2019年9月1日(日)13:30からのマチネで、国指定重要文化財である大阪市中央公会堂の大集会室を会場に、マシュー・バーニー&ジョナサン・べプラーによる6時間の映像オペラ『RIVER OF FUNDAMENT』(2014)が、4Kの高画質DCPプロジェクターを使用した日本初上映がされることとなりました。

Matthew Barney and Jonathan Bepler RIVER OF FUNDAMENT: REN, 2014 Production Still Photo: Chris Winget
© Matthew Barney, Courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels.

2019年初の上映は、作家が望みつづけた環境 

米国のアーティスト、マシュー・バーニー。

伝説的フィルム作品『クレマスター』サイクルは、全5部作の完結より17年を経た今なお、再映を望む声がある。そのシリーズで音楽を担当したジョナサン・べプラーと、またもやコラボした映像によるオペラ作品をマシュー・バーニー本人が望みつづけたプロセニアム形式の劇場で1度限りのマチネ上映となります。

彼が制作・監督・出演したフィルム作品シリーズ『クレマスター』サイクル(1994-2002)は、全5部作が完成するまで上映の機会が厳しく制限されていました。
1都市につき2作品までの上映で、その上映も各作1回に限るという基本方針。そんな噂が広がり、鑑賞をめぐる個々人のエピソードが、都市伝説のごとく拡散していたのです。

そんな伝説的シリーズの完成直後、映画館としては世界で初めて一挙公開したのが、東京・渋谷のシネマライズ(2016年に閉館)になります。マシュー・バーニー『クレマスター』フィルム・サイクルと作家が自ら命名した上映会で、キュレーターの清水敏男とトモ・スズキ・ジャパン代表の鈴木朋幸が企画。1日7時間に渡る全5作のノンストップ上映を7日間もつづけた同企画の初日が、折しも9月1日でした。

それから丸17年を経て、ふたたび9月1日に日本公開されるマシュー・バーニー作品が『RIVER OF FUNDAMENT』となります。

同作も含めた過去のフィルムは、最新のフィルム作品『REDOUBT』(2018)を公開するまで封印したい。マシュー・バーニー本人が、そう明言していました。その最新フィルムは、イェール大学美術館での個展「Matthew Barney: Redoubt」にあわせ、同館の講堂でプレミア上映。以来、米国内では複数の会場で上映されましたが、アメリカ国外では未公開です。『REDOUBT』を未発表な日本では、『RIVER OF FUNDAMENT』の上映も不可なはずでした。

他方、マシュー・バーニーは『RIVER OF FUNDAMENT』をプロセニアム形式のオペラ劇場で上映したい、と長らく望んでいました。プロセニアム形式の劇場とは、プロセニアム・アーチを備えた劇場を指します。プロセニアム・アーチとは、舞台と客席を仕切る額縁(がくぶち)型の構造物です。たいていは、その額縁に緞帳(どんちょう)を取り付けてあります。

つまり、マシュー・バーニーは『RIVER OF FUNDAMENT』各幕の始まりと終わりに、緞帳が開閉するアコースティックな歴史建造物での上映を希望していたのです。

2014年ドイツ・ミュンヘンのハウス・デア・クンストにおける個展「Matthew Barney: River of Fundament」にあわせ、当時、館長をつめていたオクウィ・エンヴェゾー(1963-2019)がバイエルン国立歌劇場で『RIVER OF FUNDAMENT』を特別上映しています。以来、本格的なオペラ劇場で発表することはありませんでした。

そんなアーティストの夢を叶えられるのが、かつてオペラ上演もした大阪市中央公会堂でした。2017年よりその建築を知っていたマシュー・バーニーですが、このたび2019年の夏が上映に最適と判断し、最新作の上映を待たずして、日本での『RIVER OF FUNDAMENT』再映を決めたのです。結果、今年になり全世界で最初にマシュー・バーニーの旧作を上映するのが、大阪市中央公会堂となりました。

大正生まれのオペラハウス大阪市中央公会堂   

大阪市中央公会堂は、ネオ・ルネッサンス様式の歴史的建築物です。岡田信一郎の原案で、辰野金吾と片岡安が実質設計。1913年(大正2年)に着工し、1918年(大正7年)に竣工、2002年(平成14年)にリノベーションを終えました。そんな大正時代に生まれた社交の場にあり、最も広い空間が大集会室となります。通常使用だと1階810席に加え、2階351席の合計1,161席なところ、鑑賞者の観やすさ、聴きやすさを考慮して『RIVER OF FUNDAMENT』の前売券は651席分に留めました。
上映素材は、DCPです。上映にあたり、4Kプロジェクター、7.1chサウンド・システム、新調したスクリーンを外部より持ち込みます。

マシュー・バーニー&ジョナサン・べプラー『RIVER OF FUNDAMENT』は、2017年に日本初公開。山口情報芸術センター(YCAM)での「YCAM爆音映画祭2017」オープニング作品として、40台を超すスピーカーを使って上映されました。
作品本来のサウンド・バランスは変えずに、ボリュームではなく、ゲインを最大限まであげて上映するのが、「YCAM爆音映画祭」です。当時に比べ、今夏の大阪上映はDCPプロジェクターのスペックを4Kに高め、日本語字幕も作り直し、観客が読みやすい表現を目指しました。

Matthew Barney and Jonathan Bepler RIVER OF FUNDAMENT: KHU, 2014 Production Still Photo: Hugo Glendinning
© Matthew Barney, Courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels.

長年のコラボレーター  

『RIVER OF FUNDAMENT』は全3幕からなる構成で、幕間に約20分間の休憩が指定されています。映像と台詞に加え、登場人物による歌でも物語が進行するのが特徴です。劇中歌はすべてジョナサン・べプラー(1959-)が、本作のために創作しました。

ジョナサン・べプラーは、『クレマスター』サイクルでも音楽を担当し、そのサウンドトラックCDをリリースしています。同シリーズより音楽の役割が大きい『RIVER OF FUNDAMENT』では、マシュー・バーニーとジョナサン・べプラーが併記のクレジットが採用されました。

『RIVER OF FUNDAMENT』で、マシュー・バーニーは製作・制作・脚本・監督のほか、出演者でもあります。ノーマン・メイラーの死後、最初に生まれ変わったという設定のノーマン1世。彼を導く魂、KA(カー)の役を演じています。また、オシリス:ジェームズ・リー・バイヤーズ役もマシュー・バーニーです。

全3幕に通して出演するエミー・マランスは、『クレマスター3』(2002)の後半でN.Yのグッゲンハイム美術館を舞台にマシュー・バーニーと対峙した義足のアスリート・モデルになります。

旧作の共演者、ノーマン・メイラー           

『RIVER OF FUNDAMENT』の物語は、ノーマン・メイラー(1923-2007)の小説「Ancient Evenings」(1983)にもとづいています。

ノーマン・メイラーは、ニューヨーク・ブルックリン育ちの作家。
1968年「夜の軍隊」でピューリッツァー賞ノンフィクション部門と全米図書賞の二冠に輝きました。1980年には「死刑執行人の歌 殺人者ゲイリー・ギルモアの物語」で、ピューリッツァー賞フィクション部門も受賞。題材にしたゲイリー・ギルモアは、アメリカの世論が死刑廃止に流れる中、自ら死刑を望んだ殺人犯です。彼の役をマシュー・バーニーが『クレマスター2』(1999)で演じ、ハリー・フーディーニ役のノーマン・メイラーと共演しました。

そんなノーマン・メイラーの死後再生が『RIVER OF FUNDAMENT』の中で描かれています。
第1幕「REN(レン)」では、ノーマン・メイラーの通夜を執り行いました。ブルックリンの自宅を忠実に再現したセットを船上に設え、船をマンハッタンとブルックリンを隔てるイーストリバーに浮かべるパフォーマンスをマシュー・バーニーが行いました。

そこに元プロボクサーのラリー・ホームズ(1949-)、映像作家・詩人のジョナス・メカス(1922-2019)、アーティストのローレンス・ウェイナー(1942-)ら、実際にノーマン・メイラーと親交があった面々が訪れ、物語上の通夜に参列したのです。故ノーマン・メイラーが生き返った役柄のノーマン1世を演じたのは、実子のジョン・バッファロー・メイラー(1978)でした。

第2幕「KHU(クー)」で蘇るノーマン2世の役は、ジャズドラマーのミルフォード・グレイヴス(1941-)。第3幕「BA(バー)」のノーマン3世は、ネイティブアメリカン酋長の俳優・音楽家、デイブ・ボールド・イーグル(1919-)。全編を通じて、新たな生を得るたびに再生したノーマンが歳を取る設定です。

古代エジプト神話「オシリスとイシスの伝説」   

映像オペラ『RIVER OF FUNDAMENT』はノーマン・メイラーの小説「Ancient Evenings」にもとづきますが、メイラーの小説は古代エジプト神話「オシリスとイシスの伝説」を下敷きにしています。したがって、『RIVER OF FUNDAMENT』も「オシリスとイシスの伝説」を軸にストーリーが展開するのです。

「オシリスとイシスの伝説」は、古代エジプトにおける4人きょうだいの権力闘争を描いています。長男のオシリスは、長女のイシスと結婚し、エジプト王のファラオに君臨。次男のセトは次女のネフティスと結婚していますが、妻が兄と浮気したと知り、怒り心頭。そこで、次男が長男を罠にかけます。長男を騙して棺桶に入れ、その棺に蓋をしてしまいます。そして、長男が入った棺をナイル川に流すのです。

その後、次男のセトがエジプト王に即位します。しかし、夫が川に流されたことを知ったイシスは彼を探す旅に出て、地中海のビブロスで宮殿の「ジェド柱」になる棺を発見。エジプトまで持ち帰りますが、弟のセトに気づかれてしまいます。今やファラオのセトはオシリスの遺体を14分割させ、バラバラの遺体をエジプト各地にばら撒くよう命じます。

ふたたび旅に出た長女のイシス。パピルスの舟でオシリスのバラバラ遺体を集めて、得意の魔法で死者復活を試みました。ところが、オシリスの生殖器だけは見つからず、他人のものを代用したため、夫は現世には蘇れませんでした。その代わり、冥界の王として再生したのです。イシスはオシリスの子を身ごもり、生まれた息子のホルスに復讐を託します。

ふたりの息子、ホルスはハヤブサの頭を持ちます。叔父にあたるセトとの長い戦いの末、セトの好物なレタスに自身の精液を隠し混ぜたホルスが、いよいよ決着をつけたのです。ホルスが新たな王になり、セトは流罪になるのでした。

都市と自動車も登場人物      

映像オペラ『RIVER OF FUNDAMENT』で、登場人物と同等の扱いを受けているのが、都市と自動車です。マシュー・バーニーの『クレマスター』サイクル全5章では、各作品につき、ひとつの都市を舞台にストーリーが展開しています。それについて、都市をキャラクター(登場人物)と同じ扱いにした、と作家は話していました。同様に『RIVER OF FUNDAMENT』でも、第1幕の舞台でロサンゼルス、第2幕でデトロイト、第3幕でニューヨークを登場人物のごとく取り扱ったそうです。

都市と一緒に、自動車も取り上げています。近代アメリカのモータリゼーションを象徴するかのように、ロサンゼルスのフリーウェイや自動車ディーラーが第1幕で映し出されます。第2幕のデトロイトともども、1967年型クライスラーのクラウン・インペリアルが登場します。同型の車両は『クレマスター3』でボコボコに潰されたものです。第3幕のニューヨークでは、2001年型フォードのクラウン・ヴィクトリアを起用。警察のパトカーに採用されたタイプですが、同系の別モデルと対比させつつ擬人的に描いています。

プロジェクトの全体像  

映像オペラに加えて、展覧会やパフォーマンス、書籍を含めたすべてで「River of Fundament」です。逆に言うと、大阪で上映する映像オペラ『RIVER OF FUNDAMENT』は全体の一部です。
また、マシュー・バーニーが「横浜トリエンナーレ2008」に出品した《ヴェールの守護者》(2008)は、2007年に行った「River of Fundament」の関連パフォーマンスを記録したビデオという位置づけになります。よって、《ヴェールの守護者》に類似したシーンが、映像オペラ『RIVER OF FUNDAMENT』に見ることができるのです。

映像オペラ『RIVER OF FUNDAMENT』には、マシュー・バーニーによる他のフィルム作品と同じく、彼の彫刻作品やオブジェが随所に映ります。その意味では、マシュー・バーニーのフィルム作品は彼の立体作品や自身のパフォーマンスの記録と呼べるかも知れません。

                                     

Matthew Barney and Jonathan Bepler RIVER OF FUNDAMENT: BA, 2014 Production Still Photo: Hugo Glendinning
©Matthew Barney, Courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels.

マシュー・バーニー&ジョナサン・べプラー
『RIVER OF FUNDAMENT』

日時:2019年9月1日(日)
会場:大阪市中央公会堂
   (国指定重要文化財)
大阪市北区中之島1-1-2

座席数:651席(前売券が完売の場合、追加席を用意)

2019年9月1日(日)
13:30〜15:25 第1幕(1時間55分)
15:25〜15:45 休 憩(20分)
15:45〜17:33 第2幕(1時間48分)
17:33〜17:55 休 憩(22分)
17:55〜19:30 第3幕(1時間35分)

料金
前売券:全席指定6,500円(パンフレット付)
当日券:全席指定7,000円(パンフレット付)

◎前売券はLivepocket(ライブポケット)の電子チケットのみです。
◎前売券が所定の席数に達した場合、当日券はございません。

前売券:ライブポケットにて発売中
前売券サイト:https://t.livepocket.jp/e/rofosaka

脚本・制作・監督:マシュー・バーニー

制作・音楽:ジョナサン・べプラー

製作:マシュー・バーニー、ローレンツ財団

撮影監督:ペーター・シュトリートマン
プロダクション・デザイン:マシュー・D・ライル
制作担当:マイク・ベロン

出演:
ジョン・バッファロー・メイラー(ノーマン1世)
ミルフォード・グレイヴス(ノーマン2世)
デイブ・ボールド・イーグル(ノーマン3世)
マシュー・バーニー(カー、オシリス:ジェームズ・リー・バイヤーズ)
エミー・マランス(カー、イシス)
ハーバート・ペリー(セト)
ユージン・ペリー(セト)
ジェニー・ナッグス(ネフティス)

主催:トモ・スズキ・ジャパン

協力:Japan Society(New York)、Gladstone Gallery New York and Brussels、Matthew Barney Studio、Angie Naoko

後援:アメリカ大使館(予定)

お問合せ:トモ・スズキ・ジャパン有限会社
メール:mail@tomosuzuki.com
電話 :03-5468-7172(代表)