第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作『読まれなかった小説』が、11月29日㈮より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開されます。

膨大な台詞と豊かな映像により描き出される「父と息子の軋轢と邂逅」

シナンの夢は作家になること。大学を卒業し、トロイ遺跡近くの故郷へ戻り、処女小説を出版しようと奔走するが、誰にも相手にされない。シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きな父とシナンは相容れない。気が進まぬままに教員試験を受けるシナン。父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。父子の気持ちは交わらぬように見えた。しかし、ふたりを繋いだのは意外にも誰も読まなかったシナンの書いた小説だった――。

©2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film

天は彼に二物も三物も与えた?
知的&渋かっこよすぎる世界的巨匠監督

2014年で100周年を迎えたトルコ映画。実はトルコの映画観客動員はコメディを中心としたトルコ映画が上位を占める。そうすることで映画業界を活性化させ、アート系映画が製作される素地が整い、大きな国際映画祭で受賞する作家を数多く輩出するようになった。その流れを牽引するのがヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督だ。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督

前作『雪の轍』で第67回カンヌ国際映画祭パルムドール大賞を受賞したほか、これまでにカンヌで2度のグランプリ、監督賞、主演男優賞を含む8賞のほか、世界中で93の賞に輝き、昨年には「21世紀の映画監督ベスト100」の上位にランクインするなど、世界的巨匠監督として確固たる地位を築き上げてきた。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督

そんなジェイラン監督は1959年、トルコ・イスタンブール生まれ。2歳から『読まれなかった小説』の舞台であるチャナカレに暮らし、高校進学のためにイスタンブールに戻る。1976年、トルコの上位国立大学のイスタンブール工科大学に入学し、化学工学を専攻するが、当時、大学は政治的、社会的動乱の中にあり、講義は常にボイコットや政治的対立などによって妨害され、休講となったため学業はままならなかった。1978年に改めてボアズィチ大学に入学し、電気工学を専攻する。高校時代に写真に興味を持ち、大学在学中に写真部に所属、パスポート写真撮影などで収入を得るようになる。また、登山やチェス、文学、クラシック音楽、に親しみ、イスタンブールのシネマテークで映画浸りになることで映画愛を育んだのも大学時代だった。卒業後は自分探しの旅をした後、18ヶ月の兵役を経て、残りの人生で映画を撮ることを決意する。最初に映画に関わったのは短編映画への出演だったが、その際には出演だけでなく、すべての映画撮影のプロセスに関わり、映画製作を学ぶ。

現在、60歳のジェイラン監督だが、今もその顔立ちには監督ではなく俳優かと勘違いしてしまうほどの大人の色気が漂う。実際、監督作「うつろいの季節」(06)では実際の妻エブル・ジェイランとともに主人公夫婦を演じ、世界的に評価されている。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督

チェーホフやドストエフスキーといったロシア文学や、G・ガルシア=マルケスといったラテンアメリカ文学などの影響を色濃く反映させた作品を手掛けるジェイラン監督は「自分が影響を受けたのは、映画ではなく文学。特にチェーホフは私の映画制作に最も大きな影響を与え、私に人生の見方を教えてくれました。彼のすべての小説を何度も読んだほどです」「文学はどんなに厚い本になってもいい。自由に長さを決められる。でも映画は90分や100分の制約がある。僕は映画を文学へ近づけたい」と語る。

そんなジェイラン監督の新作『読まれなかった小説』は189分の「観る文学」。
緻密な脚本と濃密な会話劇によって構築された世界に、私たちは引き込まれ、ただただ圧倒されるのだ。