世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭。
最高賞であるパルム・ドールをはじめ数々の賞が存在するが、毎年注目浴びる賞として知られるのが“パルム・ドッグ賞”。
映画祭の長い歴史のなかで、最も新しい賞である本賞が設立されたのは 2001 年。映画の中で最も優秀な演技を披露した犬たちに贈られるユーモアあふれる賞だが、俳優や監督たちと同様にその評価基準は厳しく、犬たちの演技力が毎年しっかりと審査されている。
演技トレーニングを受けた俳優犬から、演技経験のない素人犬、はたまた人間の手でつくられたアニメーションの犬まで、“犬”とみなされればすべて審査対象となる。
この度、第 71 回目のパルム・ドッグを受賞した『ドッグマン』の公開を記念し、歴代の名犬たちをご紹介いたします!

©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

陽気なイタリアのイメージを覆す、重厚なのにどこか笑える人間不条理悲喜劇。

『ドッグマン』8/23(金)公開

イタリア・ナポリを拠点にする実在のマフィア「カモッラ」の知られざる日常を描いた『ゴモラ』(08)、リアリティー番組に出演しているという自信の妄想に憑りつかれていく男の生活を描いた「リアリティー」(12)の 2 作品でカンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリに 2 度輝いた、イタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督の最新作。イタリアのさびれた海辺の町で <ドッグマン>という犬の撮りトリミングサロンを経営する男の不条理な人生を描く。
2018 年度のパルム・ドッグ賞を受賞したのは本作に出演したチワワのジョイ。劇中、とある不幸な出来事に見舞われるが、犬を愛する主人公マルチェロに命を救われる。人間でもできないような名演を見せたジョイの演技は絶対に見逃せないが、本作にはその他にも多くの犬が出演し素晴らしい演技を披露している。
不条理の穴におちていく滑稽な人間たちの姿を見つめる犬たちの目が見事にすべてを語っている。

ガローネ監督は「犬たちの演出には専門家をつけた。演技の指示はトレーナーを介してやってもらっているが、主演のマルチェロ・フォンテも役のためにドッグトレーナーとトリマーの修業をしてもらったから、犬といい関係を築いていたよ」と語っている。なお、マルチェロも同映画祭で主演男優賞を獲得しており、まさに犬と二人三脚でつかんだ栄光といえる。

鬼才マッテオ・ガローネ監督の衝撃の問題作『ドッグマン』 予告

鬼才マッテオ・ガローネ監督の衝撃の問題作『ドッグマン』 予告

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カンヌ国際映画祭 歴代パルム・ドッグ賞を再検証!

記念すべき第 1 回目受賞者!

『アニバーサリーの夜に』(2001)

『チョコレートドーナツ』や『スパイキッズ』シリーズで知られる俳優アラン・カミングと、『ヘイトフル・エイト』のジェニファー・ジェイソン・リーが共同で監督と脚本を務め、世界中で高く評価され話題をさらった作品。
結婚記念のパーティに集った複数の男女が、宴の果てに自分の心情を次第にさらけ出していく様を自然体で描きだす。パルム・ドッグ賞が設立され、記念すべき第 1 回目の受賞者となったオー ティス。ジェニファー・ジェイソン・リーの愛犬である彼は、劇中でもジェニファーとアラン扮する夫婦の飼い犬役を演じた。

犬を愛する監督は起用する俳優犬にもこだわりが

『過去のない男』(2002)

フィンランドの巨匠監督、アキ・カウリスマキが、過去の記憶をすべて失った男を主人公に描く再生と希望の人間ドラマ。
カウリスマキ 作品を語る上で触れなくてはならない存在といえば、犬。彼が監督するほとんどの映画に犬が登場するが、本作で獰猛なハンニバル 役を演じたタハティが初の受賞を果たした。同じ血筋の俳優犬ファミリーを代々起用しているカウリスマキだが、本作のタハティは『ラヴィ・ド・ボエーム』(92)のライカ、『白い花びら』(98)のピートゥに続く 3 代目となる。過去にカウリスマキは「私は犬が好きなんだ、人間よりもね。犬は正直だし、嘘をつかない」と発言するほどの犬好き。

これもあり?100%人間の手によってつくられた犬の演技が評価!

『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)

ディズニー・ピクサー製作の冒険ファンタジーアニメーション。
偏屈で孤独な老人カールと好奇心旺盛な少年ラッセルの 2 人が伝説の滝を目指し家に風船を括り付けて飛び立つという奇想天外なストーリーで世界中で大ヒットとなった作品。
フル CG アニメーションで作られた犬のダグが受賞。犬の翻訳機を首からぶら下げ、人間のように台詞を与えるという画期的な演出でこれまで描かれることのなかった犬の感情を表現。ダグの行動や思考は、獣医やドッグトレーナーなど専門家に協力してもらい試行錯誤しながら作り上げられたものである。

モノクロ&サイレントでより際立った革新的な演技力

『アーティスト』(2011)

サイレントからトーキーへ、劇的な変化が訪れた黄金期のハリウッドを舞台にモノクロ&サイレントで描き、見事に2012 年のアカデミー 賞®作品賞に輝いたロマンティック・ストーリー。
主人公のチャーミングな愛犬ジャック役を演じたタレント犬アギーはパルム・ドッグ賞受 賞犬のなかでも 1 番名が知れているといっても過言ではない。本作での名演が多くの人々の心を惹きつけ、著名なハリウッドスターの手形が並ぶグローマンズ・チャイニーズ・シアターにアギーの足型が刻まれたタイルが設けられたり、自伝を出版したりと一躍ブームを巻き起こした。2015 年に前立腺腫瘍の闘病の末 13 歳で他界し、世界中で報道された。

息を合わせた演技が大迫力!250 匹が一斉受賞

『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』(2014)

身勝手な人間たちによって虐げられた犬たちが群れになって反乱を巻き起こす衝撃の展開が話題を呼び、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でもグランプリに輝いた異色ドラマ。
想像を絶する演技を披露した250 匹の犬たちに賞が与えられたが、実際に撮影に参加した犬の総数は 274 匹。この数字はこれまで犬が出演した映画の中で最多の世界記録。出演したほとんどの犬は保護施設出身で、演技のトレーニングを始めたのは撮影が始まるたった 4 か月前。そして映画撮影後にはすべての犬に里親が見つかったという、幸せなエピソードも。

そして、2019年本年の第 72 回カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞に輝いたのは 8 月 30 日公開となるクエンティン・タランティーノ監督最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でブラッド・ピット演じるクリフ・ブースの愛犬ピット役を演じたブルテリアのブランディが受賞。

『ドッグマン』とあわせ、去年と今年の受賞犬の名演を劇場で観れる、犬好きにはたまらない貴重なチャンスとなっている。

監督:マッテオ・ガローネ(『ゴモラ』、『リアリティ』、『五日物語~3つの王国と 3 人の女~』)
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アダモ・ディオニージ
原題:DOGMAN | 2018 年 | イタリア=フランス | イタリア語 | カラー | シネマスコープ | 5.1ch | 1 時間 43 分 | PG12 | 字幕翻訳:石井美智子
配給:キノフィルムズ/木下グループ
宣伝プロデュース:ブレイントラスト
©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

8 月 23 日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開