英国を代表する美術評論家ジョン・ラスキンの生誕200年を記念する「ラファエル前派の軌跡」展が東京展でも人気を博し、引き続き、久留米市美術館で6月20日(木)から9月8日(日)まで開催されます。
ラスキンは19世紀の英国最大の美術評論家で、生涯を通じてターナーを評価し、自然に忠実に素描することの重要性を説き、全5巻からなる『現代画家論(Modern Painters)』を著しました。
19世紀ヴィクトリア朝の英国では盛期ルネサンスの巨匠・ラファエロの芸術を理想とする古典主義が権威を振るっていましたが、これに反対する若い画学生たち、ロセッティや、ミレイ、ハントなどが、ラファエロ以前の、絵画が自然に忠実であった時代に立ち返ろうと1848年にラファエル前派同盟を結成したのです。
これは19世紀半ばのフランスにおける印象派と並ぶ、革新運動でした。
ラスキンは伝統を打ち破り、自身の思想を実践してくれる、いわば当時の前衛画家たちを擁護し、ラファエル前派同盟を支えました。
本展では、ラスキンが擁護したターナー、初期「ラファエル前派」のロセッティ、ミレイ、次の世代のエドワード・バーン=ジョーンズ、「アーツアンドクラフツ運動」の先駆けともなるウィリアム・モリスなどの絵画や素描、ステンドグラスや家具など約150点が一堂に会します。
優美で色彩豊かなロセッティの作品をはじめ、ドラマティックな美術革新を遂げ、花開いた19世紀の英国芸術を是非この機会にお見逃しなく、ご堪能ください。
では、シネフィル上でも展覧会と同様、5つの章に分け、代表的作品を見ていきましょう。

第1章 ラスキンとターナー

ジョン・ラスキン(1819-1900)は、13歳の誕生日に贈られた本の挿絵にターナーのイタリアの情景が使われていたことで、ターナーの風景画と出会いました。
ターナーの水彩画は高く評価されていたのですが、次第に画風が変化し、美しい風景画から、荒々しい筆致で自然の驚異を描くようになると、理解されなくなりました。
ラスキンは、これに対し、自然を忠実に観察し、描いていると主張し、ターナーの革新的な自然表現を評価しました。

ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー《カレの砂浜−引き潮時の餌採り》1830 年 油彩/カンヴァス ベリ美術館 ©Bury Art Museum, Greater Manchester, UK

ラスキンは美術評論だけにとどまらず、自らも水彩を手がけ、中世建築物の彫刻装飾や、植物、岩などの自然を素描していました。
下記の作品はヴェネツィアを訪れ、歴史的石造建築物を見た時のもので、荒廃した建物をありのままに自分の見た通り、忠実に描写しました。

ジョン・ラスキン《⾼脚アーキヴォールト(飾り迫縁):カ・フォスカリ川岸、ビザンツ帝国期の廃墟̶ヴェネツィア》1849年 鉛筆・⽔彩・ボディカラー/紙 ラスキン財団(ランカスター⼤学ラスキン・ライブラリー) ©Ruskin Foundation (Ruskin Library, Lancaster University)

第2章 ラファエル前派

1848年秋に前衛芸術家集団「ラファエル前派同盟」を7人の画学生が結成しました。
その中心となるダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイは、のちに英国美術に多大な貢献をしました。
彼らは、盛期ルネサンスの偉大な画家ラファエロ以降の絵画表現を理想とする芸術家養成機関ロイヤル・アカデミーの保守的すぎる伝統を打ち破り、あえて、「ラファエル前派」と銘打って、ラファエロ以前の絵画様式に回帰しようと試みました。
ラスキンは彼らの試みを高く評価し、『タイムズ』に発表し、やがて彼らとの交流も始まりました。
美しい女性を主題にしたものがロセッティの作品には多く見られます。
アルフォンス・ミュシャとも通じるものがあるようです。
神話の女神であるウェヌスが豊かな髪を下ろし、胸を露わにして、左手には美の象徴である林檎、右手には矢を持っています。周りは薔薇とスイカズラで取り囲まれ、蝶々が待っています。
優美で色彩豊かなロセッティのロマンあふれる世界です。
ラスキンは、花々の美しさは評価しましたが、女性美を描いた独特の世界には難色を示しました。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》1863-68年頃 油彩/カンヴァス ラッセル=コーツ美術館 ©Russell-Cotes Art Gallery & Museum, Bournemouth

実業家ジェイムズ・リサートは、ロセッティの友人から「ラファエル前派」の作品を紹介され、コレクターになりました。
下記の作品は、ジェイムズ・リサートとマリア夫人の11人の子供の肖像画です。
グリーンとブルーのドレスの色合いが美しく、作者のヒューズは、「グリーン・ブルーのシンフォニ―」と表現したそうです。

アーサー・ヒューズ《ブラッケン・ディーンのクリスマス・キャロル - ジェイムズ・リサート家》1878-79年 油彩/カンヴァス バーミンガム市美術博物館(寄託) ©Birmingham Museum Trust on behalf of Birmingham City Council

第3章 ラファエル前派周縁

1850年以降は、自然に忠実に描くというラスキンの思想は「ラファエル前派」のみならず、
ウィリアム・ダイスなどの同時代の様々な作品に見られるようになりました。
また、ラスキンは細部にまでこだわって絵画や素描を描くように若手画家に勧める「素描の基礎」(1857年)を著しました。
下記のダイスの作品は、ヴェネツィアの画家ティツィアーノの若いころの出来事を描いたものです。
ラスキンも花や草、葉、衣服など細部までリアルに描かれていると称賛しました。

ウィリアム・ダイス《初めて彩⾊を試みる少年ティツィアーノ》1856-57年 油彩/カンヴァス アバディーン美術館 ©Aberdeen Art Gallery

第4章 エドワード・バーン・ジョーンズ

エドワード・バーン・ジョーンズ(1833-1898)、は、「ラファエル前派同盟」や、ラスキンの芸術論に影響を受け、1855年、大学を辞めて、芸術の道に進むことを決め、ロセッティに弟子入りしました。
師や親友ウィリアㇺ・モリス(1834-1896)らとともに、トマス・マロリー著『アーサー王の死』を主題とする壁画を描きました。
また、ラスキンからの助言で、イタリアに赴き、巨匠ミケランジェロのシスティ―ナ礼拝堂の天井画から独学で学びました。
《ピュラモスとティスべー》は水彩で描かれた3連画で、主題はジェフリー・チョーサーが1372年から1386年に書いた『善女列伝』に由来します。
結婚を禁じられた恋人のふたりが、それぞれの家を隔てる壁のわずかな隙間から愛を囁き合う様子が描かれています。

エドワード・バーン=ジョーンズ《ピュラモスとティスべー》1872-76年頃 ⽔彩・ボディカラー/ベラム紙 ウィリアムスン美術館 ©Williamson Art Gallery

第5章 ウィリアム・モリスと装飾芸術

ウィリアム・モリスとバーン=ジョーンズはオクスフォード大学で出会い、共に大学を断念し、芸術の道に進み、生涯の友となり、多くの作品を共同で手掛けます。
詩人としても評価を得たモリスですが、1861年には、家具、ステンドグラス、陶製タイル、壁紙などあらゆる種類の装飾芸術を扱う会社、「モリス ・マーシャル・フォークナー商会」を設立します。(1875年にモリス商会となる)
ラスキンからモリスに受け継がれた手仕事を大切にする考え方は、のちの「アーツアンドクラフツ運動」として発展していきました。
ラスキンと若き画学生たちの情熱により美術革新がなされ、19世紀英国芸術が花開きました。
「ラファエル前派の軌跡」展で、是非、この感動を実感してください。

ウィリアム・モリスとモリス商会《イチゴ泥棒》1883年 綿プリント タリー・ハウス美術館(カーライル、英国) ©Tullie House Museum and Art Gallery, Carlisle, UK

展覧会概要

会期:2019年6月20日(木)〜9月8日(日)
 
会場:久留米市美術館(本館2階) 
 
開館時間:10:00−17:00(入館は16:30まで)
 ※月曜休館(ただし、7月15日・8月12日は開館)
 ※7月17日(水)・8 月18日(日)は18:30までの延長開館(入館は18:00まで)
 
入館料:一般 1,000 円(800円) シニア700円(500円) 大学生400円(200円) 高校生以下無料
 ※( )内は 15 名以上の団体料金、シニアは65歳以上
 ※前売券600円あり
 
主催:久留米市美術館、西日本新聞社、TVQ九州放送
 
監修:クリストファー・ニューオル、スティーヴン・ワイルドマン
 
企画協力:インディペンデント、アルティス
 
後援:ブリティッシュ・カウンシル、久留米市教育委員会
 
協賛:スペシャルパートナー:株式会社ブリヂストン オフィシャルパートナー:学校法人久留米大学、株式会社筑邦銀行、株式会社森光商店
 
交通案内:JR 博多駅より JR 久留米駅まで新幹線で20分、快速で40分
福岡(天神)駅より西鉄久留米駅まで特急で30分、急行で40分会場:久留米市美術館(本館2階)

関連イベント

① 記念講演会 本館1階多目的ルーム/申込・参加費不要/定員70名(先着順)
「ラファエル前派と日本ー驚きの軌跡」
日 時:7月7日(日)14:00(13:30開場)-15:30
講 師:河村錠一郎氏(一橋大学名誉教授)
 
② 美術講座 本館1階多目的ルーム/申込・参加費不要/定員70名(先着順)
「西洋絵画の主題ー神話・キリスト教図像の19世紀」
日 時:8月24日(土)14:00(13:30開場)-15:30
講 師:佐々木奈美子(担当学芸員)
  
③ みゅ〜ず講座 石橋文化会館小ホール/要申込み・参加費
「西洋絵画の主題ーアーサー王伝説とラファエル前派」
日 時:7月25日(木)14:00(13:00 開場)-15:00
講 師:佐々木奈美子(担当学芸員)
参加費:一般1000円 みゅ〜ず・スタンダード会員500円
*展覧会入場料を含む *みゅ〜ず・ミュージアム会員は無料
申込方法:石橋文化センター友の会窓口で直接予約、または、電話予約
*お問合せは石橋文化センター友の会窓口へ(0942−33−2271)
  
④ ワークショップ 石橋正二郎記念館 2 階多目的ルーム/要申込み・参加費
「わくわく!バーン=ジョーンズのステンドグラスを完成させよう」
日 時:8月3日(土)13:00-16:00
内 容:展示中のバーン=ジョーンズの下絵を元に、みんなで大きなステンドグラス風の作品を作ります。完成作は園内のどこかに掲示します。
講 師:瀬戸口朗子氏(洋画家)
対 象:小学生〜一般 定 員:15組(1〜3名のグループ申込み可。小学生のみ参加の場合は引率者が必要)
参加費:500円/人 *小品の持ち帰りあり
申込方法:代表の方(小学生のみ参加の場合は引率者)の氏名(フリガナ)・住所・連絡のとれる電話番号、参加希望人数とそれぞれの年齢(学年)を明記の上、ハガキまたはFAXで久留米市美術館まで。7月16日(火)必着。 *結果は7月20日(土)までに応募者全員にお知らせします。
  
⑤ ギャラリートーク 本館2階エントランス/申込不要/要展覧会チケット
毎週土曜日(8/3, 8/24を除く)、日曜日(7/7, 8/11を除く)14:00 から約20分 
 

「ラファエル前派の軌跡」展@福岡 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、「ラファエル前派の軌跡」展@福岡 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2019年8月25日(日)24:00

1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
5、記事を読んでみたい監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、
  5つ以上ご記入下さい(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるものの、筆者名か連載タイトルを、3つ以上ご記入下さい
 (複数回答可)
9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
   また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。