7月19日、ノルウェイの監督ラース・クレヴバーグの二作品「ポラロイド」と「チャイルド・プレイ」が同時に公開される。二作品ともホラーで、前者はポラロイド・カメラ、後者はAI人形が恐怖を生み出す重要なファクターとなっている。
クレヴバーグは幼いころから映画と写真撮影が大好きで、2012年に滅亡後の都市を描いた「ザ・ウォール」を撮って注目された。
17年にポラロイド・カメラで撮影すると、死が訪れるという短編ホラーを監督。
スペインの映画祭で最優秀ショートホラーフィルム賞を受賞し、ハリウッドの目に留まって長編化されることになった。
フィルムに映像を記録する従来のシステムでは、現像・焼き付けという工程が必要だが、ポラロイドは撮影してしばらくすると印画紙からイメージが浮き上がってくる。手作り感と簡便性が、デジタル時代になってもインスタント写真に人気があるゆえんだろう。
舞台はアメリカに移してのリメイク(ただし、実際の撮影はカナダ)。フィルム・カメラが好きで、ペンタックスを携行してシャッターを押している女子高生バード。学校では変わり者扱いされていて、浮いた存在だ。バイト先のアンティーク・ショップで、最近入荷したポラロイドのカメラとフィルム一式を譲り受けた。そのカメラで友人たちを撮影するが、出来上がった写真にはなぜか黒い人影のようなものが映っていた。やがて、影は被写体に近づき、命を奪っていく。
理由はわからないが、影の映った写真の被写体が殺されることに気づき、友人たちは必死に助かる方法を探そうとする。彼女は密かに恋するコナーとともにカメラの前の持ち主を探して事情を問いただそうとするが、既に死亡しており、未亡人は口を閉ざしている。所有者の怨念、呪詛が乗り移ったがごとくポラロイドは殺人を着実に進めていく。
登場人物のキャラクターの描き分けがうまく、ストーリー展開、ホラー演出もなかなか上手。過去の殺人事件がミステリー効果をうみだし、スリラーとしても楽しめる。
バードに「僕のワンダフル・ジャーニー」のキャサリン・プレスコット、コナーに本作がデビューとなるタイラー・ヤングが扮し、謎の鍵を握る人物としてTV「ツイン・ピークス」のグレイス・ザブリスキーとTV「X-ファイル」のミッチ・ピレッジが出演している。
「チャイルド・プレイ」は88年に公開された同名作のリブートとして製作された。88年作は、刑事に追われた連続殺人鬼チャッキーが、ヴードゥの秘術で人形に自分の魂を転移する。だが、このままだと永遠に人形にとらわれたままなので、人形の持ち主アンディの体を乗っ取ろうとする。アンディはこれに気づくが、おとなは幼い彼の言葉を信用せず、チャッキーによる殺人が連続する。ヒットしたので6本の続編が作られ、コミック、TVゲーム版も作られた。
今回の「チャイルド・プレイ」は、カスラン社がAIおもちゃとして企画・商品化したバディ人形が凶行をくり広げる。バディは音声認識、センサー付きカメラ、高解像度画像認識といった機能を持ち、持ち主の命令を実行するほか、掃除機、ドローン、スピーカーの操作も可能だ。改良型のバディ2がインドの工場で製作されるが、上司のパワハラに腹を据えかねたンジニアの一人が、バディの行動制御プログラムを全部取り外してしまう。その運命の一体がアンディの手にわたる。
「君が一番の親友だよ」と言うチャッキーは、アンディの大人に対する悪口を聞いて、忠実に実行しようとする。様子がおかしいことに気づいたアンディが、ゴミとして捨ててしまうも、それを拾った用務係が修理して再生。まずチャッキーは用務係を屠り、アンディの周りの人物を次々に死に至らしめる。
AI時代らしく、スマホやコンピューターといった要素を入れて再構築。グロテスクな場面もあるが、さほど嫌悪感を感じさせるレベルではない。スーパーマーケットにおけるドローン攻撃のスピーディな描写、アンディと仲間の少年たちとの連携プレイ等々、恐怖戦慄シーンだけではなく、バランスのとれた構成がいい。
チャッキーの声を担当したのはマーク・ハミル。母親カレンにオーブリー・プラザ、アンディにガブリエル・ベイトマンが扮している。
70年代半ばから映画評論を始めた私にとって、冒頭でオライオンの星がくるくる回るロゴが登場したのを見たとき、感慨もひとしおだった。オライオン・ピクチャーズは1978年に創立され、「アマデウス」「プラトーン」「羊たちの沈黙」「ハンナとその姉妹」といったアカデミー賞作品を配給するも、経営破綻して91年に倒産。97年にMGM傘下となり、主にテレビを手掛けていた。
2017年に劇場映画の配給を手掛けると発表し、スタッフも揃えて、その第一回作品となったのが本作「チャイルド・プレイ」である。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
『ポラロイド』
『ポラロイド』本予告
【ストーリー】
さぁ笑って。その笑顔が人生最期の1枚になる。
アンティークショップで偶然手に入れた年代モノのポラロイドカメラ。SNS世代の高校生バードたちはシャッターを押せば写真が出てくるその“新感覚”なカメラに夢中になる。しかしその後、撮影された友人が次々と悲惨な死を遂げていく。死の順番とその法則。被写体の傍に必ず写り込み、死ねば別の被写体に移動する不可解な<影>。連鎖する悪夢の元凶がこのカメラにあることに気付いたバードだったが、自らも写真に写り込んでいることが発覚し―。
■監督:ラース・クレヴバーグ
■製作:ロイ・リー 『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』『ザ・リング』
■出演:キャサリン・プレスコット、グレイス・ザブリスキー、タイラー・ヤング、サマンサ・ローガン
■原題:Polaroid/2017/アメリカ/英語/カラー/シネスコ/5.1CH/88分/字幕翻訳:チオキ 真理
■配給:ギャガ・プラス
©2019 DPC SUB 1A1, LLC
ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
『チャイルド・プレイ』
『チャイルド・プレイ』予告
【ストーリー】
最先端テクノロジー企業・カスラン社の期待の新商品、“バディ人形”。
引っ越しをして友達がいない少年アンディは、誕生日に音声認識やセンサー付きカメラ、高解像度画像認識などの機能が付いた高性能人形を母親からプレゼントされる。
自らを“チャッキー”と名乗る人形だが、実は欠陥品だと判明。的外れな受け答えに最初はあきれるアンディだが、「君が一番の親友だよ」と話すチャッキーに次第に夢中になる。その後、“彼”が豹変することなど知らずに――。
■監督:ラース・クレヴバーグ
■製作:セス・グレアム・スミス、デヴィット・カッツェンバーグ(『IT/それが見えたら、終わり。』)
■脚本:タイラー・バートン・スミス
■出演:オーブリー・プラザ、ガブリエル・ベイトマン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、マーク・ハミル(声の出演)
■全米公開:6月21日(金)
■原題:CHILD’S PLAY
■配給:東和ピクチャーズ