昨年『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞“パルムドール”を受賞した是枝裕和監督。今や世界中で新作が待ち望まれる是枝監督の、長編14作目となる最新作にして初の国際共同製作映画 『真実』 が、ギャガ配給にて、10月11日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開となりました。
日本人監督としては初の快挙となるヴェネチア国際映画祭コンペティション部門のオープニング作品を飾り、上映では観客から約6分間に及ぶスタンディングオベーションと温かな拍手で盛大に迎えられた本作。ついに日本でも封切られると、「何度もクスクス笑ってしまう。軽やかなのに深くあたたかい余韻が残った。一見美しいフランス映画、でも間違いなく是枝作品。」、「国籍にかかわらず役者の最上の演技を引き出す監督の力量に拍手。月並みだけど、良い物語を語ることは言語を超えてゆくんだと感じた。カトリーヌ・ドヌーヴの大女優の貫禄の中に見え隠れする寂寥と母娘の間に確かに存在し続けた愛にじんときた。」、「”家”を描き続ける是枝監督の傑作にして最もチャーミングな一本!」と、多くの観客から絶賛コメントが相次いでおります。
ますます熱い注目を集まる本作ですが、この度、是枝裕和監督登壇のティーチインイベントを実施いたしました。
ファンにとっては恒例となっているだけあり、質疑応答では毎回洞察力の鋭い質問が飛び出すティーチインイベント。
是枝監督初の国際共同製作作品となった本作でのティーチインイベントでは、ファビエンヌ役のカトリーヌ・ドヌーヴの魅力や撮影時の裏話など様々な話に花を咲かせ、より一層盛り上がりをみせました!
<『真実』 ティーチインイベント 概要>
【日時】 10月25日(金)
【場所】 TOHOシネマズ 日比谷
【登壇者】 是枝裕和監督
<イベントレポート>
既に映画を鑑賞した観客から大きな拍手で迎えられた是枝監督は、「雨の中、ありがとうございます。なるべく長めにQ&Aを沢山やろうと思っているので、早速始めたいと思います。」と挨拶。客席からは沢山の手が挙がり、ティーチインがスタートしました。
Q.日本、フランス、アメリカなど諸外国の監督や助監督ですごいな、才能があるなと思った方はいますか?
A.監督だとアルノー・デプレシャンが好きです。あとは、『フロリダ・プロジェクト』のショーン・ベイカーも好きですね。助監督のすごさってなんですかね。今回、『真実』の助監督をやってくれた方は二コラさんという方で、『青いパパイヤの香り』や『ノルウェイの森』などを撮ったベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督のデビュー作から助監督をずっとやられている方なんです。トランが『シクロ』という映画で金獅子賞を獲ったときに、僕が『幻の光』でヴェネチア国際映画祭に出席していて、年齢が同じだったということもあって、色々な映画祭でお会いしたのをきっかけに仲良くなったんですけど、彼の現場はすごく大変だという噂を聞いていたんです。そんな彼の現場を何本も担当している助監督なら、すごく良い人なんだろうなと思って、二コラさんとお会いして、本作の助監督に決めました。すぐにトランからも「彼はとても素晴らしい助監督だから、きっと君の力にもなってくれると思うよ」と連絡を頂いて、本当にその通りでした。チーフの助監督さんは、現場の色々なトラブルを上手くまとめてくれるポジションなんですけど、そのおかげで僕は演出に専念できましたし、良い助監督さんでした。
Q.この映画はとてもフランス映画だなという感じがして、フランス人の生活感や、フランス人だったらこういうことをしそうだな、あんなこと言いそうだな、というところが自然で、日本人の監督が撮ったという事をあまり感じませんでしたが、どこかで日本人監督が撮ったという要素や証のようなものをわざと残そうということは考えましたか?
A.全く考えなかったですね。普段日本で撮っていても、日本映画にしようとは思わないので、普段と同じように、自分が選んだ題材と役者を最大限どう活かそうか、その空間をどのように魅力的に描こうかということだけを考えて撮りました。ヨーロッパの方たちもそこに何かしらの日本的なものを読み解いてくると思いますし、それが正しいか間違っているかはともかく、ある種の先入観も含めてそういう目で観られることには慣れています。今回、フランスの方たちはそういう目線ではない形でこの映画を観ると思いますが、その中で自分らしさのようなものがどのくらい残るか、残らないのか、意図して残そうとは思わなかったです。意図せずとも残るものはきっとあると思いますし、それはフランスで公開された後に分かると思います。
Q.是枝監督自身も娘さんがいらっしゃって、お忙しく会う頻度も少ないかと思います。この映画では母と娘、女優と娘がテーマでしたが、父と娘、監督と娘として、今回の映画に反映したことはありますか?
A.今回はそんなに考えなかったかな。今回はカトリーヌ・ドヌーヴさんに長い取材をさせてもらって、それをベースに脚本を書いている部分があるので、自分の何かを重ねる余地はなかったです。逆に自分とは距離をとれた作品だったので、面白かったです。
Q. 以前、『万引き家族』のティーチインで、監督が作られた脚本が、役者さんたちの手でまた新しい形に変化していく面白さがあるというお話が印象的でした。今回も、監督の脚本や演出から離れて、フランスの女優さんたちが作り出した世界観のようなシーンはありましたか?
A. 現場で何かアドリブが出てきているわけではないんですが、彼女たちを観察しながら足していったところはあります。本編中にあるファビエンヌの挨拶のキスの位置がココ(唇のギリギリ)なんだよ、という設定は、ドヌーヴさんが撮影後に毎日、「お疲れ様」って僕にキスをするんですけど、良いお芝居をしたときの位置が、かなり口元に寄ってきて衝撃を受けたので、そのまま脚本に書きました。
Q. 今回、是枝監督の作品の中で初めてダンスシーンがありますが、始めから入れようと思っていましたか?どういう風に、誰と踊るかという演出は、監督が考えたものですか?
A. そうですね。『空気人形』という映画で宙に浮くダンスシーンのようなものは撮っているんですけど、初めてと言えば初めてですかね。日常と地続きでふっと非日常的な風景に移行する、みたいなものを脚本に入れたいなと思ったんです。今回、劇中劇と実人生が反転していく、みたいな話にしようと思ったので、フィクションが日常になるのと、日常がフィクションになっていくのを、両方やってみようと、早い段階から脚本に入れていました。誰が誰と踊ってチェンジして、っていうのも決めながら、でも自由に動いてもらう感じ。元々は細かくカット割りもしてたんですけど、カメラマンのエリック・ゴーティエさんがなるべく割らずに一連で撮りたいタイプで、いい意味で動的なカメラマンだったので、彼の動きに乗っかりました。
Q.ドヌーブさんはファビエンヌみたいにめんどくさくなかったですか?
A.わがままなんですけど、チャーミングなんです、というと”わがまま”だけ切り取られて、批判しているみたいな見え方がすごく嫌なんです。まあめんどくさいか、めんどくさくないかでいえば、めんどくさい(笑)
でもただめんどくさいだけの人だったら、こんなに彼女のことを好きにならないんだよね。クランクアップした日には、共演したキャストも、スタッフもみんな彼女のファンになっている感じ。そこがやっぱりすごいなって思います。それはもちろん良いお芝居をされるっていうのもあるし、人柄に嘘がないんです。良いお芝居ができたときは子供のように嬉しそうにするし、早く帰りたいときは早く帰りたいっていうし、誤魔化しがない。不快に思ったことは一度もなかったです。基本的に毎日遅刻して、楽屋に入ると「昨日、夜眠れなかったのよ」と、セリフが入っていないから良いお芝居ができないかもしれない、というような予防線を張り始めるんだけど、途中からそれもかわいくなっちゃって。楽しい方でした。
Q.私はドヌーヴさんの大ファンで、横顔のシーンでは往年のフェイスラインが素晴らしいなと思って観ていたんですが、監督が撮っ ていてうわあっと驚いた瞬間や、凄いなと思った瞬間を教えてください。
A.やっぱり横顔ですよね。一番最初のインタビューシーンでたばこをふかしたときの、窓ボケの横顔の美しさが圧倒的で、彼女はここが一番ポイントなんだなと思って、印象的に残しました。劇中劇でマノンとお芝居をしているときの、転んでひざを打って立ち上がってからの横顔も素敵で。どのへんまで自分でフレームを意識しているか分からないけど、片目がマノンで微妙に見え隠れしている横顔が、撮っていてぞわぞわっとしました。
Q. 『真実』という強い印象のタイトルですが、このタイトルはいつ頃決まりましたか?日本人だったら分かりやすい感情のやり取りも多かったと思うんですけど、監督の意思が日本人だったら通じるのに、フランスの方には伝わりにくかったな、というシーンがあれば教えてください。
A. タイトルは2015年に、カトリーヌ・ドヌーヴで、ジュリエット・ビノシュを娘にして、イーサン・ホークを旦那さんにしてこういう話にしようと脚本を書き直ししてた時のタイトルが『真実のカトリーヌ』でした。最終的にはカトリーヌを取ったんですけど、劇中で出版された本の題名をタイトルにしようとずっと思っていたので、あまりぶれなかったですね。演出していて伝わりにくかった部分は、今考えてもでてこないので、あまりなかったのかもしれないです。クランクインの二週間くらい前に、子役の子以外で本読みができたんですけど、こういう作品なんだなというのはスタッフ、キャスト、僕自身もそこで掴めた気がしました。そこから大きくお芝居が外れたりはしなかったです。みんな本当に優れた方たちでした。
Q. 前回のイベントで、監督は中華料理屋さんのシーンが印象に残っていると仰っていましたが、そのシーンについて詳しくお聞かせください。また、監督が考える文学と映画の関係性を教えて欲しいです。
A.ファビエンヌが訪れる中華料理屋さんで、隣のテーブルに座っている人が良かったんですよね。実は中華料理屋さんの店主とファビエンヌがやり取りをするシーンも撮っていたんだけど、あの隣の方が強烈で、言葉なんていらないなと思ったの。年齢でいうと少しファビエンヌより上のおばあちゃんと息子たち家族が集まって、何かお祝いをしているんだけど、情報量的には少ないのに彼女が送ってきた人生と、ファビエンヌが送ってきた人生が対照的な感じなのがとてもよく出ていて良かったなと思って、字幕も出さずにセリフもカットして残しました。ただその場にいただけなんじゃないかな?というくらいあの家族が自然で素敵でした。エキストラというのも失礼なほど、あういう方たちが映画を豊かにしてくれますよね。
文学と映画は違うものだと僕は思っていて、原作モノは自分には向かないなと思ってやらないんです。僕が好きな小説も、文体そのものを追及している面白さがあるので、映画化には向かないものが多いから映画化を前提に読んだりもしないし、文字として楽しもうという感覚ですね。本作の劇中劇には一応原作があって、本当に短い短編なんですけど、劇中劇に使うにはあれくらいがちょうどいい。膨らませすぎると魅力が半減するから長編には向かないような、素敵な短編小説で。そういうのだといいんだけど、長編小説を省略しながら二時間の映画にするのが僕には向かないなと思います。
最後に監督は「ありがとうございました。字幕版と吹替版を観ていただいた方はもういいんじゃないかと思うかもしれませんが、11月1日から、個人的に愛蔵版と呼んでいる、捨てがたいあのダメな男たちのシーンを残したバージョンも劇場で上映できることになりました。本作は母と娘の物語にするために、だいぶ削いで絞ったんですけど、もしもう少しイーサン・ホークが観たいなという方がいたら、ぜひ。良いんだよね、あのダメさ加減が。もしお時間許す方がいれば、是非観てください」と挨拶をし、より作品の理解を深めた観客たちの満足気な表情の中、ティーチインイベントが終了しました。
『真実』予告
【STORY】
全ての始まりは、国民的大女優が出した【真実】という名の自伝本。
出版祝いに集まった家族たちは、綴られなかった母と娘の<真実>をやがて知ることになる――。
国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝本【真実】を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優の娘婿ハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘のシャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書……お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ1つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く「真実」をも露わにしていき――
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原案・監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ『シェルブールの雨傘』/ジュリエット・ビノシュ『ポンヌフの恋人』/イーサン・ホーク『6才のボクが、大人になるまで。』/リュディヴィーヌ・サニエ『8人の女たち』
撮影:エリック・ゴーティエ『クリスマス・ストーリー』『夏時間の庭』『モーターサイクル・ダイアリーズ』
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
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