山田孝之さんプロデュース映画『デイアンドナイト』とドキュメンタリー映画『TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY 「No Pain, No Gain」』。山田さんを中心とした気鋭のクリエイターたちが表現の本質を追い求める、志が重なった2作品。10/13(日)~25(金)アップリンク渋谷で2作品日替わり上映・トークイベントを好評開催中。

『No Pain, No Gain』には、オリジナル脚本作りに苦闘する山田孝之さん、阿部進之介さん、藤 井道人監督、脚本家の小寺和久さん、共同プロデューサーの伊藤主税さんの様子が記録されているが、『デイアンドナイト』の脚本開発にかかった時間は述べ4年、28 稿にまで及ぶ。幾度となく話し合いを重ね、自分たちが納得できるものにこだわって、徹底的に取り組んだ。

10 月 17 日(木)
阿部進之介(企画・主演)×小寺和久(脚本)

脚本会議で、僕たちは何と戦っていたんだろうか?
【阿部】脚本会議は、監督が書いたり、小寺くんが書いてきたものを皆で読んできて、「ここのシーンが気になったんだけど」って始まる。プロジェクターに映しながらその場で書き換えてもらって。『No Pain, No Gain』では、僕たちが脚本作りに苦戦しているところが記録されているんですよね。3年も4年も一体、何に苦戦していたんだろうか?

【小寺】阿部さん、藤井くん、山田さん、藤井くんの紹介で僕が入って、最初この4人の時は良いペースでいっていたと思うんですけど、伊藤プロデューサーに入っていただいて、やっぱり撮影の実現ベースで予算がどれくらいとか、現実を見始めたくらいから一つ目の試練があって。

戦っていた相手「その一」は、山田孝之さんがプロデュースするということで、コアメンバー以外に入ってくる人の期待値がすごく高くて。沢山意見をいただけたり、様々な可能性の提示が多くて、 ゴールが見えなくなったんです。例えば中国でも上映したいという話が出た時に、中国人を入れてみてはどうだろうか?とか、夢が無限大に広がっていた。「リュウ」や「マウロ」っていうキャラクターもいたんですよ。

【阿部】軸が詰まってなかった。そもそも何を描きたかったのか、ということには途中で立ち返れたんだよね。

【小寺】実は、阿部さんと藤井くんが作っていた、一番最初に僕がもらったペラ1枚のプロット4 稿に、「テーマ・人間の善意と悪意」「世の中で正しいと思われていることがその人にとって悪だったり、悪だと思っていることが誰かにとって良いことだったり。その間で葛藤する人間を描く。」 って書いてあったんですよ。作品が公開した時に気付いたんですが、完成したものと全く同じことがそこに書いてあって、スタート地点からズレてなかったんです。

【阿部】あれだけ時間をかけてブレにブレたけど...。最初からすごくシンプルな「善悪の間で葛藤する人間」って書いてたんだね。
【小寺】やたらに時間がかかったり苦労をしたけど、その異様な膨らみは何だったんだろうって。
【阿部】僕も企画原案なんて初めてのことで、なかなか良し悪しが分からなかった。でも一回そこを通ったからやっぱりそれは違って、来るべきところに返ってきたねって、「これは違うね」を共有できたのは大きかったなと思う。

【阿部】企画の最初は、藤井くんとずっと一緒に居酒屋で喋ってたんだよね。俺があぁでもない、 こうでもないことを喋り、藤井くんが書き留めていく。藤井くんとは若い頃から一緒にいた訳ではないから、もっとお互いを知ろう、コンプレックスや人に言えない恥ずかしいことを共有する中で、 何か生まれてこないかなって提案して。

物事をこっちから見るのと、あっちから見るのでは両方の見え方があるよねっていう話もしていた。僕は、冷戦時代のアメリカ映画で、ソ連が分かりやすく悪く描かれるものも娯楽映画として好きなんだけど、シリアスな映画で片側だけを描いているものにはずっと違和感があった。

ニュースを見ていつも思うのは、この人は容疑者と言われているけど、本当にやったのかな?って。 ここで言われている、書かれている動機はこれだけなのかな?その裏側は?なぜそこに至ったのか?ニュースってそこまで伝える必要がないのかも知れないけど、その人の人生があったと思うと、片面からの目だけじゃいけないと思って。

(自分が演じた)明石は、社会的に犯罪者と見られている。今日『デイアンドナイト』をご覧にな った皆さんは、犯罪者の人生を深く見る体験ができたと思うんです。それが僕としてやりたかったことの一つです。

【小寺】社会というものから見た時に、記事を書く人がいてそれを取り上げる人がいて、事件について書かれていることが真実とはほど遠くなっているという話はいつかした憶えがあります。

【阿部】新聞社が書いているものから、個人があげているもの、週刊誌があげているもの。情報って平等に並んでいるように見えるんだけど、精度が色々あって。子どもの頃はテレビに嘘はないと信じてたんだけど、どうやらそうじゃないと分かってきて。インターネットが出来てから更に怪しくなってきているのに、それに簡単に飛びついてしまう。答えが欲しい時にすぐググって、調べたことを簡単に鵜呑みにして、全て知った気になっているのは怖いなと。

【小寺】それは僕たちが戦っていたこと「その二」ですね。ググっても絶対出てこないことを映画にしようと、物語にしようと、そこに生きている人たちを描こうとしていて、連日連夜こういった議論で時間がかかってしまった。

■――俳優のお二人と一緒に脚本を作っていくことで良かった点、発見した点があれば教えて下さい
【小寺】役者がどういう風に考えて芝居をしているか、触れ合ったことがあるようでなくて。なるほど、この台詞を書いたらやりにくいんだとか、この行間は出来るんだとか。山田さんが目の前で演じてくれて今、自分の力になっていると思っているんです。間とかテンポとかそのシーンの台詞量とか、一言の重みというよりも「うん」「えぇ」といった砕いた台詞で雰囲気を伝えることが役者さんなら出来るんだ、ということを1年かけて学びました。

【阿部】脚本会議に参加している僕が明石を演じるということで、僕の口から自然と発する言葉、 その説得力は大きかったよね。逆に言うと一人で書いている時は、まだ誰が演じるか分からないから、砕き過ぎたら断定的になっちゃうということも考えるよね。

■ーーテーマ・台詞、他にどんなポイントで会議していくんですか
【阿部】組み立てですね。伝えたいたいことがあって、登場人物があって。誰がどの感情を描くか、 どのシーンを通して見せていくか、パズルのように組み立てていく。人を紹介するだけでも説明的になってもいけないし、ストーリーを展開させていく中で、人間性や人となり、感情を見せていかなくてはいけない。それが脚本開発をしていて、すごく勉強になった。

みんなでアイディアを沢山出すんだけど、アイディア過多になってしまう。それをまとめたり削いだ。敢えてシーンや人の感情を描き切らず、余白をたくさん作って想像を膨らませたかった。だから最後はやはり結論を言わないですし、是非とも皆さんに自分たちにとっての善悪を考えてもらえたらいいなと思って作った映画です。

10月19日(土)
皆で「作りたい」気持ちにしがみついてやりましょう

■――阿部さんと藤井さんの二人から始まった映画
【阿部】藤井くんが最初に「何かやりたいことはありますか?」と言ってくれて。普通、役者というのは脚本が完全に出来上がっている段階で呼ばれるんですね。でも、僕や前々から表現者として自分もこういう映画を表現したいという思いがあったので、だったら僕と藤井監督で、というところからこの企画は始まったんです。たまたま山田孝之に話したら興味があると言うので、監督と3 人で会って。そんな感じでだんだん人が増えてった。

【小寺】4年とか5年とか長い間やっていたんですけど、阿部さんは絶えず旗を振って、諦めずにやっていただいた。熱い思いがある方だなと思っております。阿部さんが「作りたい」気持ちを一番強く持っていた。皆でそれにしがみついて、やりましょうと。

【阿部】僕が主演するということでやっていたので、多少は皆を引っ張っていくっていう感覚がありました。途中脚本開発が長引いていたけど、孝之から「この企画は止まらないと思うよ、阿部ちゃんがいるから」って言われた。自分では気付いていなかったけど、人から見て自分の熱量がそんな感じだった。良いものをどう作るかしか考えていなかった。

【小寺】皆頼まれてやっていたわけではないので、夢中でやっていましたよね。

■――プロデューサーとしての山田さん、共同プロデューサー伊藤さんとの絆
【阿部】山田孝之は、誠実な人間ですよね。普段テレビやSNSだと楽しい雰囲気があると思いますが、『No Pain, No Gain』をご覧になった方は、どれだけ作品作りに真摯に取り組んでいたかが分かると思います。自分の言葉に責任を取る、思いの強い人間だと思います。

伊藤さんとの間には、気付かないうちに絆が出来ていた。『No Pain, No Gain』で二人が揉めて いたのを後で見て、そういうことを経て二人の信頼関係が強くなっていったと思ったんですけど、 伊藤さんも思いが強くて、約束したことは絶対守りたいという人。プロデューサーとして参加したからには絶対逃げないという人なんですね。最後までやってくれるだろうと思って、そこは心配せずいました。

良い脚本ができないとやる意味がないということで、クランクインも伸ばしてくれた。孝之が、脚本が中途半端なのに見切り発車で撮影することが嫌だったから、ちゃんと脚本を作りたいと言っていて。それに伊藤さんは、良い作品を作るためにと同意をしてくれた。プロデューサーとして誠実に対応してくれる人ですね。

■――藤井監督については、初日のトークショーで「傷つきながら作った4年間だった」と仰ったのが印象的ですが
【阿部】藤井くんは本当に繊細なんですよ。思いが強いんだけど、そこに触れられるとすごく動揺しながらコミュニケーションを取るような人ですね。表現者として情緒で生きているというか、感覚で生きているタイプの人。もちろん論理的に脚本を組み立てたり、撮影をするんですけど、それよりもすごく詩的な生き方をしている人だなって思いますね。

「善と悪はどこからやってくるのか」というノートに書いてある明石のお父さんの想いは、藤井監督が書いたもの。哲学的で、僕はこれがすごく好きで。善悪はやっぱり人が生み出すものなのかなって、この言葉だけで考えさえられて。こんな深い言葉を生み出すような人なんですよね。

■――また同じチームでやりたいと言う気持ちはありますか
【阿部】それぞれが忙しくてどの機会で出来るかわからないけど、この作品を通して深い絆ができた仲間なので、もちろんです。

【日程】10 月 13 日(日) 〜10 月 25 日(金) ( 2作品日替わり上映)

【チケット販売】詳細は劇場オンライン/劇場窓口にて
【会場】東京・アップリンク渋谷
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町 37-18 トツネビル
https://shibuya.uplink.co.jp/

なぜ「デイアンドナイト」が生まれたのか?
山田孝之ら 気鋭のクリエイターたちが映画界に新風吹かす

映画『デイアンドナイト』
善と悪はどこからやってくるのか。

映画「デイアンドナイト」予告

youtu.be

父が自殺し、実家へ帰った明石幸次(阿部進之介)。父は大手企業の不正を内部告発したことで死に追いやられ、家族もまた、崩壊寸前であった。そんな明石に児童養護施設のオーナーを務める男、北村(安藤政信)が手を差し伸べる。孤児を父親同然に養う傍ら、「子供たちを生かすためなら犯罪をも厭わない。」という道徳観を持ち、正義と犯罪を共存させる北村に魅せられていく明石と、そんな明石を案じる児童養護施設で生活する少女・奈々(清原果耶)。しかし明石は次第に復讐心に駆られ、善悪の境を見失っていく。

■出演/阿部進之介 安藤政信 清原果耶
小西真奈美 佐津川愛美 深水元基 藤本涼 笠松将 池端レイナ
山中崇 淵上泰史 渡辺裕之 室井滋 田中哲司

■企画・原案/阿部進之介
■脚本/藤井道人・小寺和久・山田孝之
■監督/藤井道人
■プロデューサー/山田孝之・伊藤主税・岩崎雅公
■制作プロダクション/and pictures inc.
■制作協力/プラスディー・BABEL LABEL
■配給/日活
©2019「デイアンドナイト」製作委員会

12 月 13 日(金) Blu-ray&DVD 発売

映画『TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY「No Pain, No Gain」』
節目の 30 歳を迎えた 2013 年~2019 年まで、激動の 5 年=2045 日に完全密着!

俳優・山田孝之がもがき、苦しみ、涙し、走り続けた5年間|TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY 劇場版「No Pain, No Gain」予告|新宿シネマカリテのみ限定上映中

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山田孝之が 30 歳を迎えた 2013 年から直近の 2019 年まで約 5 年間=2045 日の長期に渡って、所属事務所スターダストのグループ会社 SDP が主導となり完全密着。 人生の節目を迎えた一人の男が、信念の元に絶えず挑戦を続け、懸命に生き、苦悩を繰り返しながら「人生を楽しもう」と必死にもがく、実直な山田孝之の姿が収められている。彼は一体、何を考え、感じ、どんな未来をみていたのか。山田孝之の 5 年間の全記録とともに、本心が垣間見えてくる。

■出演/山田孝之
■監督・撮影・編集/牧 有太
■制作/テレビマンユニオン
■企画・制作・配給/S・D・P
©2019・SDP/NPNG