最新作『読まれなかった小説』は
ジェイラン監督が知人父子の物語にインスパイアされた作品
作家を志す息子シナンと教師の父イドリス。実は、ジェイラン監督の甥で作家のアキン・アクスとその父がモデルとなっているのだ。
熱心な読書家でもあるアキンと意気投合したジェイラン監督は、子供時代の思い出や家族の関係性、父への感情について語り合い、アキンの話に感銘を受けて、映画を作ることを決意した。アキンは本作の共同脚本を手掛け、イマーム(イスラム教の指導者)役で出演もしている。
また、ジェイラン監督の父のキャラクターも、イドリスのキャラクターに反映されており、例えばイドリスの皮肉な笑い方はジェイラン監督の父がモデルになっているのだという。
ちなみに、ジェイラン監督はこれまでに様々な作品で親しい友人や家族に、脚本や俳優や編集、演出、サウンドデザインなど、様々な役割を任せてきた。妻のエブル・ジェイランは、長編デビュー作「カサバー町」(97)にプロダクションデザインに参加して以降、脚本、プロデュース、出演とジェイラン作品に関わり続けている。
「この映画は、受け入れ難いことだが、“運命に逆らえない”ことを、“罪悪感”によって知る青年の物語を、彼の周りにいる様々な人々の人間模様と共に、伝えようとしています。“父親が隠しているものは息子の中で明かされる”ということわざがあります。弱さ、習慣、癖など、人は父親から特定の特性をどうしても受け継いでしまうのです。これは、自分の父親と同じ運命を辿ることを受け入れる青年の物語です」とジェイラン監督は語る。
世界的巨匠監督が自伝的な要素も込めて描いた父の息子の軋轢と邂逅の物語。崇高な文学のような映画作品に昇華させた本作をぜひスクリーンで堪能してほしい。
予告編では、作家を夢見る息子シナンが重い足取りで地元に帰郷するシーンから始まる。競馬好きな教師の父イドリスを嫌っていて、2人は相容れないようだ。シナンは小説を出版するために地元で奔走するが、なかなか相手にされない。ようやく出版へとこぎつけた小説「野生の梨の木」のタイトルが意味するものとは一体?
予告編に登場する、ギリシア神話のトロイの木馬、シナンが唇を重ねる美しい黒髪の女性、いびつな野生の梨の木…。
パルムドール受賞監督がトルコの美しい港町を舞台に描く、「父と息子の軋轢と邂逅」の人間ドラマに期待が膨らむ。繰り返されるバッハの旋律、そして、「チェーホフ、ニーチェ、ドストエフスキーに捧げる至高の傑作」というコピーは、崇高な文学のような映画作品を予感させる。
そして、最後に、池澤夏樹さん(詩人・作家)のコメントが紹介されている。作家を夢見る青年の苦悩と葛藤を通して、最後に突き抜けるようなカタルシスが観る者に訪れるのだろう。
ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作『読まれなかった小説』予告
【STORY】
すべての気持ちを原稿にしたためたーー
シナンの夢は作家になること。大学を卒業し、トロイ遺跡近くの故郷へ戻り、処女小説を出版
しようと奔走するが、誰にも相手にされない。シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きな父とシナンは相容れない。気が進まぬままに教員試験を受けるシナン。父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。父子の気持ちは交わらぬように見えた。しかし、ふたりを繋いだのは意外にも誰も読まなかったシナンの書いた小説だった――。
監督・編集:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(『雪の轍』)
撮影監督:ギョクハン・ティリヤキ
脚本:アキン・アクス、エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
音楽:ミルザ・タヒロヴィッチ
挿入曲:J.S.バッハ「パッサカリア ハ短調BWV582」(編曲:レオポルド・ストコフスキー)
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグチュルほか
2018/トルコ=フランス=ドイツ=ブルガリア=マケドニア=ボスニア=スウェーデン=カタール/189分/英題:The Wild Pear Tree/原題:Ahlat Ağaci
配給:ビターズ・エンド
©2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film