「富野由悠季の世界-ガンダム、イデオン、そして今」展示風景- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

伝説巨神イデオンのフィギュア- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

映画とアニメーション

 フィルムを使ったアニメーションは、1892年にフランス人のシャルル・エミール・レイノーの「テアトル・オプティーク」と呼ばれる動画をスクリーン上に投影する装置が、世界で最初といわれています。
1891年には発明家のトーマス・エジソンによって発明された一人で箱の中の動画を覗く「キネトスコープ」、1890年代にフランスのルミエール兄弟によって、フィルムを幕に映写することができる「シネマトグラフ」が生み出されました。これらの映画の技術から、現在のアニメーションが生み出されました。
1928年には、アメリカのウォルト・ディズニーによって、短編アニメーション作品の「蒸気船ウィリー」が公開され、その後の1932年にはフルカラーのアニメーションが制作されました。さらに1937年にはウォルト・ディズニーによって、長編のアニメーション映画の「白雪姫」が制作公開されています。

劇場版 機動戦士ガンダムポスターのイラスト原画- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

東映動画と虫プロ

 1956年に、日本の映画の製作配給会社の東映株式会社が東映動画株式会社(現、東映アニメーション株式会社)を設立、本格的な長編のアニメーションの制作が始められ、1958年には日本最初のカラーアニメーション映画の「白蛇伝」が制作されました。これは、ウォルト・ディズニーのように、海外に通用する国産アニメーション作りを目的にしていました。
東映動画は、1960年代に活発に長編のアニメーション制作を手がけ、1968年「太陽の王子 ホルスの大冒険」、1969年「長靴をはいた猫」といったいくつもの名作を生み出しました。
 1962年には株式会社虫プロダクション(旧虫プロ)が、漫画家の手塚治虫により設立され、1963年から1966年までテレビ放映されたモノクロのアニメーション「鉄腕アトム」、同じく1965年から1966年までテレビ放映されたフルカラーのアニメーション「ジャングル大帝」が制作されています。東映動画や虫プロは、リミテッド・アニメーションを多用し、フルアニメーションは1秒24コマを基本に制作していましたが、東映動画は1秒12コマ、虫プロは1秒8コマを多用して制作し、特に虫プロは、テレビアニメーションで世界中に知られるようになりました。

戦闘メカ ザブングルのイラスト原画- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

日本サンライズと富野由悠季監督

 富野由悠季は、日本大学芸術学部映画科卒業後に、1964年に手塚治虫率いるアニメ制作会社「虫プロダクション」に入社し、「鉄腕アトム」の制作に携わりました。演出志望だった富野は、「鉄腕アトム」の演出を数多く担当し、多くの絵コンテを描きました。1967年にフリーとなり、数多くのアニメの絵コンテの仕事をしながら、1972年に「海のトリトン」で初めて総監督を務めます。
 原作は手塚治虫の漫画「青いトリトン」でしたが、キャラクター設定のみを採用し、ストーリーは全てオリジナルで制作されました。善と悪の図式を覆す最終話の衝撃は、現在も語り草となっており、「富野アニメ」の原点といえます。
 虫プロ出身者を中心として設立された「日本サンライズ」(現・サンライズ)が自社制作として初めて手掛けたアニメが、「無敵超人ザンボット3」でしたが、富野はこの作品の総監督を務めます。おりしも、1972年放映の「マジンガーZ」以来、侵略者を倒す正義のロボットのアニメは子供たちにとても人気がありました。同社はこれまでにないロボットアニメを作ろうと、富野に白羽の矢を立てます。富野は、「ロボット=良きもの」というパターンに疑問符を突きつけ、地球人に疎まれる主人公一族や、侵略者との善悪の相対化がなされるラストといった、リアルで奥行きのあるドラマを作り上げました。ロボットの設定だけでなく、登場人物の細やかな設定や心理描写、シリアスなストーリー運びは、この後に制作される「機動戦士ガンダム」の出発点となりました。

機動戦士ガンダム レイアウト第1話- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「機動戦士ガンダム」とニュータイプ

 1979年に「機動戦士ガンダム」が制作放映されます。本作の最も特徴的な点は、人類同士の戦争を描いたことにあります。その舞台は、宇宙移民が行われて半世紀が経過した近未来の地球。宇宙空間に作られた人工の居住地「スペースコロニー」が多数地球の周りに浮かぶ時代、宇宙移民者と地球連邦政府の対立が戦争へと発展し、そのための兵器として「ロボット=モビルスーツ」が設定されました。
 メカデザイナーの大河原邦男によってデザインされたそれらの中には、富野自身によってデザインラフが描かれたものもあります。しかし作品におけるストーリーの主軸は、思春期の主人公アムロ・レイと仲間たちの成長を中心とした青春群像劇です。手強いライバルや仲間との出会いを通して成長するアムロは、やがて「ニュータイプ」の能力を覚醒していきます。「ニュータイプ」は宇宙移民時代における新しい環境に順応した人類として、物語後半の重要なテーマとなります。思考認識能力が拡大し、言葉を交わさなくとも一瞬で理解し合える「ニュータイプ」の悲劇と希望を描き切った本作は、劇場版の公開で人気を集め、以後のアニメに多大な影響を与えました。

聖戦士ダンバインのメカ設定- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

ガンダム Gのレコンギスタ- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「機動戦士ガンダム」以後の富野由悠季作品

 富野は1980年に「伝説巨神イデオン」、1982年に「戦闘メカ ザブングル」、1983年「聖戦士ダンバイン」、1984年「重戦機エルガイム」と、テレビアニメを毎年次々に生み出していき、1985年には「機動戦士ガンダム」の7年後を描いた「機動戦士Zガンダム」を制作してガンダムシリーズの幕を開けます。
 「機動戦士ガンダム」放映20周年の記念作品として、1999年に「∀(ターンエー)ガンダム」が、富野由悠季総監督のもと制作されました。メカニックデザインには、映画「ブレードランナー」のデザインで知られるシド・ミードを起用しています。∀ガンダムはヒゲのようにみえる角がついたデザインが特徴的で、従来のガンダムとは異なる世界観を打ち出そうとした富野の意欲が強く感じられる作品です。
 「機動戦士ガンダム」以後の、富野由悠季作品に共通するのは、それまでのロボットアニメから、前述の「ニュータイプ」、「伝説巨神イデオン」の「イデ」、「戦闘メカ ザブングル」の新しい人類「シビリアン」、「聖戦士ダンバイン」では中世ヨーロッパを思わせるもう一つの世界「バイストン・ウェル」といった新しい世界観が作られ、現在の社会そのものを深く考えさせられる、従来のアニメーションを超えた作品であったともいえます。
福岡市美術館の今回の展示では、大小3,000点を超える圧巻の展示で、まさに富野由悠季の世界を体現した展覧会となっています。

「富野由悠季の世界-ガンダム、イデオン、そして今」展示風景- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

富野由悠季の世界-ガンダム、イデオン、そして今 概要
会  期:2019年6月22日(土曜日) ~ 9月1日(日曜日)
休館日:月曜日※7月15日と8月12日は開館し翌日休館
開館時間:9:30~17:30
※7・8月の金・土曜日は午後8時まで開館(入館は閉館の30分前まで)
入館料:当日券:一般 ¥1,400(¥1,200) 高大生 ¥700(¥500) 小中生 ¥500(¥300)
※( )内は前売りおよび20名以上の団体、満65歳以上の割引料金
会  場:福岡市美術館
     〒810-0051 福岡市中央区大濠公園1-6
     phone 092-714-6051
     fax 092-714-6071
特設サイト:https://www.tomino-exhibition.com/
主  催:福岡市美術館 西日本新聞社 九州朝日放送
助  成:公益財団法人福岡文化財団
企画協力:神戸新聞社
協  力:サンライズ 東北新社 手塚プロダクション 日本アニメーション オフィス アイ
後  援:福岡県 福岡県教育委員会 福岡市教育委員会 公益財団法人福岡
市文化芸術振興財団 西日本鉄道 九州旅客鉄道

「富野由悠季の世界-ガンダム、イデオン、そして今」記者会見(写真は富野由悠季氏)- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「富野由悠季の世界-ガンダム、イデオン、そして今」cinefilチケットプレゼント!
ご提供組数 5組10名様

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、福岡市美術館チケットプレゼント係宛てに、Eメールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、記名ご本人様のみ有効の、チケットをプレゼントいたします。
チケットは、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。
応募先Eメールアドレス
info@miramiru.tokyo
応募締め切りは2019年8月18日日曜日
記載内容
1.氏名<※必須>
2.年齢<※必須>
3.当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)<※必須>
4.ご連絡先Eメールアドレス、電話番号<※必須>
5.記事を読んでみたい監督、俳優名(複数回答可)
6.読んでみたい執筆者(複数回答可)
7.連載で、面白いと思われるもの(複数回答可)
8.連載で、面白くないと思われるもの(複数回答可)
9.シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せください。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせていただきます。

森秀信 プロフィール

1966年長崎市生まれ。
武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了後、現代美術センターCCA北九州リサーチプログラム修了。
主に現代美術の創作活動の他、展覧会のキュレーションやワークショップの企画を担当。専門は現代美術。