今年もぴあフィルムフェスティバル(以後、PFF)が9月7日(土)より開幕中です。
PFFは、“映画の新しい才能の発見と育成”をテーマに1977年よりはじまった映画祭で、今年で第41回目。メインプログラムは、120名を超えるプロの映画監督を輩出している自主映画のコンペティション「PFFアワード」ですが、入選作品は海外の映画祭で上映されたり、単独で劇場公開される機会も増えて来て、ますます注目が高まっています。今回は、そんなPFFの魅力をさらに深めるため、PFFに関わる人たちから多角的にお話を聞くという短期間の連載企画をスタート。

連載ラスト、第3回目の対談は、以前、PFFのアワード作品の審査も行ったこともある、グラフィックデザイナーの大島依提亜さんと、2017年のアワードで観客賞を受賞し、ベルリン国際映画祭でも上映された『あみこ』を監督した山中瑶子さん。
映画との出会いや楽しみ方、今まで観てきた作品やルーツに在る作品などについてお話いただきました。聞き手は、PFFディレクターの荒木啓子さんです。

◆誤解を恐れずに言うと、全然「今っぽくない」って思いました

左より×山中瑶子監督、大島依提亜さん(グラフィックデザイナー)

大島依提亜(以下、大島):山中さんの作品を拝見させて頂いて、すごく映画を観られてそうな感じがビシビシと感じました。

山中瑶子
(以下、山中):いやー、最近はあまり観れていないんです。本末転倒な感じになってきて、辛いですね。映画が観たいです(笑)。

大島:全く同じです(笑)。映画が好きでこの仕事をはじめたのに、映画があまり観れない状況になってきてしまっていて…。

荒木啓子(以下、荒木):『あみこ』(18)はいかがでしたか?

大島:面白かったです。誤解を恐れずに言うと、全然「今っぽくない」って思いました。観たあとにインタビューを拝見して、ハル・ハートリー監督が好きだと知って、「ああ」と腑に落ちたんです。今の若い人たちの映画って、意識していなくても何らかの現代性を帯びる感じがするんですけど、頑なにその現代性を拒んでるように僕には見えました。

山中:古い映画が好きでよく観ていたので、あんまり今っぽいものとか、これまでにない撮り方をしたいっていう欲求は無い方かもしれないです。でも不思議とハル・ハートリー監督の作品はスタイリッシュな気がします。

大島:ハル・ハートリー監督の映画を観たきっかけは何だったんですか?

荒木:好きすぎて会いにも行ったんだよね(笑)。

山中:はい、ニューヨークに(笑)。高校2年生の時にDVDが販売されて、そのデザインがイケていたので、ジャケ借りをしたのがきっかけです。

大島:僕もすごく前に『シンプルメン』(92)や、『トラスト・ミー』(93)とかを観ていたんですけど、その時はあまり響かなかったんです。でも今回、この対談があったので改めて観返したんですけど、めちゃめちゃ傑作でしたね。その時フィットしなかったのになぜ今になって面白くなったのか、その理由があまりよくわからないんですけど(笑)。

山中:最初に観たのはいつ頃だったんですか?

大島:たぶんリアルタイムではないと思うので、リバイバル上映の時だったと思います。その頃は(ジャン=リュック・)ゴダール監督が好きだったので、多分「このエモさはちょっとウザい」って思っていたんですかね(笑)。山中さんは一番はじめに『アンビリーバブル・トゥルース』(89)を観られたんですよね?それはなかなか幸福な出会いだったと思います。

山中:確かに、全部観たあとだと、『アンビリーバブル・トゥルース』から入ってよかったなと思います。当時『シンプルメン』から手に取っていたら、ハートリー作品はしばらくそれっきりだったかもしれない(笑)。

大島:第一作目はストーリーがちゃんと前衛性と共存していて、その塩梅がすごく良いんですよね。

◆監督ごとに作家性があるんだということに気付かせてもらえました

山中瑶子監督

山中:私、映画を作りたいと思ったきっかけの作品が、(アレハンドロ・)ホドロフスキー監督の『ホーリー・マウンテン』(88)なんですけど、大学のAO入試の時に『リアリティのダンス』(14)が東京で上映していたので観に行ったんです。その後調べたら、大島さんがポスターのデザインを担当されていたんですよね!

大島:豪華版のBlu-ray Boxもデザインしたんですよ。

山中・荒木:えー!すごい!

大島:僕も同じく、高校生の時にミニシアターでホドロフスキー監督の『ホーリー・マウンテン』とか『エル・トポ』(87)とかを観ていたんです。ああいう作品を高校生くらいの時に触れると、まあ青春が歪みますよね(笑)。

山中:ですよね(笑)。

大島:その後、ホドロフスキー作品のデザインを担当するとは思いませんでしたし、ご本人にもお会いできるなんて・・!

荒木:ご本人とお会いして、どうでしたか?

大島:すごい長旅だったようなので、少しお疲れのご様子でしたが、疲れていたとはいえ、レセプションでのスピーチは本当に凄かったです。話始めるともうカルトですよ(笑)。話術がすごいので、全然興味無い人でもどんどん惹き込まれちゃうんです。

荒木:でも私は、こういう映画を知らないで高校時代をおくる人の方が、不幸だと思いますけどね(笑)。

大島:(山中さんは)ホドロフスキー作品をいつ観たんですか?

山中:高校2年です。高校2年から本格的に映画を観始めたので。

大島:山中さんの周りで、誰か映画がお好きな方がいたんですか?今は映画がありすぎて、選べる時代だから、いきなりホドロフスキー監督の作品に行き当たることはない思うんですよね(笑)。

山中:小学生から絵画教室に通っていて、描くことは次第に好きではなくなっていったのですが得意ではあったので、高校の授業で美術の授業を選択していたんです。その時の美術の先生に、多分色々見抜かれていて「これを観た方がいい」って言われて教えてもらいました。

大島:なるほど・・・!

山中:私物のVHSを貸してくれたんです。

大島:それが『ホーリー・マウンテン』だったんですか?

山中:そうですね。(VHS)を返す時に「どうだったか?」って聞かれたので「変なものを観ました」って言いました(笑)。

大島:じゃあその時に『ホーリー・マウンテン』を観て、「人生変わった!」みたいな感じではなかったんですか?

山中:いや、変わりました(笑)。巧妙に感想を引き出されていたら、「じゃあ次はこれね」という風に他の作品も貸してくれるようになったんです。

荒木:課題のように(笑)。でも、そういう人が居ないと映画と出会えない時代になっているんですかね。

大島:だと思いますね。あまりにも並列に並びすぎちゃっていて。あと危ないなと思っているのが、パッケージも少なくなってきていて、どんどん配信になってきているんです。誰かに作品を観てほしい時に、「じゃあこれ観てみなよ」ってソフトで渡せないっていうのが、大変な時代になってきちゃったなって。

荒木:テレビ放映も無くなってきているから、偶然に観る機会も無くなってきていますもんね。

大島:山中さんは、その後もその美術の先生が進めてくれた作品を観ていたんですか?

山中:その次に貸してくれた作品がピーター・グリーナウェイ監督の『ZOO』(87)だったんです。

大島:すごいですね(笑)。

山中:そこからはだんだん普通の映画になっていくんですよ。ハードな作品から貸してくれたので、みるみる映画への価値観が変わって、本当に色々な映画があるんだなっていうことと、監督ごとに作家性があるんだということに気付かせてもらえました。

◆すごくつまらなかったっていう経験はある意味贅沢じゃないですか?

大島依提亜さん(グラフィックデザイナー)

大島:最近のおすすめで、『キャビン』(13)という作品を撮っているドリュー・ゴダード監督の新作で、『ホテル・エルロワイヤル』(18)という作品があって。これがめちゃめちゃ傑作なんですけど、劇場未公開作品で、最初は配信で観たのですが、後にソフト化されたので、周りに貸し出す啓蒙活動にDVD、Blu-rayを共に買いました(笑)。

荒木:やっぱりすごい映画を観てるね(笑)。

大島:いやいや、たまたまです。でも、そういう映画との出会いというのが、すごく難しくなってしまってきていると思います。

荒木:自分しか知らない映画を、どうやって人に伝えるかというのも結構難しいですよね。

大島:配信のみでもギフトでリンクを相手に送ったりできるようであれば、こっちでお金払うから観てほしいんですよ(笑)。そうでもしないとなかなか観てもらえないので・・・。
劇場公開の作品でおすすめして観にいく人は、もうそこでリテラシーがあるから、劇場に観に行くんですけど、本当に観にいかない人は全然観にいかないですからね。

山中:自分自身が豊かになるためにお金を払う、ということを考えられなくなってきているかもしれませんね。

大島:あとは、「豊かになる」って言っちゃうから良くないのかもしれません。お金を払って観て、すごくつまらなかったっていう経験はある意味贅沢じゃないですか?

山中:そうですね。

大島:ギャンブルじゃないですけど、そういう失敗こそ、お金の無駄遣いの豊かさがあると思います。観るのを盛大に失敗したっていう経験って、気持ちいいじゃないですか。

◆どこかこの映画と繋がっている気がするんですよ

山中:映画を観始めて3年目くらいに『あみこ』を撮ったんですけど、当時は何も知らないということに臆することなく、撮りたいものを意識せずに撮れちゃってました。撮りたいものをすごく意識して撮ろうとすると、それ以降はうまくいかないことが増えましたね。今がすごくスタート地点だなと思います。

大島:ハル・ハートリー監督の最初の3部作って、キャストもかなりかぶっているし、ストーリーの関連は無いのに同じようなシーンもすごくいっぱいありますよね。だから、前作と同じようなモチーフを使っちゃってもいいんじゃないですかね。次はまた全然違う作品というのもすごくスリリングですけど、デビュー作からいきなりトリロジー形式になっているのも素敵な気がします。その話につながるかどうかわからないのですが、最近、観る映画観る映画が全部シンクロしているように思えてきていて。その中に『あみこ』も含まれているんです。今、『エイス・グレード世界でいちばんクールな私へ』(19)という作品映画を担当しているんですけど、それがめちゃめちゃ傑作で。

荒木:予告編観ました。爆発的ヒットしたって作品ですよね。

大島:その作品にも『あみこ』との共通する部分があるんですよ。背景や物語を超えて。

山中:えー面白いですね。

大島:でも『エイス・グレード』は撮り方とかはとても現代的です。今日的な題材を扱っていて。『あみこ』は、さきほど言ったように現代性から距離を置いているようみえるのだけど、どこかこの映画と繋がっている気がするんですよ。完全なこちらの勝手な解釈ですが。

荒木:古来から在る、人間に訴えるような物語みたいなものがありますよね。

大島:時代に迎合していないけど、同時代の映画と呼応しているところもあって。

◆意思あるプログラムの組み合わせを毎年期待しているんです

荒木:山中さんがPFFに入選した時に、あの会場で観れてよかった作品とかのお話をお聞きしたいですね。

山中:一番は、『あみこ』の併映作品が『わたしたちの家』だったことですね。よくこの2本立てにしたな、組み合わせが意地悪だなって思いました(笑)。でもそういう、意思あるプログラムの組み合わせを毎年期待しているんです。どんな映画も一つ一つ違う顔をいていてこんなにも似てないんだよ、そしてそれが素晴らしいことなんだと。

大島:他のラインナップも、入選者の人に観てもらいたいっていう想いがあるんですよね?

荒木:招待作品部門は入選者のために設けていますからね。劇場より安く映画をスクリーンで観ることができて、ゲストトークを聞くことができるのも、今作っているひとたちに、思わぬ出会いをしてほしいっていう意図を、必ず設けているんです。

山中:去年は諏訪敦彦監督の『2/デュオ』(97)をスクリーンで観た後に、ゲストトークで聞き手として諏訪監督にお話を伺うことができました。今年は「巨匠たちのファーストステップ」という企画が気になります。

荒木:こうやって並ぶと、大物の風格というか、これが初監督ですか?っていう作品が結構ありますよね。ライアン・クーグラー監督もその後の作品と全然違いますし。

山中:『変態村』(06)もラインナップされてて驚きました。

荒木:変な映画だけど、とっても真面目なデビュー作なんですよ。まずこういう企画が通るってこと自体が、素晴らしいですよね。あと、セルジオ・コルブッチ監督作品も観た方がいいし、『真夏の夜のジャズ』(60)はもう上映権切れてるので、これを逃すと観れないと思います。

大島:実は僕、過去にPFFアワードの一次&二次審査もやってたんですよ。推していたんですけど、入選しなかった『ホルマリン・カージャック』っていう、今でも名前を覚えているほど忘れられない作品があって。その作品の中で、『あみこ』でも引用されていたトム・ヨークの曲を使っていて、すごくかっこよかったんです。

荒木:自主映画って、自分の好きな音楽をバンバン使って誰にもどこにも気にせずにやりたいことがやれる、というのが魅力だったんですよね。特に最初の8mmの時代は。

profile

大島依提亜(おおしま・いであ)
栃木県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。主な仕事に、映画『パターソン』『サスペリア』『万引き家族』、美術展「谷川俊太郎展」「ムーミン展 The Arts and Stories」など。

山中瑶子(やまなか・ようこ)
1997生まれ。日本大学芸術学部映画学科を休学中に制作した『あみこ』がPFFアワード2017で観客賞を受賞し、ベルリン国際映画祭、香港国際映画祭、ファンタジア国際映画祭など多数の海外映画祭に出品された。最新作はオムニバス映画「21世紀の女の子」の短編『回転てん子とどりーむ母ちゃん』。

荒木啓子(あらき・けいこ)
1990年PFFに参加。1992年PFF初の総合ディレクターに就任。以来、PFFアワード入選作品やPFFスカラシップ作品を中心に、日本の「自主映画」文化を国内外に紹介する活動を続けている。

第41回ぴあフィルムフェスティバル
開催期間:9月7日(土)~21日(土) ※月曜休館
会場:国立映画アーカイブ

photo:山越めぐみ
text:矢部紗耶香
space:BAR CUT