ここ数年、若手映画人の作品を見る機会が多く、しかも完成度の高いことに嬉しい驚きを覚えている。昨年、一大センセーションを巻き起こした「カメラを止めるな」製作チームの新作「イソップの思うツボ」しかり、東京藝大出身の西川達郎監督の「向こうの家」しかし、そしてこの「メランコリック」も予想を上回る面白さに満足満足と思った。

 「バイトを始めた銭湯は、深夜に風呂場で人を殺していた——。」という惹句なので、殺人風呂屋の話かと思ったが、そんな単純なものではなく、一捻りしたストーリー構成とユーモア感覚の光る描写、登場人物の際立ったキャラクターの面白さ、個性派ぞろいの俳優のアンサンブル演技が素晴らしい。

 東大出身なのに大企業に就職せず、30歳になってもアルバイトしかしてこなかった鯨岡和彦。高校の同窓会に行っても影が薄い存在だ。銭湯・松の湯の求人広告を見て面接をうけ、金髪のちゃら男松本とともに即採用される。先輩の関根は無愛想でとっつきにくいが、店主の東は人当たりがよく働きやすそうだ。高校の同級生だった百合とのデートの帰り、深夜なのに松の湯に灯がともっていたので、何なんだろうと覗いたら、死体が洗い場に横たわっていた。見られたことに気づいた東に、洗い場から血を洗い流す掃除を命じられる。口止め料に多額の金をもらってにやついていたら、松本もやっていると知って嫉妬の表情を見せる。

 東はやくざの田中に多額の借金があり、やっかいな死体処理を押し付けられていたのだ。しかも、松本は関根と同じ殺し屋で、二人して田中の命じるターゲットを淡々と始末していく。根暗な和彦と破天荒な松本の会話がおかしい。まだ正体がばれてない時に、松本が誘拐を外回りの仕事とごまかすシーンには噴き出した。闇の仕事を手伝うようになってから、松本に「こんな仕事してて、実家に住んでたり、新しく女を作ったりなんて、まずありえないっすからね」と怒鳴られる。腕利きの殺し屋なのに年上の和彦を立てて、怒鳴っておいて丁寧語でしめるところも良い。
 田中の要求はエスカレートしていき、そこからはあれよあれよという展開を見せ、心なごむラストを迎えることに。多少、人物がキャラクターにそぐわぬ行動をとる箇所があるものの、瑕瑾といってよく、一言でいえばよくできた犯罪ドラマ・コメディであった。

和彦を演じた皆川暢二、アメリカで映画製作を学びIT業界で働いていた田中征爾、俳優の傍らタクティカル・アーツ・ディレクターをしている磯崎義知という同い年三人で立ち上げたOne Goose(ワングース)による第一回作品にあたる。

田中が監督、脚本、編集を担当し、磯崎が松本を演じている。百合に吉田芽吹、東に羽田真、田中に矢田政伸、田中の愛人アンジェラにステファニー・アリエンが扮し、いずれも着実な演技を見せている。劇場公開は今年だが、昨年の東京国際映画祭で上映され、日本映画スプラッシュ部門の監督賞を受賞している。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

映画『メランコリック』予告編

映画『メランコリック』予告編

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STORY

バイトを始めた銭湯は、深夜に風呂場で人を殺していた――!?

名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・
和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・
百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。
そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「
人を殺す場所」として貸し出していることを知る。
そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかになり…。

監督・脚本・編集:田中征爾

出演:皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹、羽田真 、矢田政伸 、浜谷康幸、ステファニー・アリエン、大久保裕太、山下ケイジ、
新海ひろ子、蒲池貴範 他

撮影:髙橋亮
助監督:蒲池貴範
録音:宋晋瑞、でまちさき、衛藤なな
特殊メイク:新田目珠里麻
TAディレクター:磯崎義知
キャスティング協力:EIJI LEON LEE
スチール撮影:タカハシアキラ

製作:OneGoose
製作補助:羽賀奈美、林彬、汐谷恭一
プロデューサー:皆川暢二

宣伝:近藤吉孝(One Goose) ポスターデザイン:五十嵐明奈
後援:VーNECK、松の湯
宣伝協力:アップリンク

配給:アップリンク、神宮前プロデュース、One Goose

(2018年/カラー/日本/DCP/シネスコ/114分)

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