英国を代表する美術評論家ジョン・ラスキンの生誕200年を記念する「ラファエル前派の軌跡展 ターナー、ラスキンからロセッティ、バーン=ジョーンズ、モリスまで」が東京、久留米で好評を博し、満を持して、あべのハルカス美術館にて12月15日(日)まで開催されています。   

ラスキンは19世紀の英国最大の美術評論家で、生涯を通じてターナーを評価し、自然に忠実に素描することの重要性を説き、全5巻からなる『現代画家論(Modern Painters)』を著しました。
19世紀ヴィクトリア朝の英国では盛期ルネサンスの巨匠・ラファエロの芸術を理想とする古典主義が権威を振るっていましたが、これに反対する若い画学生たち、ロセッティや、ミレイ、ハントなどが、ラファエロ以前の、絵画が自然に忠実であった時代に立ち返ろうと1848年にラファエル前派同盟を結成したのです。
これは19世紀半ばのフランスにおける印象派と並ぶ、革新運動でした。
ラスキンは伝統を打ち破り、自身の思想を実践してくれる、いわば当時の前衛画家たちを擁護し、ラファエル前派同盟を支えました。

本展では、ラスキンが擁護したターナー、初期「ラファエル前派」のロセッティ、ミレイ、次の世代のエドワード・バーン=ジョーンズ、「アーツアンドクラフツ運動」の先駆けともなるウィリアム・モリスなどの絵画や素描、ステンドグラスや家具など約150点が一堂に会しています。      

優美で色彩豊かなロセッティの作品をはじめ、ドラマティックな美術革新を遂げ、花開いた19世紀の英国芸術を是非この機会にお見逃しなく、ご堪能ください。
では、シネフィル上でも展覧会と同様、5つの章に分け、代表的作品を見ていきましょう。

第1章 ラスキンとターナー

ジョン・ラスキン(1819-1900)は、13歳の誕生日に贈られた本の挿絵にターナーのイタリアの情景が使われていたことで、ターナーの風景画と出会いました。
ターナーの水彩画は高く評価されていたのですが、次第に画風が変化し、美しい風景画から、荒々しい筆致で自然の驚異を描くようになると、理解されなくなりました。
ラスキンは、これに対し、自然を忠実に観察し、描いていると主張し、ターナーの革新的な自然表現を評価しました。

ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー《カレの砂浜―引き潮時の餌採り》1830年、ベリ美術館
© Bury Art Museum, Greater Manchester,UK

ラスキンは美術評論だけにとどまらず、自らも水彩画を手がけ、中世建築物の彫刻装飾や、植物、岩などの自然を素描していました。

第2章 ラファエル前派

1848年秋に前衛芸術家集団「ラファエル前派同盟」を7人の学生が結成し、新しい美術革新がなされました。
その中心となるダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイは、のちに英国美術に多大な貢献をしました。
彼らは、盛期ルネサンスの偉大な画家ラファエロ以降の絵画表現を理想とする芸術家養成機関ロイヤル・アカデミーの保守的すぎる伝統を打ち破り、あえて、「ラファエル前派」と銘打って、ラファエロ以前の絵画様式に回帰しようと試みました。
ラスキンは彼らの試みを高く評価し、『タイムズ』に発表し、やがて彼らとの交流も始まりました。
美しい女性を主題にしたものがロセッティの作品には多く見られます。
アルフォンス・ミュシャとも通じるものがあるようです。
ロセッティは、独自の世界観で、精神的な美の象徴として女性像を描き、彼を中心とするラファエル前派主義のグループは次第に「芸術のための芸術」を信条とする唯美主義へと向かいます。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《シビュラ・パルミフェラ》1865-70年頃、リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー
© National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery, Port Sunlight ©photo by cinefil

この作品に描かれている女性は、大理石の玉座に座り、壮麗赤い外衣を身にまとい、頭と肩に絹の帯を巻き付けています。
彼女は古代の預言者で、勝利のシュロを手にしています。
ロセッティは、男性の意識と想像力は美に支配されているという思想を喚起しようとしました。
左側の薔薇が飾られ目隠しをされたクピド(キューピッド)は愛を象徴し、右側のケシの花を載せた人間の骸骨は死を暗示しています。
女性の周りには、魂の象徴である蝶が舞っています。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ムネーモシューネー(記憶の女神)》、1876-81年、デラウェア美術館
© Delaware Art Museum, Samuel and Mary R. Bancroft Memorial, 1935 ©photo by cinefil

ムネーモシューネーはギリシャ神話の記憶の女神です。
描かれているパンジーの花は記憶の暗示で、右手に持っている容器には飲むと過去の記憶を完全に思い出せる水が入っているのです。
額縁には画家の手で「ああ記憶の女神よ、汝は翼生える魂の盃から油を灯りに満たし、炎の翼でゴールを目指す」という詩が刻まれています。
ムネーモシューネーは9人のミューズの母でしたが、それは、9日間ゼウスと夜を共にした結果だったのです。

ジョン・エヴァレット・ミレイ《滝》1853年、デラウェア美術館
© Delaware Art Museum, Samuel and Mary R. Bancroft Memorial, 1935 ©photo by cinefil

「自然に忠実であれ」というラスキンの思想どおり、ミレイは、見事に川辺を自然のまま写実的に描いています。
岩の質感や水のうねりが見事に描写され、、流れる音が聞こえてきそうです。
モデルとなっている女性は、ラスキン夫人で、ミレイは「今までにこんなに素敵な女性を見たことがない」と語っているように、ラスキンの妻であったエフィーに恋をして、1855年に結婚します。
ラファエル前派同盟は、1848年の結成からわずか5年で解散し、1860年代にはそれぞれの新しい表現形式を模索し始めます。

第3章 ラファエル前派周縁

1850年以降は、自然に忠実に描くというラスキンの影響は「ラファエル前派」のみならず、
ウィリアム・ダイスや、ウィリアム・ヘンリー・ハント、フレデリック・レイトンなどの同時代の画家の様々な作品に見られるようになりました。
また、ラスキンは細部にまでこだわって絵画や素描を描くように若手画家に勧める「素描の基礎」(1857年)を著しました。

.ウィリアム・ヘンリー・ハント《ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣》1840年頃、ベリ美術館
© Bury Art Museum, Greater Manchester, UK

「鳥の巣ハント」としても知られる作者は、その名の通り鳥の巣を主題とした作品を多く描き、その自然の精密な描写を評価されました。
鮮やかな青色の卵や、淡いピンクの可憐な薔薇、散らばった多種のイチゴの写実性は完璧で、色調や配置も美しく描かれています。

フレデリック・レイトン《母と子(サクランボ)》1864-65年頃、ブラックバーン美術館
© Blackburn Museum and Art Gallery

くつろいだ様子で寝そべる母とその唇に赤く艶やかなサクランボを差し出す幼い娘が描かれています。
花瓶に入れられた百合の花や、屏風、ペルシャ絨毯など、豪華で装飾性豊かな作品です。
女性の衣服の柔らかな表現は画家が古代彫刻の研究の成果が表れています。

第4章 エドワード・バーン・ジョーンズ

エドワード・バーン・ジョーンズ(1833-1898)、は、「ラファエル前派同盟」や、ラスキンの芸術論に影響を受け、1855年、大学を辞めて、芸術の道に進むことを決め、ロセッティに弟子入りしました。
師や親友ウィリアㇺ・モリス(1834-1896)らとともに、トマス・マロリー著『アーサー王の死』を主題とする壁画を描きました。
また、ラスキンからの助言で、イタリアに赴き、巨匠ミケランジェロのシスティ―ナ礼拝堂の天井画から独学で学びました。

エドワード・バーン=ジョーンズ《慈悲深き騎士》1863年、バーミンガム市美術博物館
© Birmingham Museum Trust on behalf ofBirmingham City Council            

バーン=ジョーンズの傑作であるこの作品はキリスト教の騎士道精神をテーマにしていて、ディグビー署「騎士道の誉」(1822年刊)に由来します。
兄弟の仇を討とうとした騎士が、命乞いした相手を赦した物語です。
そしてその行為を讃えるかのように、キリストの彫像が騎士に接吻した様子が描かれています。
ロセッティの《廃墟の礼拝堂のガラハッド卿》を参考にしたようです。

第5章 ウィリアム・モリスと装飾芸術

ウィリアム・モリスとバーン=ジョーンズはオクスフォード大学で出会い、共に大学を断念し、芸術の道に進み、生涯の友となり、多くの作品を共同で手掛けます。
詩人としても評価を得たモリスですが、1861年には、家具、ステンドグラス、陶製タイル、壁紙などあらゆる種類の装飾芸術を扱う会社、「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を設立します。(1875年にモリス商会となる)
ラスキンからモリスに受け継がれた手仕事を大切にする考え方は、のちの「アーツアンドクラフツ運動」として発展していきました。

モリス商会《イチゴ泥棒》1883年、タリー・ハウス美術館
© Tullie House Museum and Art Gallery, Carlisle, UK

ラスキンと若き画学生たちの情熱により美術革新がなされ、19世紀英国芸術が花開きました。
あべのハルカス美術館 「ラファエル前派の軌跡展」で、是非、この感動を実感してください。

展覧会概要

展覧会名:ラファエル前派の軌跡展 ターナー、ラスキンからロセッティ、バーン=ジョーンズ、モリスまで
開催期間: 2019年10月5日(土)~ 12月15日(日)
会場: あべのハルカス美術館 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16F 
休館日: 10月21日(月)、10月28日(月)
入館料: 一般 1,500円(1,300円) 大高生1,100円(900円) 中小生 500円(300円)   ( )内は団体料金 

主催:あべのハルカス美術館、産経新聞社、関西テレビ放送

企画協力:インディペンデント、アルティス

後援:ブリティッシュ・カウンシル

関連イベント

謎解きキット「リアル謎解きゲーム ある展覧会の奇妙な秘密」
作品をきっかけに謎を解きながらストーリーを進めていく新しい鑑賞体験。
クリア後はプレゼントがもらえるかも。
販売場所:あべのハルカス美術館 チケットカウンター
販売価格:1,000円(税込)謎制作:クロネコキューブ 
※謎解きには、別途本展観覧券が必要です。

ギャラリー・ツアー
開 催:10月30日(水)、11月13日(水) 
時 間:各日18:30~(約30分)
講 師:当館学芸員 
会 場:展示室 
参加方法 ※聴講は無料ですが、別途本展観覧券が必要となります。
お問い合わせ先TEL:06-4399-9050 (あべのハルカス美術館)

「ラファエル前派の軌跡展」@大阪 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、「ラファエル前派の軌跡展」@大阪cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2019年11月4日(月・祝)24:00

1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
5、記事を読んでみたい監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、
  5つ以上ご記入下さい(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるものの、筆者名か連載タイトルを、3つ以上ご記入下さい
 (複数回答可)
9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
   また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。