前橋と東京を舞台に7人の若者の挫折と成長を描く、藤井道人監督の青春群像劇『青の帰り道』。
第1回新潟シネ・ウインド、第2回刈谷日劇に続き、地方上映特別連載の最終回となる今回は、メインロケ地となった群馬県前橋市の、前橋シネマハウス。

前橋シネマハウスの日沼支配人に『青の帰り道』の初公開から再上映まで振り返っていただきながら、「劇場公認アンバサダー」が手作りで制作し、来場者に配布されたロケ地マップを公開します。

前橋市は2016年、2017年と2度に渡り撮影に協力。2018年、2019年と映画が完成した後も、様々な形で『青の帰り道』を支えました。

前橋シネマハウスの「劇場公認アンバサダー」となった、群馬出身の吉井栄里佳さんと石川美香さん。二人は「《人を救える》この映画が、地元で生まれたことが嬉しい。多くの人に知ってもらいたい」と、ロケ地マップを制作。トークショーにも立ち、上毛新聞や毎日新聞の取材を受けたり、SNSで発信し続けました。

■#3群馬
群馬・前橋シネマハウス/日沼大樹 支配人

左から石川さん、原案・岡本麻里さん、吉井さん、日沼支配人(全員、群馬出身)

■前橋シネマハウス1周年を迎えて

2018年3月に映画館を始めて1年半が経ちますが、映画の持つ力には驚かされてばかりです。その時代の文化、時代背景、人々の思想を反映し、映像の資料として多くの人たちの心を動かしていると感じます。それを強く感じた作品の一つが『青の帰り道』。

今年3月に前橋シネマハウスは1周年を迎えました。
群馬県の県庁所在地で、私の生まれた前橋市の街なかの映画館。
昔はいくつも映画館があり賑わっていた商店街も、今は少し寂しく感じるようになりました。
そんな商店街の端にある映画館の1周年記念で上映したのが『青の帰り道』でした。

■映画の力と熱い想い

1周年記念上映の2週間はあっという間に過ぎ、多くの反響とお客様を劇場に連れてきてくれました。ただ驚かされたのは、その後の反響でした。
普段から、人気のある作品にはいくつか問合せがあります。そのほとんどが「もう終わってしまったのですか?」という内容です。

しかし「青の帰り道」上映後の問合せはまったく内容が違いました。
まずとにかく連絡してくださる方々の想いが熱いのです。

「上映が終わりましたか?」ではありません。
「次はいつ上映ですか?」
「再上映してくれませんか?」
「どこに連絡すれば私の地元で上映できますか?」
「DVDの発売してくれませんか?」
といった、今まで聞いたことのない内容ばかりでした。

そして映画に対する熱い想いを語り始める方も少なくはありません。

それぞれが、この作品を多くの人たちに届けたいという想いだったのでしょう。

■再上映の決定

上映後の劇場への反響と共に全国で『青の帰り道』の再上映が開始され、盛り上がりが伝わるようになりました。そして、あまりにも多くの反響と同時に私を悩ませたのが再上映を求める声でした。

シネマハウスは、ほぼ1スクリーンで上映しており、1作品2週間~3週間でスケジュールを組むのがほとんどです。多くの上映したい作品が渋滞する中、なかなか再上映で2回同じ作品を上映するのは難しい決断でした。

それはお客様が入る、入らないではなく、“他では観られない多くの素晴らしい作品を提供する”というミニシアターの使命に逆行する形になるのではという心配です。

しかしあまりにも多くの方の熱い想いに心を動かされ8月、再上映することにしました。おそらくお客様からの要望に応えて再上映する作品はもう無いでしょう。

■再上映準備から初日トークショーまで

再上映が決まり、真っ先に上映のお手伝いに手を挙げていた『青の帰り道』劇場公認アンバサダーの吉井栄里佳さんがロケ地マップを作ってくださいました。
普段、撮影マップなどは上映の宣伝用でいただくか、前橋の撮影であればフィルムコミッションが作っているものをいただいています。

まさかファンの方がお客様のために作ってくださるとは思ってもみなかったですし、そこまで協力していただいて良いのかと迷いましたが、シネマハウスのような劇場は、地元の方や応援してくださる方々の支えで成り立っています。せっかくなら応援してくださる方とできるところまでやってみようと、協力していただくことにしました。

吉井さんに加わり、石川美香さんも、映画製作年表、商店街マップ、当日のアクセスマップの作成、作品ブースの劇場設置など、様々な協力をしてくれました。

「青の帰り道 ロケ地マップ」劇場来場者に配布(制作:吉井栄里佳さん)

「青の帰り道 商店街マップ」劇場に展示(制作:石川美香さん)

極めつけは、吉井さんと石川さんに、再上映の初日トークショーに急遽登壇していただいたことです。

当初は私と、原案の岡本麻里さんでトークショーを考えていました。
しかし上映1時間前にお二人と話す中で、こんな大変な思いをしてまで二人を突き動かす本作への熱い想いを、そのまま岡本さんと共にお客様に伝えた方が共感してもらえるのではないかと思い提案しました。

自分で提案していて大丈夫か?と思いながらも、この想いを飾らない言葉で話すことが一番良いトークショーになると判断しました。お二人ともびっくりしたでしょうが、最終的には快く引き受けてくださり、素晴らしいトークショーになりました。

私が初めに挨拶をしたときには軽く涙ぐんでいたお客様が、トークショーの最後に、お礼をさせていただいたときには号泣していたのが印象的でした。

■再上映初日トークショー

岡本さんは大切な友人を自殺で失い、自身も行き詰まり苦しんでいた時に「あなた、何かあったらここで働けばいいじゃない」という居酒屋の女将の言葉をきっかけに考えが変わったと言います。
「そっか、ここで生きれるのか。生きる道って他にもあったんだ」

友人を救えなかった悔しさに突き動かされ、一人でも大切な命を救いたい。そのために「生きる道は、ひとつじゃない」と人に伝えたいと思うようになり、映画の力が必要だと、伊藤主税プロデューサーにプレゼンしました。

◆岡本さん
「私が気付いたことを発信しないといけない。きっと彼女みたいに悩んで死にたいと思っている人はいるけれど、私がこれを発信することで絶対に誰かの命が救える。人気のある俳優さんだったり、しっかりストーリーにして広めることができれば、絶対に誰かの命を救える。

最初は映画を作るなんて無理だと思ったんです。でも映画って人間が作っているものだし、とりあえず進んでみよう。実現すれば、絶対誰か一人の人生が変わる。そのために、やりましたね」

◆石川さん
「私は岡本さんの”生きる道は、ひとつじゃない”に感銘を受けて。私も、自ら命を絶ってしまった「彼女」にそう言ってあげられたら良かったと、ずっと後悔していました。そのメッセージを込めたこの映画は《人を救える映画》だと思います。これを地元の前橋で作っているっていうのがすごく嬉しくて。

前橋、群馬県で命を絶とうと思っている子を一人でも救えたらと思って、この映画館で再上映していただけないかと、日沼さんにお手紙を書きました」

◆吉井さん
「皆さんに見ていただいたこのロケ地マップは、実は前橋市内や伊勢崎市などの色々な方のおかげで、今ここに形として残っています。決して私の一人の力ではできませんでした。

群馬でこういった映画に出会えるってすごく貴重なことだと思ったので、私も声をあげたいと思って。新潟の方でも応援団の素晴らしい活動があったので、私自身もその意思を受け継いだ意味もありました。その原動力をくれたのは岡本さんや、この映画でした」

▼8/10(土)初日トークショーアーカイブURL
https://www.instagram.com/tv/B1BXZsfhMrT/

前橋花火大会も行われた当日、アンバサダーの二人は浴衣を着ていた

■映画で気づかされた地元前橋の良さ

地元群馬、前橋で多くの撮影がされた作品なので、来場者の方もマップを手にもってロケ地に足を運んでくれたようです。映画と一緒に群馬、前橋の良さを感じて欲しいと思っている私にとっては理想的な取組みでした。

冒頭で寂しくなったといった商店街も『青の帰り道』を観て足を運ぶと、都会のような賑わいがなくても良いではないか。

これはこれで味があって必要とされている場所なのだと改めて感じる良い機会にもなりました。映画とマッチした素晴らしい出会いでした。

■新聞取材

ファン主体の手作りマップが話題になり、吉井さんと石川さんが新聞取材を受けた

▽上毛新聞(2019/8/21朝刊)
‪ロケ地巡りにどうぞ 前橋で撮影の映画「青の帰り道」応援マップ制作‪
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/154041

‪▽毎日新聞(2019/8/22朝刊 群馬面)‪
「青の帰り道」悩める主人公の撮影場所はどこファンがそっと教えます
https://mainichi.jp/articles/20190821/k00/00m/040/129000c

■前橋シネマハウス

赤城山と笑顔をモチーフにしたロゴマークの映画館。
2018年3月、中心市街地にある市の複合施設「前橋プラザ元気21」内に開設された。
シネコンやネット配信が主流を占めつつある中、地域の人が同じ空気を共有する家のような空間、新たな文化の拠点を目指す。公開から一定の期間を経た作品や名画、教育映画など商業ベースに乗りにくい作品を中心に上映する「コミュニティシネマ」として運営していく。

〒371-0022前橋市千代田町5-1-16 アーツ前橋上(3F)
https://maecine.com/

映画『青の帰り道』DVD・Blu-ray発売中!

映画「青の帰り道」予告編/2018年12月7日(金)全国ロードショー

youtu.be

映画『青の帰り道』

出演:真野恵里菜 清水くるみ 横浜流星 森永悠希 戸塚純貴 秋月三佳 冨田佳輔 
山中崇 淵上泰史/嶋田久作
工藤夕貴 平田満
主題歌:amazarashi『たられば』

監督:藤井道人
原案:おかもとまり 脚本:藤井道人/アベラヒデノブ
制作プロダクション:and pictures
制作協力:BABEL LABEL/プラスディー
配給:NexTone  配給協力:ティ・ジョイ
再上映配給:BABEL LABEL/ボタパカ/and pictures

ディスク発売元:CURIOUSCOPE
ディスク販売元:オデッサ・エンタテインメント

©映画「青の帰り道」製作委員会