ・シャンユ本人です。
北朝鮮からの不法移民とは逆に、彼は中国側から川を泳いで北朝鮮を目指します。その記録でもあるのが、本作『ザ・スイム』なのです。果たして、彼が泳いだ結果は?

He Xiangyu. (2017). THE SWIM. 96 min Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

このレイトショーは、東京・谷中の現代美術ギャラリー、SCAI THE BATHHOUSEで、2019年11月18日(月)から12月21日(土)まで開催するヘ・シャンユ個展「Who Are Interested in Us」の関連企画です。

【監督(作家)紹介】                          

©He Xiangyu photo/9mouth

何翔宇(ヘ・シャンユ)
1986年中国・遼寧省の丹東市で生まれる。鴨緑江という川の向こうは北朝鮮という立地が、2017年発表の映画『THE SWIM(ザ・スイム)』へつながる。
物質の形態変化や人間の知覚を題材としたプロジェクトを手がけ、中国の新世代アーティストと呼ばれる。「コカ・コーラプロジェクト」では、127トンものコカ・コーラを煮詰め、その残留物を展示。「レモン・プロジェクト」では、レモンの地理的、歴史的な特性を調査の上、複数の媒体を通じて多様な形態で発表。
2014年にホワイト・キューブ(ロンドン)での個展が大成功。
2016年SCAI THE BATHHOUSE(東京)、カイカイキキギャラリー(東京)で同時に個展を開催。2017年には東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」で二条城に展示。同年、N.Yグッゲンハイム美術館で映画『ザ・スイム』を世界初公開。
2019年2月「第11回恵比寿映像祭」に参加し、東京都写真美術館に《ザ・スイム》を映像インスタレーションとして展示。同年11月、SCAI THE BATHHOUSEで個展
「Who Are Interested in Us」を開催。会期中、シアター・イメージ フォーラムで映画版『ザ・スイム』をレイトショー公開へ。
作家サイト:**http://www.hexiangyu.com/**

【個展情報】                                       ヘ・シャンユ
「Who Are Interested in Us」

会期:2019年11月18日(月)- 12月21日(土)12:00 - 18:00
休廊:日・月・祝日
会場:SCAI THE BATHHOUSE (東京都台東区谷中6-1-23柏湯跡)
https://www.scaithebathhouse.com/ja/exhibitions/2019/11/he_xiangyu_who_are_interested_in_us/

日本映像翻訳アカデミーによる翻訳を日本語字幕に使い、Kyoto DUが上映用のDCPを制作し、東京都写真美術館/恵比寿映像祭、SCAI THE BATHHOUSE、Angie Naokoの協力のもと、長尾望の宣伝美術、トモ・スズキ・ジャパンの配給で公開するものです。

ザ・スイム
英題:THE SWIM -A PROPHECY OF THE PAST -

監督・制作・出演:何翔宇(ヘ・シャンユ)

北京語、朝鮮語訛りの北京語(日本語字幕)
2017年 96分 DCP(2K、フルHD)24fps アスペクト比:1:1.85/カラー

協力:東京都写真美術館/恵比寿映像祭、SCAI THE BATHHOUSE、Angie Naoko

日本語字幕:日本映像翻訳アカデミー
宣伝美術:長尾望

配給:トモ・スズキ・ジャパン

11月30日(土)より、
東京・渋谷シアター・イメージフォーラムにて、連日21:00よりレイトショー